第303話:伊賀恒久 対 伊賀宗久 その3

身構えていた恒久に向けて、麒麟がゆっくりと進みだした。


「うぉっ!?」

その直後には恒久の目の前まで迫っていた麒麟を、恒久は声を上げながら避けた。


(早っ!!雷速の術使ってなかったらヤバかった!)


「おいおい、油断しちゃダメなんだろ?」

麒麟を避けた先で幻刀を構えていた宗久が、そう言って恒久にいらやしい笑みを向けていた。


「ちっ!」

恒久は咄嗟に幻刀の術を使い、斬りかかってきた宗久の刀身を幻刀で受け止めた。


そのまま身動き出来ずに宗久と幻刀を受け止めていた恒久の脇腹に、突然激痛が走った。


「がっ!」

恒久は突然の衝撃にそのまま横へと吹き飛ばされた。

飛ばされながら恒久が元いたところに目を向けると、麒麟がじっと、恒久を見つめていた。


(クソっ、実質2対1かよ!それにしてもあの麒麟ってやつ、宗時様が出したのと違って角が無いな。まぁ、だからこれくらいのダメージで済んだんだろうけどな!って、もう来やがった!)


恒久がごちゃごちゃと考えている間に、麒麟が恒久に向かって突進してきた。


(ちぃっ!一か八かだ!幻滅の術っ!!)

恒久は迫る麒麟を見つめながら、術を発動した。


しかし麒麟は消滅することはなく、そのまま恒久にその体ごとぶつかった。


「ぐぁっ!!」


恒久はそのまま吹き飛ばされながら、声を漏らした。


「はっはぁー!そいつに幻滅の術は効かねーよっ!!」

恒久の飛ばされた先にいた宗久が、そう言いながら向ってくる恒久を殴りつけた。


辛うじて宗久の拳を腕で防いだ恒久は、そのままその場を離れ、膝をついた。


そこへ再び、麒麟が突進してくるのに気付いた恒久は、苦し紛れに手裏剣を具現化し、麒麟と宗久へと放った。


「馬鹿がっ!今更こんなもん当たるかよっ!」

宗久はそう言いながら手裏剣を避け、


「これで終わらせろ!」

麒麟に向かって叫んだ。


麒麟はそのまま、恒久へと突進し、恒久は為すすべもなく麒麟の頭を体で受け、そのまま後方へと背から吹き飛んだ。


「ぐっ」

背から地面に倒れ込んだ恒久は、声を漏らし、そのまま視界に入った空を見つめていた。


(やべー、こりゃ勝てねーわ・・・ん?)


恒久は空を見つめながら、直前に目に入った光景を思い出していた。


迫る麒麟。

その麒麟の体には、しっかりと恒久の放った手裏剣が刺さっていた。


(あいつ、避けてもいねーのか。ってかあいつ、意識とかあんのか?)

そう思いながら、恒久はプレッソ達のことを考えていた。


煩いくらいに自分の意志で話し、重清を馬鹿にすらするプレッソ達。

そんな彼らは、もちろん恒久の放つ手裏剣など簡単に避けることができる。


それに対して麒麟は、ただ愚直に恒久に向かって突進するだけであった。


(もしかしてあいつに、意識はない?)


恒久はある可能性に気付き、力の入らない足で立ち上がった。


「まだ立ち上がるのか?もういい加減諦めろよ。

麒麟よ、もう1度あの雑魚を吹き飛ばしてやれ!」

宗久が笑いながらそう言うと、麒麟は恒久の方を向き、そのまま走り出した。


「くっ!」

向ってくる麒麟に構えた恒久は、麒麟が目の前に迫った瞬間、雷速の術を発動してその身をかわした。


恒久に避けられた麒麟は、止まることなくそのまま突進し続け、恒久の後ろにあった岩を粉砕して足を止めていた。


(・・・・やっぱそうか)

恒久は、確信した。


(あいつは、術で作られただけの存在だ。意思もなく、ただ命令に従うだけなんだ。具現獣かもと思っちまってたぜ)


フラフラになりながらただ突っ立っていた恒久の体からは既に雷速の術は解けており、もはやその忍力も僅かしか残ってはいなかった。


そんな恒久を見た宗久は、


「はっはっは!最後まで悪あがきを!麒麟!次で終わらせてやれ!」

そう言いながら麒麟に命令した。


その声を聞いた麒麟は、恒久に向き、そのまま走り出した。


(こいつを作る直前、あいつ宗久からは心の力が溢れていた。ってことは、麒麟はやっぱり、心の力を使った幻術だ!)

恒久は確信し、麒麟に向かって最後の力を振り絞って声を上げた。


「やっぱお前は幻術だっ!消えろっ!!幻滅の術っ!!」


恒久の目の前に迫った麒麟は、その体を恒久へとぶつける直前、朧気だった姿が霧となり、そのまま霧散していった。


「へっへっへ、やりぃ」

恒久はそう呟き、そのまま倒れ込んだ。


「クソっ!なんで幻獣の術が、幻滅の術で消されてんだよ!」

その光景を見ていた宗久は、近くのきを殴り付け、幻刀の術で刀を作り上げながら恒久の元へと歩いて行った。


「クソ雑魚が!でもこれで、終わりだっ!!」


そう言って宗久が恒久へと幻刀を突き刺そうとした瞬間、宗久は吹き飛んだ。


「馬鹿者が。末席如きに幻獣の術を使った挙げ句、破られおって」

宗久を殴り飛ばした宗時が、木に激突して気を失った宗久を見つめながら、呟いていた。

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