第304話:雑賀雅へのつっこみ
「しかし、よくあれが幻術であると気付いたな。いくら幻獣の術が幻滅の術に耐性を持っているとはいえ、一度は幻滅の術が通用しなかったというのに」
息子を殴り飛ばした宗時は、そう言って恒久に目を向けた。
「あぁ、えっと・・・」
恒久はチラリと気絶している宗久に目を向けてから、宗時へと答えた。
「俺、最初はあの麒麟が幻術だと思いました。でも、幻滅の術が効かなかったから違うんだ、あいつは具現獣に近い存在なんだと判断しました」
「ふむ。そう考えるのも仕方はないだろうな。
ちなみに、何故最初に使った幻滅の術が通用しなかったか、分かるか?」
「はい、多分ですけど」
宗時の言葉に頷きながら、恒久は続けた。
「俺が最初に幻滅の術を使ったとき、俺はまだあの麒麟が本当に幻術なのか、確証は持っていませんでした。
ただ、幻術だと決めつけていただけだったんです。多分、それが駄目だったんだと思います。
半信半疑のままつっこむなんて、普通しませんから」
恒久がそう言うと、宗時は満足そうに頷いた。
「その通りだ。幻滅の術は、術者が対象を明確に幻術だと判断しなければ、その能力を最大限引き出すことはできん。
しっかりとその正否を見定め、的確に
あの馬鹿には、その当たりが全くできておらんのだ」
宗時はそう言って、未だ気絶する息子を情けなさそうな目で見つめていた。
「それで、なぜそこからあれが幻術だと分かった?」
息子から目線を外した宗時は、そう言って恒久へと視線を戻す。
「俺、具現獣と接する機会は多いんです。忍者部に、3体も契約してるバカがいるんで」
「ほう。中学生で3体も。まさかそいつ、血の契約者か?」
「はい。雑賀重清、雑賀平八さんと雅さんの孫です」
「・・・あの2人の、孫か」
そう呟いた宗時の表情から出る感情を、恒久は読み取ることができなかった。
「やはり、もはや血の契約者だけで修行するのことは、今の時代には合わないのかな」
宗時はボソリと、呟いていた。
「しかし、あの2人の孫と一緒に修行できるとは、中々良い経験だな」
「あぁ、はい。あいつのせい、いや、お陰?で、つっこみだけはたっぷりできますから」
「ちょっと待て。お前まさか、あの2人の孫につっこんでいるのではないだろうな。先程も『バカ』などと言うていたが」
「あー、ほぼほぼ、俺がつっこむのは重清ですよ。たまに勢いで、雅さんにまでつっこんじゃいますけど」
恒久こ言葉に呆然とした顔を向けた宗時は、突然笑いだした。
「あの雑賀雅に、つっこんだ、だと?私の長年の夢を、お前は簡単にやってのけたのか!」
「いや、簡単にじゃないですよ。雅さんにつっこんだら、漏れなくチビリそうなくらいの殺気を向けられますからね」
「はっはっは!あの雑賀雅の殺気を受けて、チビリそうなくらい、ときたか!私など昔、つっこもうとした瞬間殺気を向けられ、気絶したというのに」
突然あらわになった宗時の黒歴史に、恒久が気まずそうに笑っていた。
「いやー、気に入ったぞ、伊賀恒久よ」
そう言って宗時は、笑顔でじっと恒久を見つめた。
(うわ。初めて名前呼ばれたよ)
そんな宗時を、恒久はそんなことを考えながら見つめ返した。
「もしもお前が具現獣と契約することがあったら、直ぐに私の元に来なさい」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
宗時がそう言うと、先程まで気絶していた宗久がヨロヨロと立ち上がりながら怒鳴り声を上げた。
「なんだ宗久、目を覚ましたのか?」
「あぁ!たった今な!それより親父!今のはどういうことだよ!?まさかそんな末席に、あの術を―――」
「そのつもりだが?」
宗時は宗久の言葉を遮るように、息子をじっと見つめて言い返した。
「ふざけるな!あれは、当主を継ぐ、俺に引き継がれる術のはずだろうが!?」
「あぁ、そのつもりだったのだがな」
「当てつけかよ!?俺がそいつに術を破られたからそんな―――」
「黙れ、馬鹿者が。まだそんなことを言っているのか。お前が術を破られることなど、想定していたわ!」
宗時に言い返された宗久は、その言葉に項垂れながらも、
「本気、なのか」
そう、言葉をひねり出した。
「あぁ、本気だ。そうだ、それを証明してやろう」
宗時はそう言うと、懐から1枚の紙を取り出した。
それは、宗時の術の契約書であった。
宗時が術の契約書を持って目をつむると、
「ピロリンッ♪」
恒久の脳内に、着信音が鳴り響いた。
恒久が慌てて術の契約書を具現化すると、そこには、1つの術が加わっていた。
『幻獣の術』
「「マジかよ」」
恒久と、いつの間にか側に来ていた恒吉が、声を揃えるのであった。
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