第302話:伊賀恒久 対 伊賀宗久 その2

「はぁーっ!」

恒久は声を上げながら、幻刀で宗久へと斬りかかった。


「ふん」

しかし宗久は、恒久の攻撃を片手で持った幻刀で受け止めた。


(ちっ、心の力はあっちが上ってか!)


先程とは逆に、自身の攻撃を容易く受け止められた事に、恒久は心の中で舌打ちをしながら後方へと距離をとった。


「はっ、やっぱ分家だな。その程度かよ。少し付き合ってやるよ。かかってこい」

旨はそう言いながら、もう一本幻刀を出現させた。


左右に持たれた幻刀を構えながら、宗久は恒久へと手招きした。


「本家様は随分と余裕なことで。そんじゃ、ちょっとお付き合いいただきましょうかね!」

恒久はそう言いながら、宗久へと斬りかかった。


恒久が何度も斬りつけるその斬撃の全てを、宗久は両手の幻刀で容易く弾いた。


しばし続いたその攻防に飽きたかのように、宗久は気だるそうに口を開いた。


「もういい。これで終わりだ」

その言葉と同時に宗久から心の力が溢れ出し、直後、恒久の幻刀がその手から消滅した。


(ちっ、幻滅の―――)

恒久がそう考えているすきに、宗久は恒久を斬りつけた。

「ぐっ」

腕を斬りつけられた恒久は、その痛みに声を漏らした。


「油断してんなよ!?」

痛みに耐える恒久を、宗久はそう言いながら蹴りつけた。


「ぐぁっ!!」

そのまま吹き飛んだ恒久は、近くの岩へと背中から激突した。


「これで終わりだぁ!!」

岩へと吹き飛んだ恒久を追った宗久が、そう叫びながら2本の幻刀を、恒久の両肩へと突き刺した。


「・・・・・・・・」

声すらもあげず串刺しになった恒久に、


(ふん。痛みで気絶しやがったか)

宗久はそう思いながら恒久の顔に目を向けた。


「なっ!?」


しかしそこには、ヘノヘノモヘジで描かれた雑な恒久の顔が、への字口を痛みに歪ませているだけであった。


その直後、宗久の足元から地面が失われた。


「うぉっ!!」


宗久はそんな声とともに、足元に突然できた穴へと落ちていった。


それと同時に、ヘノヘノモヘジな恒久の姿が霧散し、その足元の地面から恒久が飛び出してきた。


「やっべ!今のはマジでヤバかった!」


恒久はそう言いながら、宗久の落ちた穴から距離を取った。


「クソっ!土穴どけつの術だと!?バカにしやがって!!」

落ちた穴から飛び上がった宗久が、怒りの形相で恒久わ睨んだ。


「いやー、やっぱ本家様に、心の力だけでやろうとするの自体が間違いでしたよ。ここからは、伊賀とか関係なく、俺個人の力で、やらせてもらいますよ!」

恒久はそう言うと、金の力を放出し、術を発動した。


雷速らいそくの術!)


恒久の足を、白いいかずちが覆った。


「なに!?」

「いや、油断しちゃダメっすよ?」

宗久が声を上げたときには、雷速の術によるスピードで宗久の元まで近づいた恒久が、そう言いながら宗久の腹に、拳を叩き込んでいた。


「ぐっ」

「まだまだぁ!!」


そのまま恒久は、超スピードで動きつつ、四方から宗久に拳を叩き込んだ。


宗久はただ、その拳を全身に浴びていた。


その時。


「調子に乗るなーーーっ!!」


宗久は叫びながら、黄色い土の忍力と心の力を放出した。


「くっ」

宗久から一気に溢れ出た忍力に、恒久は後方へと飛ばされた。


(おいおい、マジかよ)

そのまま着地した恒久は、宗久に目を向けて心の中で呟いた。


(あの忍力量、茜くらいはあるんじゃねーか?)

恒久は、ゴクリと喉を鳴らした。


2中忍者部において2番目に忍力量の多い茜と同等の忍力に、恒久の額からは汗が流れ始めていた。


「この末席が!俺を本気にさせやがったな!お前ら末席じゃぁ手の届かない、本家の力を見せてやる!!」


そう言った宗久の目の前に、溢れ出た土の忍力と心の力が集中し始めた。


その2つの力は互いに混ざり合い、何かを形作り始めていた。


恒久がその光景に目を奪われていると、2つの力が次第に、動物の様な形へと変わっていった。


「あ、あれは・・・」


恒久は、そこに現れた動物に、声を漏らした。

恒久の目に入ったのは、小会議室5291室で見たものに似ていたのだ。


体はそれよりも小さく、姿もどことなく朧気ではあったものの、紛れもなくその姿は、小会議室5291室で恒久にその角を突きつけていた動物であった。


「我が伊賀家の守護獣と言われる麒麟キリン!この『幻獣の術』は、その麒麟を具現化する術なんだよっ!」


(あ、説明ありがとうございます)


何が起きたか分からなかった恒久は、しっかりと現状を説明してくれた宗久に、心の中で感謝していた。


「と、そんな場合じゃねーな。こりゃちょっと、ヤバくね?」

恒久は現れた麒麟に身構えながら、声を漏らすのであった。

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