第23話:心の試験再び

試験最終日、聡太は家を出て、隣の重清の家へと向かう。

昨日の夕方、重清が謝りに来てくれたおかげで、聡太の心はこれまでの数日間とは違い、晴れ晴れとしていた。

そんな聡太を玄関で出迎えた重清の顔は、見るも無残な程に憔悴しきっていた。

(この短時間で、シゲに何が。。。)

そう思った聡太は、重清に話しかける。


「シゲ、おはよう。あの、なんか大分疲れてるみたいだけど、大丈夫??」

「あぁ、大丈夫だよ。おはよう、ソウ。久しぶりだな。」

「聡太、おはよう!」

重清と、重清の頭の上のプレッソがそう言う。

「久しぶりって、昨日会ったばっかりじゃん!って、ちょっと待って。今、なんか2人分の声がしたんだけど!」

突然のことに驚いている聡太の前に、重清の頭から飛び降りてプレッソが話し出す。

「オイラだよ!聡太!」

「うわっ、ちょっ、シゲ、プレッソ喋っちゃってるよ!?」

「あぁ、そうなんだよ。3日前、いや、昨日?今日?めんどくさいな。とりあえず、少し前から話せるようになったんだ。」

そう言って重清は、玄関で聡太にこれまでの事を簡単に話す。

「もうなんか、色々と聞きすぎて頭がゴチャゴチャだよ。シゲがそんなに疲れてるのは、血の契約ってやつの影響なの?」

「いや、これはばあちゃんの修行のせいだよ。ばあちゃん、想像以上に鬼ババァだった。」

「誰が鬼ババァだって?」

突然、そんな声が聞こえてくる。


重清がその声にビックリして周りを見てみると、周りには誰の姿もなかった。

「やべー、もはや幻聴まで聞こえるようになってきたよ。」

雅の姿を確認できなかった重清が苦笑いしながらも安心してそう言って聡太に目を向けると、聡太が青い顔をして重清を見ていた。

「シゲ、今の声、ぼくにも聞こえたよ。でも、一体どこから?」

それを聞いた重清は、青い顔をして周りを再度確認する。

しかし、雅の姿は見つからない。

「プレッソ、ばあちゃんの気配あるか?」

「いや、なんにも感じない。あの鬼バ・・・おばあさま、何でもありじゃんか。」

プレッソが体を震わせながらそう答える。


2人と1匹は目を合わせて、先程のことを忘れるように、

「あ!早く行かないと遅刻しちゃうな!じゃ、いってきまーす!」

そんな重清の言葉に続いて、玄関を出るのであった。

((もう金輪際、ばあちゃんの悪口を言うのはよそう。))

重清とプレッソだけが、心の中でそう近いながら。


「そう言えば、これからプレッソはどうするの?」

「あぁ、とりあえず、プレッソとは離れてても話せるようになったから、学校の間は自由に遊ばせることにしたんだ。で、授業終わったらプレッソに人目につかない所に移動してもらって、部室で召喚するようにするつもりなんだ。」

「そうなんだ。よかったね、プレッソ!」

「にゃぁ!」

聡太の言葉に、プレッソが嬉しそうに鳴く。

先程まで話していたプレッソが、猫の鳴き声を出したことを不思議に思った聡太は、周りを見て納得する。

「プレッソの声って、他の人にも聞こえちゃうの?」

「あぁ、そうらしい。本当は、おれらだけに聞こえるようにもできるらしいんだけど、そのへんはまだ、おれもプレッソも修行不足なんだってばあちゃんが言ってた。」

そんな会話をしながら、2人と1匹は学校へと向かうのであった。


正門に近いたとき、プレッソは重清の頭から飛び降り、重清に目を向けたあと、そのまま走り去って行った。

「わかってるよ!」

重清が突然叫ぶ。

「シゲ、どうしちゃったのさ!?」

突然のことに、聡太が重清に尋ねる。

「プレッソのやつ、『しっかり勉強も頑張れよ』だとさ。」

「ふふっ、猫にまで心配されるんだね。プレッソに心配かけないためにも、勉強頑張らないとね!」

「うるせぇっ」

そう言って笑いながら、2人は今日へと向かうのであった。


そして放課後、重清たちは社会科研究部の部室へと集まった。

「ソウ、あのこと、古賀先生に聞いてみたのか?」

プレッソを召喚した重清の質問に聡太は、

「うん。シゲの言った方法で大丈夫だって。ぼくがそれに気付かずに、クリア出来ないんじゃないかって心配してくれてたみたい。むしろ、シゲがそれに気付いたことに、先生凄く驚いてたよ。」

笑いながら、そう答える。

「なんか、すげー失礼じゃない!?」

重清がそう言っていると、部室に茜が入ってくる。


「あれ、茜は明日来ればいいって、先生言ってなかったか?」

恒久がそう、茜に声をかける。

「そうだったんだけどね。なんか『おそらく今日、全員クリアするだろうから今日も来るようにー』って、さっき言われたのよ。こういう時、時間が関係ないあの部室は便利よね。デートの予定とか入れてても、気にせずにこっちに来られるし。」

笑顔で答える茜に、恒久が、

「なっ、お前、もう彼氏とか出来たのか!?」

恒久が茜に対して恋愛感情を持っていたという訳ではなく、あくまで自分よりも進んでいるという事実に驚いて、恒久はそう言っていたのだが、対する茜は、

「今日の予定は、友達との買い物だったんだけどね。もしかしてツネ、わたしのこと狙ってた?ごめんね~、わたし、年上にしか興味ないのよ~。」

と、軽くツネをふるのであった。

これで、告白してもいないのに茜にふられたのは、2人となったのであった。

それに対し、『狙ってた』発言を取り消させるべく声を上げようとした恒久の肩に、手が置かれる。

その手の主を見ると、同士である重清が、『何も言うな。勝ち目はない。』とでも言うように、首を降っているのであった。

恒久も、そんな重清の言いたいことが分かったのか、何も言わず、ただため息をつくに留めるのであった。


その時、古賀が部室へと入ってくる。

「よし、アカも含めて全員集まってるね。既に先輩たちは試験場に向かっている。バラバラで行くと、アカが手持ち無沙汰になっちゃうから、みんなで回ろうと思うけど、いいかな?」

そう言う古賀に対して、4人は頷く。

「いや、どっちにしても茜は手持ち無沙汰なんじゃねーのか?」

プレッソが古賀につっこむ。

「あれ、今プレッソ喋らなかった!?」

プレッソが話せるようになったことを知らない茜が、驚きの声を上げる。

「あー、シゲ、その辺のこと含めて、アカに試験場に向かいながら説明してあげて?」

古賀の言葉に重清が頷き、心の試験場に向かいながら、重清は茜にこれまでの経緯を話すのであった。


心の試験場に着いた一行の中では、アカの胸に抱かれたプレッソがいた。

「プレッソ、話せるようになったんだねー!可愛いーー!」

アカがそう言ってプレッソを抱きしめるのを、羨まいやらしい目で見つめる男が1人。

自他ともに認めるむっつり、恒久である。

「おれはむっつりじゃねー!」

誰にともなくつっこむツネに、シゲが声をかける。

「ツネ、そうやってチラチラ見てるからむっつりとか言われるんだぞ?こういう時は、潔くガッツリ見ないと!」

そう言って、シゲは至福のひと時を味わっているプレッソの先の何かに目を向ける。

『ガゴッ』

物凄い音と共に、アカの拳がシゲの頭へと振り下ろされる。

「いってぇ!!ちょ、アカ!これ以上バカになったらどうしてくれるんだよ!?」

「既にバカだと自覚してんのは認めてあげる。でも、あんたみたいな潔さ必要ないからね!その辺は、ツネのむっつりを見習いなさい!いや、ツネの視線も気持ち悪いんだけどさ!」

「気持ち悪っ、いや、それ以前におれはむっつりじゃ・・・」

「はいはい、無駄話はその辺で終わる。シゲ、きみはひとつもクリアしてないのに、えらく余裕があるみたいだねぇ?」

古賀が、シゲに視線を送ってそう告げる。

「もちろんです!あんだけばあちゃんにしごかれたんだから、試験なんてすぐクリアしますよ!」

雅との修行を思い出して涙を浮かべた重清が、そう言う。

古賀も、それを見て、

「ご愁傷さま。」

と呟くのであった。

((((シゲのばあちゃんって・・・))))

その場にいたシンを含めた4人は、そんなことを考えるのであった。


「ここをクリアしてないのはシゲだけだね。シゲ、準備はいいかい?」

古賀の、言葉にシゲは、

「大丈夫です!」

そう言いながら、プレッソを自分の足元へと召喚する。

「なぁっ、重清、何してくれてんだよ!」

秘密の花園から強制退場させられたプレッソは、怒ってシゲに詰め寄る。

「おれが殴られて、お前だけそこにいるのにすげー腹たった!じゃ、行ってくる!」

そう言ってシゲは、心の試験場へと向かうのであった。


心の試験場に入ったシゲは、すぐに心の力を集中させる。

その時、見慣れたクラスメイトがシゲの前に現れる。

「お前、忍者の子孫とか本気で言ってんの?ネタとしても、面白くねー!初日からドンズべりじゃん!」

そんな、これまでシゲの心を抉ってきた言葉も、今のシゲの心には届かない。


「今まで、こんなことでダメージ受けてたのかよ。こんなん、友だちと一生話せないかもとか考えるのと比べたら、何でもねーじゃねーか!それにな、こんな言葉より、ばあちゃんの修行の方が何百倍も心のダメージあるんじゃーーーー!」

何故が血の涙を流しながら、シゲはそう叫んで幻術を跳ね除ける。

そして、

「テッテケテー」

微妙な音が、周りに鳴り響く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る