第22話:契約破棄と地獄
「さてと。雑賀家の皆さんも伊賀家のお2人も、茶番はこのくらいにしてもらっていいですかね?」
古賀が、雑賀家と伊賀家に告げる。
「いや、伊賀家はその茶番に巻き込まれてんだけどな!」
恒久が古賀にそうつっこむ。
「それは、私に言われても困るな~。ま、それはさておき。シゲ、ツネ、契約破棄するの?」
古賀にそう言われ、重清と恒久は視線を交わした後、古賀に向かって頷く。
「皆さんも、よろしいですね。」
雑賀家と伊賀家(恒吉だけだが)に声をかけ、古賀は2枚の契約書を出し、それを2人に渡す。
「それを破れば、甲賀としての契約を破棄できる。準備はいいかな?じゃぁ、破っちゃってー。」
相変わらずの軽さで、古賀は重清と恒久を促す。
重清は、古賀のそんな言葉を聞いてひと呼吸おき、それから思い切って契約書を破る。
すると、今まで感じていた重しのようなものが無くなるのを感じた。
そして、重清から、白い忍力が溢れ出す。その忍力は、そのまま重清の頭の上にいるプレッソへと注ぎ込まれていく。
ふと、隣の恒久を見ると、恒久もまた忍力を放出していた。
(黄色??)
恒久の忍力を見て、自身との色の違いに気付いた重清であったが、その時、頭の上から声がする。
「ふぁ~~~~。重清~。やっと済んだのかよ~。」
「は???」
プレッソが、重清の頭から飛び降りて、重清の目の前に立つ。
「な~にアホ面してんだよ重清。オイラだよ、プレッソだよ。」
「いやいやいやいや。わかってる、きみがプレッソだってことはわかってるんだけれども!!」
混乱した重清が叫ぶ。
「おや、その子話せるのかい?珍しいねぇ。」
雅が重清に話しかける。
「え、ばあちゃん、猫がしゃべってるんだぞ?なんでそんなリアクションなんだよ!?」
重清がさらに叫ぶ。
「具現獣の中には、話せる者もいるからねぇ。驚くほどの事でもないのさ。」
「でも、なんで今までは話さなかったんだ?」
そう言って重清は、プレッソに目を向ける。
「このタイミングで話せるようになったんだから、契約破棄したからに決まってんじゃん!今まで、少ししか忍力貰ってなかったからね。」
プレッソが得意そうにそう言う。
「あぁ、そう言えば、忍力がプレッソに入っていってたな。なんかその分、スゲー疲れた感じもするけど。」
「そうなのか?おれは全然そんなことないんだけど?」
重清の言葉に、恒久が返す。
「そりゃ、オイラが重清に戻るはずの忍力をたっぷり頂いちゃったからだね。もー、早く忍力欲しくて我慢出来なかったんだよね~。」
プレッソが、笑いながら言う。
「忍力って有限だからね。少なくなると体力みたいに、だんだんと疲れてきちゃうよ?」
重清の兄、公弘が入ってくる。
「あー、だからおれだけ疲れた感じがするのか。」
重清が納得したように頷く。
「なんかわりーな、重清。これからも、たまに忍力もらうことになっから、そこんとこよろしくな!」
「そういえばキミ兄ちゃん、おれとツネの忍力の色、違った気がするんだけど、あれって何なの?」
「あぁ、それはな・・・」
「公弘くん、ストップ。シゲ、その辺についての説明は、明日、きみたちが試験をクリアしてから改めて説明させてくれ。」
「え、試験ってやっぱ合格しなくちゃいけないんですか!?」
重清が大声を出す。
「いやいや、逆に、なんで受けなくて良いって思ってるのさ?今日のは雑賀家の試練ってだけで、試験とは無関係なんだからね?」
「マジか~。明日一日で、3つの試験クリアしなくちゃいけないのか・・・」
重清が心配そうに言うと、雅が言う。
「重清、安心しなさい。あんたにはこれから丸3日間、あたしと修行してもらうからね。」
「いや、ばあちゃん話聞いてた!?明日試験なんだよ?3日間って、もうどう頑張っても試験に間に合ってないからね!?」
「その辺は安心しな。そもそも、あんたたちが使っている忍者部の部室、あれはもともとあたしの忍術だからね。」
「え、そうなの!?」
「あぁ。あれは部室用に調整してるだけで、本来は3日間くらいなら余裕で時間を止めていられるんだよ。だから、これから3日間、重清にはあたしと修行に入ってもらう。忍力の使い方にも、慣れてもらわなくちゃいけないからね。」
「重清、頑張れよ~。」
プレッソが、他人事のように言いながら、逃げようとするも、雅に回り込まれて捕まってしまう。
「プレッソ、あんたにも付き合ってもらうよ。あんたは重清の具現獣なんだ。しっかりと力をつけてもらわなくちゃいけないからね。」
雅がプレッソにそう言うと、プレッソは、
「わかったよ~。せっかく、これからは自由に遊べると思ってたのにな~」
と、文句を言いながら重清の頭の上に戻る。
「重清、なんかすげー嫌な予感しかしないけど、2人で頑張ろうぜ!」
「おう、プレッソとなら、きっとなんとかなるさ!改めて、これからよろしくな!」
重清とプレッソがそう言っていると、恒久の父、恒吉が雅の前に「雅様。」と言いながら進み出る。
「わかっておるわ。お主と恒久君にも、この空間を貸してやるわ。上限は3日に設定しておくが、それより前に出ても問題ないようにしておくから、好きに帰ってくれて構わないからね。」
「お気遣い、感謝します。恒久、お前もこれから私に付き合ってもらうぞ。」
「あぁ、シゲも修行やるんだし、おれだけ明日試験クリアできなかったりしたらシャレにならねーからな。よろしく頼むよ、親父。」
先ほどまで『クソ親父』とまで言っていた恒久が真面目にそう答えるのを見て苦笑いしながらも、恒吉は恒久に頷くのであった。
「さて、とりあえず、父さんたちは帰るぞ。」
と、重清の父雅司がそう言いながら母綾香とともに社会科研究部の部室へと入っていく。
「あれ、なんであっちに行くの?」
重清が近くにいた兄裕二に聞くと、
「あぁ、忍者部につながる掛け軸あるだろ?あれ、ウチにもつながってるんだよ。」
「え、そうなの!?もしかして、じいちゃんが亡くなったときに兄ちゃんたちが来るのが早かったのも、それ使ってたの!?」
「あぁ、そうだよ。みんな、だいたい一人暮らし始めるときに、ばあちゃんからもらうんだよ。いつでも駆け付けられるようにってな。」
「みんな?」
裕二の言葉に首を傾げた重清に、公弘が答える。
「あれ、これまでの流れで気づいてたかと思ってたけど。おれたちだけじゃなくて、浩さん、太さん、麻耶ちゃんも、忍者だよ?平蔵叔父さんとこの花ちゃんと彩ちゃんは違うけど。」
「そうなの!?ほぼみんなじゃん!確かに、みんな来るの早いとは思ったけど・・・」
「そんなことより。」
と、裕二が重清の肩に手をかけ、言う。
「お前これから、ばあちゃんとの修行だろ?・・・・・死ぬなよ。」
「え、そんなに!?もう、ユウ兄ちゃん、ビビらせないでよ~。」
そう言いながら重清が公弘に目を向けると、公弘も真面目な顔で、重清に頷き返す。
「プレッソ、どう思う!?」
「どうってお前、2人のリアクションを見るに、嘘言っているようにも思えなさそうだぞ。残念ながら。」
「だよなぁ。。。」
「「はぁ~~~~~~」」
1人と1匹が、仲良くため息をついて、これからの3日間に不安を募らせるのであった。
「とにかく、がんばれよ~~」
そういって、兄たちも掛け軸からそれぞれどこかへと帰っていった。
「さてと、ではそろそろ、私も帰りますね。」
「あぁ、ノリ、いろいろとすまなかったね。」
「何言ってるんですか雅様、いつものことじゃないですか」
古賀が笑いながら雅に答える。
「もう、ここは締めちゃって大丈夫ですよね?」
「あぁ、構わない。あとはウチに繋いどくから、ここに出てくることはない。恒吉や、あんたんとこは、どこに繋ごうかい?」
「そうですね。うちも我が家に繋いでもらってよろしいでしょうか。それにしても本当に、雅様のこの術は便利ですね。」
笑いながら、恒吉が雅に返す。
そんな大人たちの会話を聞きながら、重清と恒久は話していた。
「なんか、色々疲れちゃったね。」
「ほんとにな。でもこれで、明日の試験は何とかなりそうではあるな。あとは、ソウがどうなるか、か。」
「あ、そのことなら、きっと大丈夫だよ。おれ今日、ソウに謝るときに、もしかしたらいけそうな作戦、伝えたから。」
「なんだよ作戦って。まぁ、それも明日の楽しみにしとくか。」
「ま、2人とも明日じゃなくて3日後、だけどな。」
「ちょ、プレッソ!そこつっこむなよ!なるべく現実から目をそらしてたんだから!!」
そうして重清(とプレッソ)と恒久は、それぞれが試験最終日に向けて、修行を行うこととなったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます