第21話:鈴木家の茶番

「古賀先生、なんでここに?」

図書館への扉を開けた先にいた古賀に対し、重清は口を開く。


「いやいや、それはこっちのセリフだよ?私は『残業』で済むけど、きみたちはそうはいかない。一体何故、こんな所にいるのかなぁ??」

古賀が、2人に視線を送る。

そう言われた2人は、だだ黙って俯く。


「目的は、これかなぁ??」

そう言って古賀は、2人の契約書をチラつかせる。


それを見た2人は、思わず反応してしまう。

「もう、反応でバレバレ。そんなんで、本当に忍者の血を引いてるの??」

そんな古賀の言葉に、悔しさから2人は何も言えないでいた。

と、その時。


「こら、ノリ。あんまりこの子達をいじめるんじゃないよ。」

社会科研究部の部室から、そんな声が聞こえる。

その声のする方に、古賀を含めた3人が目を向ける。

プレッソだけは、重清の頭の上で寝ていたが。


社会科研究部への扉が開くと、そかにいたのは、重清の祖母、雅であった。

「ばあちゃん!?」

重清が叫ぶも、それを無視して古賀が雅に話しかける。

「すみません。この役、久々なもので。つい悪役に力が入ってしまいました。」

「ほんと、あんたは悪役がよくお似合いだよ。」

「お褒めに預かり光栄です。」

雅の嫌味に、気にせずに笑顔でそう返す古賀であった。


「それはさておき、重清、そして恒久君。ここまでよく頑張ったね。とりあえず今回の試練は、及第点と言ったところだけどね。」

雅が、そう2人に告げる。

「試練??」

重清が首を傾げる。

「そう、これは血の契約を正式に結ぶかどうかの、試練だったのさ。バレずに目的地まで侵入できるかっていう、ね。これに通らないようなら、血の契約は破棄するつもりだったよ。」

「え、血の契約も、破棄できるの!?」

重清が驚いて尋ねる。

「あぁ、できるよ。とは言っても、ノリがやったような普通の契約と違って、血の契約の破棄権限は、雑賀家の現当主である、私だけにあるんだがね。まぁ、当主といっても、分家の、だがね。」

「し、しかしそれはっ!」

雅の言葉に、古賀が反論しようとする。

そんな古賀に、雅は目を向ける。

その目には、重清でも分かるくらいの威圧される力があった。

「申し訳ありません。」

雅の目を見た古賀は、ただそう答える。

「ま、とにかく。」

雅は話を変えるように話し出す。

「重清たちは雑賀家の伝統である試練をクリアしたんだ。ノリ、契約書を2人に。」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

恒久が、慌てたように手を挙げて雅の話に割って入る。


「雑賀家の伝統?ってことは、もしかしておれ、巻き込まれちゃった感じですか!?」

「うん、ごめんね?」

雅が可愛く謝る。

(いや、ばあちゃんのぶりっ子とか!)

重清がすかさず心の中でつっこむ。

その時、

「文句を言うな。これは私からお願いしたことだ。」

そんな声が聞こえてくる。

声のした方に目を向けると、先程雅が登場した扉がわざわざ閉まっており、そこから重清の見知らぬ男が登場する。

「は?親父?ってかなんなんだよ!なんでわざわざみんな、いい感じのタイミングで登場してきてんだよ!?あれか、小説かかんなか!?もう、他に出てくるやついねーんだろうな!?いるんだったら、めんどくせーからさっさと出てこいよ!!」

父親の登場に混乱した恒久は、とんでもないことを叫び出す。


すると、

「はい、すみません。タイミング見計らってましたー。」

そう言って、今度は4人、扉から出てくる。

「父さん!?母さん!?それに兄ちゃんたちまで!?」

今度は重清が叫ぶ。

「現場はもう、大混乱です。」

「いやユウ兄ちゃん、なんで他人事のようにナレーションしちゃってんのさ!?」

本当に、大混乱なのであった。


「はぁ、とにかく、これでここでの登場人物は全て出揃ったのか?」

普段の大人に対する丁寧な口調を忘れた恒久が、重清の父、雅司を睨みながら言う。

「あぁ。」

(あれ、なんでおれが代表して睨まれてるの?親父さん睨めばいいのに。)

そんなことを思いながら、雅司が答える。


「で?これ、どこから処理する?」

「あー、もう面倒くさいから、出てきた順番でいいよ。」

恒久の言葉に、重清がそう答える。


「じゃぁ、重清の許可ももらったことだし。おい、クソ親父。こりゃ一体どういうことだ?」

そう息子に言われた恒久の父、恒吉(つねよし)は、苦笑いしながら答える。

「クソ親父とはまた酷いな。さっきも言ったように、お前にも雑賀家の試練を受けさせて貰えるように、雅様に頼んだのさ。そっちの方が面白、っと、お前の修行になると思ってな。」

話の途中で恒久に投げられた手裏剣をあっさり受け取りながら、恒吉はそう答える。

「ちっ。まぁ確かに、色々と良い経験になったのは事実であはるな。ムカつくけど。」

恒吉にあっさりと手裏剣を受け取られたことに苛立ちながらも、恒久は恒吉の言葉に納得する。

「まぁ、ウチは雑賀家ほど厳しくないから、この試練に合格しなくても、血の契約の破棄をするつもりはなかったけどな。ウチ、甲賀家の中でも末席中の末席だし。」

「さらっと惨めになるような事言ってんじゃねーよ!まぁいい。シゲ、とりあえずおれは納得した。そっちの処理は任せたぞ。」

そう言って、重清ファミリーに目を向ける。


「いや、これどう処理していいか、もはやわかんなくなってきてるよ。んー、とりあえず、みんな何しに来たの?」

面倒くさくなった重清は、投げやりに家族にそう尋ねる。


「何って、おれたちがお前の試練やってたんだぞ?ちなみに、おれと母さんは、入口の警備員な。」

父の雅司が、親指を立てながら笑顔でそう告げる。

「重清、無事に試練クリア出来てほんとによかったわ。母さん心配してたのよ?」

母が、よよよと泣き出す。

「ちょ、母さん、恥ずかしいから泣くなよ!」

重清は慌てて叫んでから、兄2人に目を向ける。

「兄ちゃんたちも、昔この試練受けたってこと?」

「あぁ、そうだよ。もっとも、オレのときは父さんと母さんの警備員を抜けるだけだったけど。」

「え?」

公弘の言葉に、重清が戸惑った声を出す。

「で、おれのときは何故か兄さんが試練課す方に参加しちゃって、さらに岩ゴロされたからなー」

「え?え??」

「兄さんがそうしたら、おれも、重清の試練に参加したくなるじゃん?だからおれは、『刃の嵐』を作ったわけ。」

「えぇぇぇぇ!なにその『刃の嵐』って名前、かっこいいじゃん!じゃなくて!!ちょっと待って、ってことは、おれの試練って兄ちゃんたちよりも難易度高かったってこと!?」

「そうなるな。でも、お前、恒久君と2人でクリアしたんだから、総合的な何度は、そこまで高くなかったはずだぞ?」

裕二が当たり前のように言う。

「いや、それはまぁ、そうだけど・・・」


「ちょっと待ってくださいよ。ってことはおれは、普通に雑賀家の試練に巻き込まれただけでなく、重清ファミリーのおふざけにまで付き合わされたってことですか!?」

やっと落ち着いた恒久が、いつもの丁寧な口調で重清ファミリーを問いただす。


「「「「「うん、ごめんね??」」」」」

雅を含めた5人が、可愛くそう言う。


「あー、もう!なんなんだよお前んちの家族!なんかすげー腹立つぞ!?」

「そう?明るく楽しい家庭だろ?」

「あー!お前もあっち側の人間だよ!初めてだよ!親父の息子で良かったと思ったのは!!」

「あれ、なんかいきなり嬉し悲しい流れ弾が飛んできたぞ?」

雑賀家に、伊賀家が翻弄されるのであった。

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