第24話:技と体の試験再び

「よっし!クリア!!」

重清が、そう言いながら心の試験場から出てくる。

「うむ、重清。無事クリアできたな。あの地獄の日々は、決して無駄ではなかったぞ。」

またアカの胸に戻っていたプレッソが、偉そうに重清に声をかける。


それにイラっとしたシゲは、

「ショウ先輩、プレッソお願いできますか?」

そうショウに声をかける。猫好きのショウは、それに「うんっ!」と、アカが目をハートにするほどの眩しい笑顔で答える。

それを聞いたシゲは、ショウの胸の中へとプレッソを召喚する。

「おのれ重清。どこまでもオイラの邪魔をするというのか。」

そんなことをつぶやくプレッソを、目を輝かせたショウがギュッと抱きしめ、それを見ているアカが心の中でショウを抱き返すのであった。


「はい。じゃぁ次は技の試験だね。シンは、先に部室のほうに戻っててね~。」

「は~い。」そう言ってシンは、姿を消す。

「おいシゲ、お前ばあさんから、シンさんが今やったあれ、どうやるか聞いたか?」

「あ、聞いてない!ツネは親父さんから教わらなかったの?」

「おれも、今シンさん見て思い出したんだよ。」

「もう、2人ともしっかりしてよ!そこすごく大事じゃん!」

「でも、さっきのって前見たのと同じか?消えたって言うより、めっちゃダッシュしたって感じじゃなかったか?」

「確かに、シゲの言いたいこともわかるけどな。でも、消えたようにも見えるんだよな。ソウはどうだ?」

「ぼくには消えたようにしか見えなかったよ?」

シゲ、ツネ、ソウの3人が盛り上がる。


そんな男子3人に、

(まったく、あいつらどんだけ余裕あるのよ。)

と、アカが呆れて見ているのであった。


「はーい、次行くよ~。」

そう言って歩き出す古賀に、5人が着いていき、すぐに技の試験場へと到着する。

「はい、ここでもシゲからでいいのかな?」

「はい!」

そう言って会場にいたケンから手裏剣を受け取ったシゲは、構える。

(よし、ここもばっちり、修行の時と変わらない。ちゃんと的の場所もわかる。)

「今度こそ、そこだぁっ!!」

そう言ってシゲが手裏剣を投げると、

「テッテケテー」

と、微妙な音が鳴り響く。

「うっし!」

喜ぶシゲの横でツネが、

「じゃ、次はおれだな。」

そう言ってケンから手裏剣を受け取り、それをツネが投げる。

「テッテケテー」

またしても、微妙な音が鳴り響くのであった。

「おっしゃぁ!」

ツネが叫ぶ。


「さて、最後はソウだね。準備はいいかい?」

そう古賀から声をかけられたソウは、

「あ、今から準備します。」

そう言って、ソウの武具であるレーダーを具現化させる。


「おいソウ、武具は使っちゃダメなんじゃねーのか?」

レーダーを出したソウを見て、ツネが言う。

「うん、ぼくもずっとそう思ってた。でも、シゲが気づいたんだ。古賀先生、試験の説明をするとき、『武具での攻撃』はダメだって言ってたんだよね。しかもあの時先生は、ぼくにだけは、武具を使ってはダメとは言わなかった。」

それを聞いたツネが古賀に目を向けると、古賀は無言で頷いているのであった。


「問題は、これをどう使うかなんだよね。」

そう言いながらソウは、レーダーへと目を向ける。

すると、自分を中心とした7つの点とは別に、1つの点が、少し離れたところにあることに気づく。

(これってもしかして・・・)

ソウがその点に触れると、その点だけ色が黒から赤へと変わる。

その瞬間ソウは、これまで全く認識できなかった的の存在を認識する。

「これが、的。」

そうつぶやいたソウは、

(ぼくだけ一発で当たらなかったら、なんか恥ずかしいな~)

と考えながら、緊張した面持ちでケンから手裏剣を受け取り、構えてそれを投げる。

「あ。」

緊張したままソウが投げた手裏剣は、的とは全く違う方向へと飛んで行ってしまう。

しかし、ソウの手を離れた手裏剣は、通常であれば考えられないくらいに軌道を変えて、的のある方向へと曲がり、そのまま森の中へ入っていく。そして、

「テッテケテー」

微妙な音が鳴り響く。


「へっ?」

あまりのことに、ソウはそれだけを口にする。

確実に失敗したと思った一投が、そのまま的に当たってしまったのだから無理もない。


ソウが混乱している中、ソウの一投を見ていた古賀が、感心したように声を出す。

「へぇ。そのレーダー、そんな機能まであるんだね。今後のソウの成長次第で、かなり使えるようになりそうな武具だね。まぁ、問題はその大きさだけどね。その辺は、今後の課題になりそうだね。」

そう言って目を向けた先には、直径がサッカー程もある壁掛け時計のようなレーダー。

持ち運べないものでは無いが、決して『持ち運びに便利』という訳ではないサイズなのであった。


「武具って、サイズ変えられたりするんですか?」

「簡単にって訳では無いけどね。忍力の扱いが上手くなれば、それによって武具も変化するんだ。これを私たちは、『練度を高める』って言ってるんだけどね。とにかく、これから忍力の練度を高めていけば、より使いやすくなるはずだよ。これは、武具全般に言えることだから、 ツネとアカも覚えておくように。」

ソウの質問に答えながらツネとアカにも目を向ける古賀に対して、今度はシゲが尋ねる。

「武具全般ってことは、具現獣には関係ないんですか?」

「いや、そう言うわけではない。具現獣も、忍力の練度を高めることで、より強くなっていく。なんてったって具現獣は、具現者の忍力を糧にしているからね。でも具現獣の場合、それだけではダメなんだ。具現獣自身が、強くなる努力をしなくちゃならない。どれだけ美味しいご飯食べても、運動しなきゃ太るのと同じでね。」

そう言って古賀から視線を向けられたプレッソは、

「だから、オイラまでババ・・・ばあちゃんから修行させられたのかよー。なんだよー、普通の猫みたいに気楽に生きたかったよー。」

と、悲しそうに呟くのであった。ショウの胸の中で。


「そう嘆くなよプレッソ!どうせだったら、2人?で頑張って、強くなろうぜ!」

「へいへい。しょーがねーから付き合ってやるよ。だからお前も、どうせだったら最強の忍者目指せよな!」

そう言い合う単純な1人と1匹にを優しい眼差しを向けたあと、古賀が次の試験場へと促し始める。

「さ、次が最後だ。あとはシゲとツネだね。今の2人なら、この試験も問題ないはずだ。さっさと終わらせちゃおう。」


そして一行は体の試験場へと到着する。

「おう、来たか!」

そう言って、笑顔を向けてくるノブに、シゲは頭を下げる。

「先日は、ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」

2日前の体の試験で、拳を痛めてもなお、無理に試験を続けようとしたシゲを止めてくれたノブに謝るシゲに対して、

「他のみんなには、お前のここ数日の態度、きちんと謝ったのか?」

と、ノブは怖い表情で返す。

「あ、いえ、まだです。」

「だったら、その謝罪は受け取れない。」

そう怖い顔のまま言ったノブは、突然シゲの頭に手を伸ばす。

(!?殴られる!?)

そう焦って構えたシゲであったが、ノブの手は開いたまま、シゲの頭をぐしゃっと撫でる。


「さっさとこの試験もクリアして、みんなにちゃんと謝れ。その時に、さっきの謝罪も受け取ってやる!」

そう言って笑いながらシゲの頭をグイグイと撫でる。

「ノブさん!ありがとうございます!でも、あ、ちょっ、あの、痛いです!」

そう言ってノブの手から逃れ、頭を擦りながらシゲが続ける。

「ウチのじいちゃん、禿げてたんですよ!だからおれも、禿げちゃう運命率高いんですよ!ノブさんに頭グリグリされたら、その運命から明確に逃れられなくなりそうです!」

「ハッハッハ、すまんすまん。お前はやっぱ、そっちのテンションの方が似合ってるな!ほれ、さっさと試験クリアしてこい!」

そう言って笑いながら、ノブが差し出す軍手を受け取ったシゲは、これまで散々苦しめられてきた岩と向き合う。


「今日こそは、やってやる!」

そう言って拳に体の力を集中させて、岩を殴る!

すると、岩は粉々に砕かれ、

「テッテケテー」

いつもの微妙な音が鳴り響くのであった。

「よっしゃぁー!これで、試験全部クリア出来たぞーー!」

「おし!次はおれの番だ!!さっさと終わらせるぞ!」


ツネがシゲから軍手を受け取り、岩に向き合う。

(さてと、体の力も問題ない。悔しいけど、あのクソ親父との修行は十分役に立ってる。)

そう考えて、拳に体の力を集中し、岩へと拳を突き出す。

「こんな止まった岩、転がってくる岩と比べるとなんでもないわーーーーー!」

その叫びとともに岩が砕け、

「テッテケテー」

最後の微妙な音が、周りに鳴り響くのであった。

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