第340話:性別違和

「お、女の子・・・・」

男子一同は、茜に抱きしめられる優希に目を向けながら、呟いた。


「優希ちゃん、大丈夫?」

茜は優しい声で、優希に声をかけた。


この忍者部において、未だかつて聞いたことのないような、慈愛に満ちた声で。


「は、はい・・・」

茜の胸から顔を上げた優希は、少し目を赤くしながらも、強い眼差しで茜を見つめ、そして残念な男子達へとその目を向けた。


「取り乱してしまって、ごめんなさい。茜先輩が言ってくれたとおり、私は、いわゆる性別違和というやつです。

元々は男の子として生まれました。

だけど、ある日気づいたんです。

私は、男じゃない。女なんだって。

だから、中学生になるこのタイミングで、私は私になろうと、決心したんです!」


そう強く発せられる優希の言葉に、男子一同は無言のまま俯き、


シゲ「なんか、ごめんね。茶化したみたいになっちゃって」

ソウ「本当にごめんなさい!」

シン「悪かったな」

ノブ「スマン!!」

ケン「・・・・すまなかった」


そう口々に謝罪の言葉を並べていた。


そんななか恒久だけは、1人自身の手を見つめていた。

そしてそのまま優希の前に進み出ると、深々と頭を下げた。


「本当に悪かった!俺、女のユウに気安く触っちまった!これじゃ、茜に殴られても仕方かなった!申し訳ない!!」


「え、いや、その・・・・」

「ふん!分かればいいのよっ!」


恒久の謝罪にオロオロする優希に代わって答える茜に、恒久は目を向けた。


「茜、お前最初から気付いてたのか?」

「当たり前じゃない」

恒久の問に、茜は事も無げにそう答えた。


「何でわかったんだ?

ショウさんは、弟だって言ってたのに」


「なんでって・・・女の勘よ」

「出たよ、女の勘。便利だな、それ」


「ってことは、これからはその女の勘の使い手が、1人増えるってわけか」

シンが呟くように言うと、


「しかも、ユウって占いもできるんでしょ?

それもう最強じゃん!」

重清がそれに乗っかった。


「確かに、女の勘と占いの組み合わせは、怖いね」

聡太も重清の言葉に頷いた。


「・・・俺達、女子2人の尻に敷かれるの決定」

ケンはそう言って頬をかいていた。


ちなみにケンは、既に麻耶の尻に敷かれまくっているのだが、それはそれで心地の良いケンなのである。


「いやちょっと、それだとわたしがみんなを尻に敷いてるみたいじゃないの!」


「「「「「「そうだけど?」」」」」」


一同がワイのワイのしていると、


「あ、あの・・・・」

優希がオズオズと皆の顔を見つめていた。


「あの、私が言うのもなんですけど・・・皆さん、私が女ってこと、受け入れるの早すぎじゃないですか?」

優希の言葉に、男子一同は視線を交わした。


そしてその視線は、そのまま茜へと注がれた。


「な、なによ皆して」

茜を見つめたまま黙り込む男子一同であったが、重清が決死の覚悟で口を開いた。


「だってさぁ、今まで忍者部にいた女子って、茜だけじゃん?

その唯一の女子だった茜はなんていうか・・・

そう、良い意味で男っぽい!」


「いや、シゲ。それは言い過ぎだぞ?

茜はあれだ。もう男みたいなもん―――ぐぉっ!」


「ぐへっ!!」


重清の言葉に乗っかった恒久が言葉を終える前に、恒久と重清は、いつの間にか忍者部部室の壁に、めり込んでいた。


「で?あんた達もそう思ってるわけ?」

茜は、残る4人へと目を向けた。


「「「「いえ、滅相もございませんっ!!」」」」


「「卑怯だぞっ!!」」


いとも容易く裏切ったシン達に、重清と恒久は抗議の声を揃えた。


(まったく。ほんと、バカばっかりだ。

が、良い奴らだよな、ほんと。

優希も、こいつらとなら、素の自分でいられるだろう)


それまで黙って彼らを見守っていたノリは、そんな一同に笑みを向けていた。


ノリは心の中で、喜んでいた。

優希を、何事もなく受け入れた彼らを、誇らしくも思っていたのだ。


「まっ、こんなバカばっかりだけど、楽しいところだから!優希ちゃんも、わたし達には気を使う必要なんて、ないんだからね!」

茜がそう言うと、


「はいっ!」

目に涙を浮かべた優希は、そう、満面の笑みを返していた。


「あっ、そうだ!更衣室の場所とか、教えてあげないと―――」

「あぁ、待てアカ」

茜の言葉を遮って、それまで黙っていたノリが前へと進み出た。


「その話が出たから、ついでに優希に対する、我が校の方針についても言っておこう」

そう言ってノリが優希に目を向けると、優希はコクリと頷いた。


「基本的に我が校は、芥川優希を女子生徒として扱う。ま、これは当然のことだな。

しかし、いくつか例外がある。それが、今アカが言った更衣室や、トイレだ」


「まさか、そこだけは男子用を使わせるなんて言うんじゃないでしょうね!?」

茜は、ノリへと食って掛かった。


「いや、そうじゃない。我々教師陣も、色々と考えた。

なるべく、優希には負担はかけたくない、とな。

しかし、いくら心が女性とはいえ、体はまだ男性のままだ。

他の女子生徒の中には、それに拒否反応を示す者がいる可能性も、考慮しなきゃならん」

「だったら、どうするっていうのよ?」


「優希には申し訳ないが、トイレと更衣室に関しては、職員用を使ってもらうことになった。もちろん、女性用のな。

これは彼女と、彼女のご両親の承諾も得ている」


「はい。私も、実はそこが心配だったので・・・

ご配慮頂いて、感謝しています」

優希はそう言うと、ノリへと頭を下げた。


「まぁ、優希ちゃんが良いならいいんだけど・・・」

茜は渋々ながらもそう呟くと、優希は茜に笑みを向けていた。


「と、まぁ優希の話は以上だ。

俺はこれから、松本君のことを、オウさんに報告しなきゃならん。

クソみたいな制度に則ってな。

だから今日のところは解散だ」


ノリの言葉で、その日は解散となった。


こうして2中忍者部に、1人仲間が加わったのであった。




------

あとがき

「性別違和」よりも、「性同一性障害」の方が分かりやすいのかな、とも考えたのですが、どうにも「障害」という言葉が嫌だったので、「性別違和」とさせていただきました。

使い方が間違っていたり、不快に思う方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。


あと、基本的にふざけた内容の本作ですが、彼女の性別についてネタにするようなつもりは一切ありません。

もしも今後、彼女の扱いについて気になる点がありましたら、そちらについてもご連絡いただけると幸いです。

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