第339話:ゆうきの告白

チーノが逃げるように姿を消すのを見たノリは、消える直前に向けられたチーノの寂しそうな笑みに冷静さを取り戻し、その場で頭を下げた。


「悪い。イライラしてしまった」

「いや、ノリさんがその捨て忍ってのに納得していないのはわかったから、気にすんなよ」

恒久がそう言うと、その場の一同は一様に頷いていた。


「でもさ、ノリさん。おれ達、ノリさんにも言ったよね?前に襲ってきた人達も、黒い力使ってたって。

もしかしたらソリも同じように、何か特別な力を持ってるかもしれないじゃん」

重清は、頭を下げるノリへと言った。


それに頭を上げたノリは、そのまま首を横に振る。


「それについては俺も協会に伝えた。しかし確証がない。そんなフワフワした情報で、長年続いたこのクソみたいな制度を変える度量なんて、今の協会にはねぇんだよ」


「・・・やっぱ、俺がさっさとトップに立つしかねぇな」

ノリの言葉に、恒久がボソリと呟いた。


「ふん!安心しろ。お前なんかの前に、俺が協会に入り込んでみせる。

あの腐った組織は、俺が立て直してやるよ」

ノリがそう言って笑っていると、


「あの〜」

優希が手を挙げた。


「よく分からないんですけど、その捨て忍っていうの、こっそり契約を継続することは、出来ないんですか?

もしかして、私達の契約書みたいに、何か縛られているんでしょうか?」


(ほぉ。さっき契約したばかりなのに、もう契約書を理解したか。さすがはショウの・・・)


ノリは感心しながら優希を見返すと、再び首を振った。


「いや、捨て忍については、契約で縛られている訳ではない。協会でもそうしようと考えたらしいが、どうしても出来なかったみたいだ」


(まぁ、あの平八様の書が事実であるならば、忍者の始祖がそれを許すはずもないからな)


ノリは平八の『始祖の物語』を思い出しながら、心の中で呟いた。


「でも、だったらなおのこと、ソリを隠れて保護することもできたんじゃないですか?」

シンは苛立ち気味に、ノリを睨んだ。


部長となったシンにとっても、新入部員があのような形で辞めさせられたのには納得がいっていないのであった。


「いや、それも出来ない。お前ら、忘れていないか?この空間は雅様が作ったとはいえ、今は協会が管理している」

「まさか、見張られている?」

聡太の言葉に、ノリは無言で頷いた。


部室内に、緊張が走った。


「いや、別に四六時中見張られてるわけじゃねぇぞ?

じゃなきゃ、こんなに協会批判しねぇって」

「紛らわしいわっ!」

慌てたように付け加えられたノリの言葉に恒久がいつものようにつっこみ、その緊張は一瞬にして消え失せた。


「まぁとにかく、捨て忍の話は以上だ。

分かっていると思うが、松本君には接触するなよ?

彼は既に、今日ここで起きた記憶は全て失っているからな」

ノリがそう言うと、優希を除く一同が頷き、優希だけはノリが何を言っているのか分からないように、1人首を傾げていた。


「後で教えてあげるね」

茜は優希にそう言って笑いかけると、優希は茜に笑顔を返し、ノリへと手を挙げた。


「ん?あぁ、そうだったな。君の話があったんだった」

ノリは優希の表情を見てそう呟くと、周りを見回した。


「あー・・・・」

どう切り出すか。

ノリが思い悩んで言葉を詰まらせていると、


「あの、古賀先生。私から話してもいいでしょうか?」

優希が立ち上がってノリを見つめていた。


「しかし・・・いいのか?」

「はい。やっぱり、自分の口で言いたいから」


「わかった」

ノリはそう言うと、教卓の前にあった椅子へと座り込んだ。


「「「「「「???」」」」」」


優希とノリのやり取りに、茜を除く男子一同がまたしても首を傾げるなか、優希は意を決したように口を開いた。


「改めまして皆さん。これからどうぞよろしくお願いします。芥川翔の、芥川優希です!」


「「「「「「ん???」」」」」」


男子一同の頭の上に、いくつものクエスチョンマークが並んでいた。


シゲ「え?だってショウさん、弟が来るって・・・」

ソウ「ショウさんの言い間違い、かな?」

ツネ「あー、ショウさん、時々抜けてっからな」

シン「ぷっ。確かにな」

ノブ「はっはっは!違いない!」

ケン「ショウさんなら、有り得る」


男子一同がそう言って笑っていると、優希は徐々に涙目になりながら、うつむき始めていた。


「あんた達、いい加減にしなさい!!」


その時、茜が鬼の形相で男子一同を睨みつけた。


「優希ちゃんが頑張って告白したのに、笑ってんじゃないわよっ!!」

そう叫んで立ち上がった茜は、その勢いのまま恒久を殴り飛ばした。


「え、なんで俺だけ?」

殴られた頬を擦りながら言う恒久の言葉を無視して、茜は優希へと笑いかけた。


「優希ちゃん、頑張ったね」

「茜先輩・・・」

優希はそう小さな声で言うと、茜の胸に顔を埋めた。


「お、おい!男が女の胸にダイブするなんて―――」

恒久がそう言って2人に近付くと、再び恒久を殴り飛ばした茜は、


「まだわかんないの!?優希ちゃんはね、性別上男の子に生まれたけど、心の中は、女の子なのよっ!!」


優希を抱きしめながら、叫んだのであった。

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