第236話:素直が一番
しばらく考えて、重清は口を開いた。
「お前は、優大君をイジメてたんだ!優大君を守るためには、仕方なかったんだ!!」
重清の言葉に、近藤はニヤリと笑った。
「仕方なかった、か。人を守るためなら、無力な人間を傷付けてもいいってか?」
「そ、それは・・・」
「それに、お前はあの時、本当にそんな事を考えていたのか!?ダチを殴られて、キレてたんじゃねーのか!?」
近藤からそう言われて、重清は思い出した。
優大を助けに行ったあの日、廃屋で近藤は、聡太を殴った。
重清は、それを目の当たりにして怒りのあまり、近藤を殴りつけた事を。
「はっ!言い返せねーじゃねーか!そりゃそうだろう!俺の言ってる事が正しいんだからなぁ!!」
近藤は、高笑いして重清を見ていた。
その時。
「すみませんでしたぁ!!」
重清は、そう叫んで近藤に頭を下げた。
「確かにあの時、おれは怒ってあなたを殴りました!こんなんで琴音ちゃんのことを咎めるなんてお門違いでした!」
「はぁ!?」
その重清の姿に、近藤は叫んだ。
「ほっほっほ。まさか、こうも簡単に頭を下げるとは」
「な、爺さん。こいつ面白いだろ?」
ゴロウが愉快そうに笑い、プレッソもまた重清をニヤニヤしながら見ていた。
何とも緊張感のない具現獣達なのである。
「意味わかんねー!ここはなんか言い訳するとか、そういう場面だろ!?なんなんだよコイツ!!おい琴音!こんなやつのどこがいいんだよっ!?」
そう言って向けられる近藤の視線に、琴音は心底嫌そうな表情で返した。
「あ、いや。気安く名前で呼ばないでもらえますか?重清君に変な誤解されちゃうんで。それに、素直に謝ることができる重清君、素敵だと思います」
「ふっざけんなよ!なんなんだよ!なんで仲間に、こうも見事に梯子外されなきゃいけねーんだよっ!」
近藤が1人でキレていた。
「な、仲間??」
近藤の言葉に、重清が琴音を見る。
「仲間って言われるのはシャクだけど・・・」
そんな琴音は、苦笑いを重清に返していた。
「じゃ、じゃぁ・・・」
「一応、この人とは同じ人達の下にいるの」
「おい重清」
そんな時、プレッソとゴロウが話しに割って入ってきた。
「こいつら2人とも、忍者を辞めてたはずだ。それなのに今は、忍者に戻ってる。それって、呉羽のことに来た奴と同じじゃないか?」
「ほお。お主ら、この様な者達と他にも出会っているのか?」
「あぁ。おれ達、前にも同じような人に会ってるんだ。だから、プレッソが言ったことはおれも気になってた。ってことは・・・」
言いながら重清は、琴音と近藤の方を向いた。
「2人とも、もしかして大将のじいちゃんの所にいるの?」
重清の言葉に、近藤の眉がピクリと動いた。
ちなみに、重清の言う『大将のじいちゃん』とは、夏休みのキャンプの際に襲ってきた謎の集団の頭領である、厳つい爺さんのことである。
「お前は、頭領達と会ったんだったな」
近藤は重清にそう答え、琴音はただ、近藤を睨んでいた。
どうやら琴音は、近藤から『琴音』と呼ばれることが、心底嫌なようである。
「でも、なんで・・・」
そういって重清は、2人を見ていた。
「なんで?俺はただ、俺を殴ったお前と、俺を見捨てた忍者部に復讐したかっただけだよ」
近藤が、面倒くさそうにそう告げた。
「ま、そのうちの1つは既にさっき達成しちまったし、忍者部への復讐ってのも若干面倒になってはきたけどな。ま、せっかく忍者に戻れたんだし、痕は好きにやらせてもらうつもりだけどな」
そう、ダルそうに付け加える近藤から琴音へと目を移した重清は、
「こ、琴音ちゃんは?」
縋るような目で琴音を見た。
琴音が、悪意を持って近藤たちと行動を共にしているなどと、重清は信じたくはなかったのだ。
美影を重体に追い込んだと認めていたにも関わらず、重清にはまだ、琴音を信じたい気持ちが残っているのである。
重清は、まだまだ純情な中学生なのだ。
そんな重清に、琴音は事も無げに返した。
「私はただ、この世から忍者という存在を、無くしたいだけなの」
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