第235話:もう1人

「重清君、早く早く〜!」

「あっはっはぁ〜、琴音ちゃぁ〜ん、そんなに引っ張らないでよぉ〜」


重清と琴音は、綺麗なお花畑を2人で手を繋いで駆けていた。


(あぁ、琴音ちゃんとのお花畑デート、最高ぉ〜・・・・

あれ?前にもこんな事なかったっけ??)


恍惚とした表情を浮かべながらも、重清はこの状況に既視感を感じていた。


その時、重清はふと気付いた。


繋いでいる琴音の手が、濡れていることを。


(琴音ちゃん、緊張して手汗かいちゃってるのかな〜・・・っ!?)


脳内までお花畑な重清がそっと繋いだ手に目をやると、琴音の手は真っ赤に染まっていた。


(これって・・・血!?)


「重清君、どうかしたの??」

そう言ってニコッと笑う琴音に目を向ける重清。


そして重清は、その琴音の後ろに目を向けた。


そこには、血だらけの美影が横たわっていた。


「美影っ!!」


「キャッ!」


気が付くと重清は、お花畑ではなく先程までいた空き地で、琴音を突き飛ばしていた。


唇に残る柔らかな暖かさが、お花畑に行く前の出来事が真実であったことを物語っていた。


「・・・・琴音ちゃん・・・」

重清は、悲しそうな表情で琴音を見つめていた。


「また、破られちゃったわね。私の魔性の術」

琴音は、笑顔で重清を見返していた。


「もう、私のことなんて、好きじゃないのね」


「・・・・いくら琴音ちゃんでも、誰かを傷付けるなんて、おれは許せないだけだっ!!」

重清は、琴音に向かって叫んだ。


「なんで!?なんで私を邪魔する女を傷付けちゃいけないの!?

それに、重清君だって忍者になってから、誰かを傷付けたことあるでしょ!?

それと私と、何が違うのよ!?」

「そ、それは・・・」

琴音の言葉に、重清は押し黙った。


「馬鹿者!しっかりせんか!!」

ゴロウが、そう言って重清の隣へとやってきた。


「お前の祖父は、人を傷付けるために今の忍者教育を作り上げたわけではないだろう?」


(そうだぞ重清!っていうか、いい加減オイラも出してくれよ!)


「あ、忘れてた」

プレッソの言葉に、重清はそう言ってプレッソを具現化する。


「忘れんなよ!」

「悪ぃ。それにゴロウも、ありがとな!」


「あの雑賀平八の孫が、このようなことで悩んでおるのは見るに耐えなかったのでな」

ゴロウは、素っ気なく重清に答えた。


「っていうか爺さん、オイラが言ったとおり、重清は自力で術から抜け出しただろ?」

プレッソは、ニシシと笑ってゴロウに目を向けた。


「ふむ。童の言うとおりだったな」

ゴロウが、プレッソに笑いかけた。


「重清、お前危なかったんだぜ?あのまま術にかかってたら、この爺さんが思いっきりお前を殴り飛ばそうとしてたぞ?」

「幻術には、それが一番じゃなからな」


危機一髪で身の危険から難を逃れていた重清は、そんな2人の言葉に苦笑いを浮かべつつ頷き、じっと重清を見つめている琴音へと視線を向けた。


「おれは、忍者として、じいちゃんに恥じないことしかしてない!」

重清の言葉に、琴音が苦々しい表情を浮かべていると。


「へぇ。じゃぁ、俺を思いっきり殴り飛ばしたのも、そう言い切れるんだな?」

そんな言葉が聞こえたのと同時に、重清は突然殴り飛ばされた。


(ほぉ。早いな)

突然のこととはいえ、自身ですら反応出来なかったことに、ゴロウは心の中で突然の来訪者を称賛していた。


「ぐっ!!」

一方殴り飛ばされた重清は、その場で起き上がって自身を殴りつけた相手に目を向けた。


「お、お前は!?」

「俺は、忍者じゃなかったのにお前に殴られたんだぞ?それが、本当に忍者として正しいことだったのか?」

そう言って重清を睨んでいたのは、元2中忍者部であり、以前芦田優大をいじめていた男、近藤浩介であった。


「こやつの動き、かなりのものだぞ。重清や、こやつ、何者じゃ?」

ゴロウが、近藤から目を離さずに重清へと問いかけた。


「・・・・・・・・・・・・・」

ゴロウの言葉に返すことなく、重清はただ、近藤を見つめていた。


「お主、まさか・・・」

「えっと、ごめんなさい。どちら様でしたっけ?」


「なぁっ!?ふざけんじゃねーぞクソガキ!!」

近藤は、怒りの形相で重清を睨んでいた。


「重清、ありゃ優大をイジメてた奴だぞ」

プレッソが、そっと重清のフォローに入った。


「へ?・・・あ!お前、あの時の奴!!わかってたぞ、おれはちゃんとわかってた!!」

「嘘つけよ!今思いっきり『あ』っつってたじゃねーか!!」

近藤が、重清を怒鳴りつけた。


「って、んなことはどうでもいいんだよ!それより、俺の質問に答えてみろ!お前はあの時、忍者ですらなかった俺を殴りつけた!それは本当に、忍者として恥ずかしくないことだったのかよ!?

お前に、コイツのことを否定できるのかよっ!?」

近藤はそう言いながら、琴音を指して叫んだ。


「っ!?・・・・・・・」

重清は、近藤の言葉に再び沈黙するのであった。

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