第234話:対峙

雅宅を後にした重清は、街の中を走っていた。


それはもう必死に。


そして重清は、目的地へと到着した。


そこは、人気のない空き地であった。

重清達の住む2中の校区と、麻耶の住む1中の校区の間に位置する場所である。


そこで重清は、ある人物を待っていた。


そして、5分と待たないうちに、その人物はやって来た。


「来て、くれたのね」

そんな声が、重清の背後から聞こえてきた。


「・・・久しぶり、琴音ちゃん」

振り返ってそう言った重清の視界が捉えたのは、田中琴音であった。


「そうだね。卒業式以来だね」

琴音は、寂しそうに笑っていた。


「あ、うん。そうだね」

そんな琴音に、重清は曖昧に笑って返した。


「ゴメンね、急に連絡なんかして。なんだか重清君に会いたくなっちゃって」

その言葉に、重清は落胆の表情を浮かべた。


「やっぱり、琴音ちゃんだったんだね・・・」

「え、な、何を言っているの??」


「いいんだよ琴音ちゃん。記憶なくしたフリなんかしなくて。琴音ちゃん、忍者に戻ったんでしょ?」

「・・・・・・」

重清の言葉に、琴音は沈黙していた。


「ふっ」

しばし押し黙った琴音は、諦めたように声を漏らした。


「こんなにすぐバレるとは思わなかったわ。重清君、どうしてわかっちゃったの?」

琴音が、重清に笑みを向ける。


「琴音ちゃんさ、中学に入学した頃に会ったの覚えてる?」

「えぇ、覚えてるわ。あの時はまだ、重清君も忍者だなんて、思ってもいなかったけど」


「あの時琴音ちゃんさ、おれのこと『鈴木君』って呼んだんだよ。実際、おれは琴音ちゃんから、名字で呼ばれてもおかしくはないくらいの距離感だったしね。まぁ、おれは勝手に、『琴音ちゃん』って呼んでたんだけどね」

そう、セルフで脱線した重清は、自嘲気味に笑った。


(その距離感で告白した重清も、大概だな)

重清の頭に、プレッソの『今じゃない』つっこみが響いていた。


「そっかぁ。重清君って呼ぶようになったのは、2人で会うようになってからだったわね。すっかり忘れてた。私、演技に向いてないのかしら」

琴音が、苦笑いを浮かべていた。


「美影を襲ったののも、琴音ちゃんなの?」


重清の言葉にしばし沈黙した琴音は、突然叫んだ。


「えぇ、そうよっ!!カーちゃん!!」

その声とともに、琴音の具現獣、カラスのカーちゃんが重清に向って飛んできた。


「ぐっ!」

自身に襲いかかるカーちゃんの嘴を防ぐべく構える重清だったが、カーちゃんは突然、空中で何かに弾かれるように向きを変え、そのまま琴音へとぶつかった。


「ふむ。やはり、こやつで間違いはないか。あの茜と言う子、流石は雅ちゃんの孫というわけか」

そう呟くように言った声の主は、重清の足元へと降り立った。


「いや、雅ちゃんて」

(重清、そこはオイラも前につっこんだぞ)

再び、プレッソの『今じゃない』つっこみがはいる。

まぁ。今回は重清にも責任はあるわけだが。


と、それはさておき。


「ありがとな。ゴロウ、様?」

「ふん。ゴロウでよいわ」

雑賀六兵衛の具現獣、ゴロウが鼻を鳴らして重清に答える。


ゴロウに頷いた重清は、カーちゃんとぶつかって倒れる琴音へと目を向ける。


ヨロヨロと起き上がる琴音に、重清は問いかけた。


「なんで、あんなことを・・・・」


「なんで?なんで!?あの女は、重清君に近づこうとしたのよ!?重清君の隣は、私だけのものなのにっ!!」

琴音は、怒りの形相で叫んだ。


重清は、琴音の言葉に絶句していた。


「えっ、そ、それって・・・・」

重清が必死に絞り出したその声に琴音は頷いた。


「私、重清君のことが好きなのよっ!!」


(おっ、重清、お前意外とモテるじゃねーか)

「ふむ。確かに意外じゃな」


「おいプレッソとゴロウ!!もういい加減に言うぞ!このシリアスな場面で、そんなとこつっこむな!!それは絶対に、今じゃないっ!!」

重清は、突然告白された混乱から、何故か今さらつっこみをいれた。


「もぉー!人が頑張って告白したのに、無視しないでよっ!」

顔を真っ赤にした琴音が、頬を膨らませていた。


(いや可愛いなおい!)

(重清、それこそ『今じゃない』だろ)

「ふむ。童の言うとおりじゃな。状況を考えんか、馬鹿者が」


「いやお前らには言われたくねーー!」

こちらも顔を真っ赤にした重清が、それでも再びつっこんでいると。


「っ!?」


騒ぐ重清の口を、琴音の唇が塞いでいた。


「・・・・・」


目を見開いた重清の瞳を、重清と唇を合わせた琴音が、じっと見つめていた。

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