第237話:琴音の想い

「に、忍者を・・・・」

琴音の言葉に、重清は言葉を詰まらせた。


ノリは以前、今の忍者がどうやって生まれてきたのかはまだ分かっていないと言っていたのを、重清は思い出していた。


にも関わらず、目の前の少女が、『忍者の存在を無くす』などと言っているのだ。


好きだった少女のあまりの目標に、重清はただ、琴音を見つめることしか出来なかった。


「コイツ、俺以上にぶっ飛んでんだろ?」

近藤が、琴音を指差しながら笑っていた。


「ま、頭領達の目的も似たようなもんらしいから、特に問題は無いらしいがな。コイツよぉ、お前にフラレてからこんな事考えるようになったらしいぜ?

つまり、コイツの豹変ぶりは、お前のせいってこった」

重清を蔑んだような笑みを浮べて、近藤は重清を見ていた。


「おれの・・・っておれ、琴音ちゃんにフラれたことはあってもフッたことはないんですけど!?

いや、っていうか頭領のじいちゃん達の目的も似たようなもん?

あぁ、もう!!どこから処理すればいいんだよ!!」


「あー、流石に重清じゃ処理しきれなくなってきたか」

「まぁ、仕方ないじゃろ。中学生にはちと荷が重いわ」


ゴロウとプレッソが、呑気にそんな事を言っていると。


「私ね・・・・」

頭を抱え始めた重清を見かねた琴音が、口を開いた。


「中忍体のあったあの日。重清君と約束した公園に、私行ったのよ?」

「えっ・・・」

琴音の言葉に、重清は声を漏らした。


重清は琴音と、中忍体の前日に約束をしていた。

中忍体のあと、同じ公園で会おう、と。

もちろんその時には琴音が忍者であることを知らなかった重清であったが、重清は中忍体後に、琴音に改めて告白しようと考えていたのだ。


しかし蓋を開けてみると重清は、中忍体で見事に琴音に騙された。

そして重清は、それまでの琴音とのデートも、その全てがそのためのものであったことを悟った。

それ故に重清は中忍体の直後、約束の公園に行くことはしなかった。


琴音が来ないことが分かりきっていたからだ。


その、はずであった。


しかし実際は違っていた。


琴音は、中忍体の後、あの公園に来ていたのだ。

もしそれが真実であれば、

先程の琴音の告白も事実であるということになる。

そうであるならば、近藤の言うとおり、琴音の変化は重清にも責任がある。


重清が1人そんな事を考えていると、琴音が重清へと微笑みかけた。


「でもね重清君。私、自分がこうなったのをあなたのせいだなんて思ってないから」

「ほえ??」


「重清があの日来なかったのは、私が重清君を騙したからだってちゃんとわかってる。

私が忍者なんかにならなければ、重清を苦しめることも無かったってことも」

「こ、琴音ちゃん・・・」

重清は、ただ琴音を見据えて声を漏らしていた。


「悪いのは全部、忍者という存在そのものなのよ」

「・・・・・」

琴音の言葉に、重清は言葉を失った。


今までの琴音の言葉は、重清にも理解が出来た。

その言葉に琴音らしい優しさすらも感じていた重清は、それでも琴音の最後の言葉がどうしても理解出来なかった。

それではまるで・・・・


「そんなの、八つ当たりじゃないか!!」

重清は、琴音に叫んだ。


しかしそれに答えたのは、近藤であった。


「怒りのまま俺を殴っておいてよく言うよ!あの時のお前と今の琴音、何が違うっていうんだよ!?」

「ぐっ・・・」

近藤の言葉に、たじろいだ。


それでも気を取り直した重清は、近藤へと叫び返した。


「それについては認めるよ!おれも琴音ちゃんも何も変わらない!でも!」

そう言って重清は、琴音を見据えた。


「それでもおれは、琴音ちゃんにおれみたいに馬鹿な考え方はしてほしくない!恨むんなら、忍者全部じゃなくて、おれを恨めばいいだろ!!

忍者の存在を無くすなんて、そんな出来るかも分からないことなんて忘れてさ!!」


そう言い放った重清を、琴音はじっと見つめていた。


「別に、出来なくないもん」

「ほへ??」

琴音の可愛い言い方に、重清は間の抜けた声を出しながらも思った。


(いや、今引っかかるべきはそこじゃない!っていうか『もん』って!可愛いな!じゃなくて!!

おれ今、まぁまぁかっこよさげなコト言ったよ!?そこはスルーなの!?)

と。


「相変わらず、話が訳わからない方向にいってんな、重清」

「ふむ。これも脱線癖の為せる技、か」

相変わらず呑気なプレッソとゴロウが、重清の側で呟いていた。


「しかし・・・」

呑気な会話をしながらも真面目な表情で、ゴロウは琴音に目を向けた。


「忍者の存在を消すことができるなど、あまり面白い話ではないな」

見知らぬ犬に睨まれた琴音は、戸惑いながらもゴロウを睨み返した。


「ワンちゃんみたいな具現獣にとっても、楽しい話ではないわよね。でもね、出来ちゃうのよ。重清君さえいてくれれば!!」


琴音はゴロウへと微笑みかけ、重清をじっと見つめてそう言い放った。

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