第238話:にこやか男と間延び男
「えっ、おれ!?」
琴音に見つめられた重清は、焦った声をあげた。
「お、おい!琴音っ!!」
琴音の傍らで琴音を呼ぶ近藤の声を無視して、琴音は続けた。
「そうよ重清君っ!あなたさえいれば、必ずこの世から忍者を消滅させることができるはずなのよっ!!そう、ドウさんも言ってたもの!!
あなたは、必ず始祖の―――」
「はぁ〜。まったく、何故私の弟子はこうも皆、直情的なのか・・・」
「弟子を見る目がないんじゃないのかなぁ〜」
琴音の言葉を遮るように、そんな声とともに、2人の男が突然琴音の元へと現れた。
「っ!!」
現れるのと同時に、1人の男が琴音の頭へと手をかざし、そのまま琴音は糸の切れた操り人形のようにその場へと倒れ込んだ。
「こ、琴音ちゃん!?」
「おや、この期に及んでまだこの子を気にかけますか・・・」
もう一方の男が、琴音を心配する重清ににこやかに言った。
「あ、あんた達は!!」
その2人を見た重清は、声を上げた。
「して重清、こ奴らはちゃんと覚えておるのか?」
「オイラは、覚えてねー方に賭けるぞ」
現れた男達に警戒の色を強くするゴロウと、今なおのんびりしているプレッソが、重清へと声をかけた。
「いや、まぁ、名前は覚えてないけどさ。キャンプの時に襲ってきた人達だよ。頭領のじいちゃんとこの」
重清は、頬をかきながらゴロウへと答えた。
「まぁ、あの時はちゃんと名乗っていませんでしたからね」
にこやかに笑う男は、そう言って近藤へと目を向けた。
「ユキ、あなたの弟子も、対して役には立っていないようですよ?」
「な、何を―――」
男の言葉に、近藤が言い返そうとしていると、
「コウさぁ〜、コトといるときは君がしっかりしないとダメじゃないかぁ〜。この子、危うくとんでもない事言いそうになってたよぉ〜。お陰で大事なストック1つなくしちゃったじゃないかぁ〜」
髪を後ろに一括した男が、いつの間にか近藤の後ろへと移動し、間延びした声で言った。
「ちっ。悪かったよ」
一方近藤は、間延びした声に悪びれもせずそう答えていた。
「どうやら、弟子の見る目がないのはユキも変わらないようですね」
そんな近藤の様子に、にこやかな男が琴音を担ぎながらそう言ってユキと呼ばれた男へと笑いかけた。
「別に、コイツは最初からこうだってわかってたしぃ〜」
ユキと呼ばれた男は、不貞腐れた表情でにこやかな男へと返していた。
「さてと。それはさておき、真っ直ぐ娘も確保しましたし、我々はこのへんで失礼しますか」
琴音を肩に担いだにこやか男は、そう言って重清達へと笑みを向ける。
「お主ら、どうせならばもう少し話さんか?」
ゴロウが、男へと言う。
「いえいえ、もうすぐそちらの援軍が到着するでしょう?流石に我々では、雑賀雅の相手は務まりませんので」
「ちっ、バレておったか。しかしお主、その言葉だと儂の事は眼中にないようじゃが・・・・」
そう言ったゴロウはその場から姿を消し、琴音を担ぐ男の背後へと現れた。
「儂をナメてはおらんか?」
言いながらゴロウが猫パンチならぬ犬パンチを繰り出すも、男は笑みを浮かべたままふっとその場から消え去った。
「流石、雑賀本家の具現獣。こんなに力強い体の力は、親父殿以外に感じたことがありませんよ」
そんな声が、近藤のいる方から聞こえてきた。
そこには、近藤とユキと呼ばれた男、そして、琴音を担ぐ男が揃っていた。
(なんじゃ今のは。あのユキとか言う男のように高速で動いたわけでもないようじゃ。これは面倒な)
ゴロウは、笑みを浮かべる男を苦々しく睨んでいた。
「ユキ、コトを頼みます。まだ少し時間があるようですから、少しだけ遊ばせていただきます」
そう言った男は、ユキへと琴音を渡すと、ゴロウへと向いた。
「いくら高速であろうとも、一瞬の前には亀と同じですよ、ワンちゃん?」
男はそう言ってにこやかに笑うとともに、再びその場から消えた。
直後にゴロウの目の前へと現れた男は、そのままゴロウを蹴り飛ばした。
「くっ。硬いですね。やはり私の体の力では、あなたの防御を破るのは難しいようですね」
ゴロウを蹴り飛ばした男は、足の痛みに堪えながらも笑みを浮かべていた。
「ふむ。その割には余裕のようじゃな。少しは年寄りに優しくして欲しいもんじゃわい。少し、稽古をつけてやろうか」
男に蹴り飛ばされながらも地に着地したゴロウが、そう言って男へと高速で接近した。
「なんか、始まっちゃったな」
そんなゴロウと男の様子を見た重清は、ボソリと呟いた。
「はぁ〜。さっさと帰ればいいのにぃ〜。まぁ〜、確かにもう少し時間はあるみたいだし、こっちも少し、遊ばせてもらおうかなぁ〜。ってことでコウ。お前、雑賀重清と
「ちっ、俺かよ」
「だって僕ぅ〜、ドウからコトを頼まれたしぃ〜。それに僕、後方支援担当だからさぁ〜。ほら、サービスするからぁ〜」
そういってユキは、担いだ琴音のスカートをチラリと捲くりあげた。
「ぶふぉっ!!」
そんなユキからのサービスショットは、離れた重清にダメージを与えていた。
その時。
「シゲ!!待たせたな!!」
(鼻血が・・・じゃない!もう援軍が!!)
突然の声に重清が振り向くと、そこにいたのは聡太と恒久であった。
親友2人の姿に、重清は思った。
(違う、今はこの2人ではない!)
と。
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