第239話:駆け付けた友

「シゲ、大丈夫!?」

聡太が、重清へと駆け寄ってきた。


「あ、いや、うん。大丈夫なんだけど・・・2人とも、どうしたの?」

「あ?なんだよその『お前らじゃない』ってツラは!せっかくソウが、変な忍力感知したから駆けつけたっていうのによ!」

恒久が、的確に2人の状況を説明した。


「あれ?あの人って、優大君をイジメてた・・・それにキャンプの時に襲ってきた人もいるし・・・えっ!?あれ田中さん!?」

聡太は聡太で、状況を瞬時に見渡して狼狽えていた。


「あー、うん。とりあえず説明が面倒くさいからそれはあとで。なんかおれ、あの近藤って人と戦う流れになっちゃってるんだけど・・・」

重清は、ため息交じりに友人達に告げた。


「シゲ、その役俺に代わってくれ!」

その時、恒久が見事な挙手と共に前へと進み出た。


「うぉっ、どうしたのさ急に」

「そうだね。来て早々ぼくも状況がよく分からないのに、よくそんなに積極的に出られるね」

重清と聡太が、呆れ混じりに恒久を見ていると、


「最近、俺の出番が無さ過ぎるっ!!」

恒久は切実な悩みを叫びだした。


確かに最近、雑賀本家絡みの出来事が多く、上を目指すと豪語する恒久は本家との諍いを避けるために非常に出番が少なくなっていたのである。


決して、忘れられていたわけではないのである。


「「あー、じゃぁ、お願いします」」

そんな恒久の悲痛な叫びに、重清と聡太はただ、そう返すのであった。


「いいのかよ、そんな理由で・・・」

プレッソだけが、ボソリとつっこむのであった。


「んだよ、雑賀のクソガキじゃねーのかよ」

対する近藤は、やる気のない声でそう答えながら、体を伸ばし始めていた。


どうやら、やる気にはなっているようである。


「ツネ。その人、ショウさんと同じくらいの強さらしいから気をつけてね!」

聡太が恒久へそう声をかけていると、


「はっ。あんな奴と同じくらいだとは、俺も見くびられたもんだな」

近藤が、聡太の言葉を小馬鹿にしたように笑っていた。


「・・・ウチの部長を馬鹿にしないでもらえませんかね?あんな尊敬できるモテ男、この世に他にいないんで。

俺もショウさんからあんたの事は聞いてるけど、あんたが部長じゃなくてよかったって、今心底思ったよ!!」

恒久が、カッコいいような情けないような事を言いながら、近藤に対して構えた。


そう、恒久にとって、モテ男は敵なのである。


後日、琴音が重清に告白したと聞いた恒久は、例のごとく

『のぉ〜〜〜〜〜!』

と叫びながら重清への恨みを打ち消すべく、自ら『真(リアル)よっちゃんの刑』へと身を投じたとかなんとか。


そんなことはさておき。


「あんなグズが、よくもまぁこれだけ後輩から慕われたもんだ。まぁいい!アイツとの格の違いってやつを、可愛い後輩に叩き込んでやるよ!!」

そう言った近藤の姿が、ふっとその場から消えた。


「ぐぉっ!!」


その直後、恒久は声を上げながら吹き飛んでいた。

瞬時に恒久の元へ移動した近藤が、殴り飛ばした恒久を見つめてニヤニヤと笑っていた。


「あっ、伊賀の子ぉ〜、気をつけてねぇ〜。そいつ、ホントに強いからぁ〜」

ユキが、琴音を抱えたまま着地した恒久へと語りかけた。


「ちっ。どっちの味方だよ」

近藤が。そんなユキへと忌々しそうな目を向ける。


「いやぁ〜、師匠として、弟子への激励的なぁ〜?」

「はいはい、そうですかっ!!」

それだけ答えた近藤は、再び恒久へ向かって見えないほどのスピードで迫った。


(くっ、雷速らいそくの術っ!!)

近藤の姿が見えなくなる直前、恒久は雷速の術を使ってその場を離れた。


「いやいや、それで術使ってんのかよ」

「なっ!?」

目の前から聞こえてくる近藤の声に、恒久は声を漏らしながらも伊賀家固有忍術『幻刀げんとうの術』を発動させて応戦しようとする。


「遅ぇよっ!!」

近藤は、恒久が

出した幻刀ごと、恒久の腹を殴りつけた。


「ぐぁっ!!」

恒久はそのまま再び吹き飛ばされていく。

しかし近藤は、追撃せずその場で恒久を殴った手へと目を落としていた。


「ちっ。すり抜けたと思ったら、刀に切られてねーのに切られたような感覚だ。面倒な術持ってんじゃねーか。けどな・・・」

そう言ってニヤリと笑った近藤は、心の力を腕に纏っていく。


「そりゃ心の力で出来てんだろ。だったら・・・」

そう言った近藤は、そのまま恒久へと迫った。


「クッソがぁ!!」

そう叫びながら恒久は、瞬時に自身へと迫る近藤に幻刀を振り下ろした。


「なっ!?」

しかし幻刀は、近藤の拳に真っ二つにへし折られた。


「いやいや、ボーッとしてんなよっ!」

幻刀を折られたことで動揺していた恒久は、そのまま近藤の回し蹴りを受け、後方の木へと叩きつけられるのであった。

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