第240話:ゴロウ 対 にこやか男 ドウ

「やはり、早いですね」

にこやかに笑う男――ドウ――が瞬時にその場から姿を消してゴロウの犬パンチを避け、別の場所に現れながら感心したように言った。


「先程から逃げてばかりではないか小童。こんな老いぼれがジャレつくのが怖いのか?」

ゴロウがそう言って姿を現したドウへと笑いかけた。


「これでも、もうすぐ30なのですが・・・まぁ、あなたから見たら小童と言われてもおかしくは無いですね。はぁ。以前はソウ君からおじさんと呼ばれ、今度は小童・・・

誰が丁度良い呼び方をして欲しいものです」

そう言ったドウの姿が再びスッと消え、ゴロウの真上へと現れる。


「ふんっ!」

ゴロウは上空から振り下ろされるドウの踵落としを、後ろ足で弾き、そのままドウへと突進した。


しかしゴロウが直撃する直前にまたしても姿を消したドウは、直ぐにゴロウから離れた場所へと現れて笑っていた。


「逃げてばかりで、飽きぬのか?」

ゴロウが、余裕の表情でドウへと言った。


「流石に、あなたの攻撃を受けるほど自分の力を過信はしておりませんので。それに、この鬼ごっこは援軍を待つあなた方の方こそありがたいのでは?」

ドウは、にこやかにゴロウへと返した。


「ふん。確かにそれはそうだが、こうも避けられるとさすがの儂も、ちとイライラするのぉ。儂もまだまだ若いのぉ」

「十分お年を召されていると思いますが?」


「そう思うなら、少しは労らんか」

「いやいや、労る余裕がないのですよ」

そう言いながらも余裕そうに笑うドウに、ゴロウは舌打ちを返した。


「まったく、年上を敬うことを知らぬようだな。どれ、少し遊んでやろうか」

そう言ったゴロウから、心の力が溢れ出る。


ゴロウから吹き出した心の力は、そのまま2人を取り囲むように渦巻き始め、そのまま透明な15メートルほどのドームとなって2人を覆った。


「心の力を使った幻術のドームを実体化させたのですか。しかもご丁寧に、体の力で強化まで・・・」

「どれ、この状態でもお主が逃げられるか、試してみようかのぉ」


なんでもないようにそう呟いたゴロウが、ドウへと高速で向かっていった。


「問題はありませんよ」

そう言ったドウは笑顔を残して再び姿を消した。


次の瞬間には、ドウはドームの頂点に佇んでいた。


「ふむ。やはりただの移動ではなく、雅ちゃんのように空間を移動しておるようだな」

そう言いながらゴロウは、幻術で作ったドームを霧散させた。


そのまま空中から降りてきたドウが、ニコリと笑った。


「雅ちゃんて。というか、気付いていたのですか」

「まぁのぉ。いくら老いた目とはいえ、流石にただの高速移動であれば見逃すはずも無いからのぉ」


「まだ若いと言ったり、老いた目と言ったり、都合の良いことで」

「年寄りの特権じゃろ?」


「しかし、私の力が分かったと言っても、どうしょうもないのではないですか?」

「さぁて、それはどうかのぉ?」


そう言ったゴロウが、再びドウへと向かって行った。


「飽きないことで」

ドウは苦笑いを浮かべながらも、目の前の老犬に付き合うべく姿を消した。


ドウが姿を消したのを確認したゴロウは、その場に止まって回転した。


『ローリングマーキング!』

その言葉とともに、ゴロウを中心に無数の水滴が辺りに撒き散った。



「うわっ、くっせっ!!ゴロウ!何すんだよっ!!」

離れて恒久と近藤の戦いを観戦していた重清が、水滴の掛かった顔を拭きながら叫んでいた。


ちなみに同じく観戦者の聡太は、重清に隠れて見事に難を逃れていた。


「すまぬのぉ!ただの小便じゃ、気にするでない!」

「いやそれ気にするわっ!!」

ゴロウの言葉に抗議する重清を無視して、ゴロウはドウへと目を向けた。


「そんなものを撒き散らして。やはり、もうお年なのではないですか?」

体中に着いた水滴を拭いながら、ドウは苦々しい笑みを浮べていた。


近距離で小便を浴びせられたのだから、ドウもたまったものではないのである。


「犬の小便を、甘く見ないほうがよいぞ?」

そうドウへと返したゴロウから、忍力が溢れ出した。


(炎弾の術っ!!)

そのままゴロウの口からの、いくつもの炎の弾が吐き出され、ドウへと向かって行った。


「術を使ったところで、当たらなければ同じことですよ?」

そう呟いたドウは、その場から姿を消し、直後に離れた場所へと現れた。


「がっ!」

それと同時に、炎の弾の1つがドウの腕へと直撃した。


「ちっ!」

初めて笑顔を無くしたドウが、再びその場から消え、別の場所へと現れる。


「ぐがっ!」

しかしまたしても姿を現した直後のドウへ、残った炎の弾が全て着弾した。


そのままドウは、その場に膝を着いた。


「ひゃ、百発百中の術、ですか・・・」

「その通りじゃ。儂のは今の雑賀家のボンクラどもとは一味違うぞ?1度マーキングすれば、撃ち落とそうともお主を追い続けるぞ」


「くっ。やはり私では勝てませんか・・・」

「そのようじゃな。儂もまだまだ現役―――」


「ゴロウ、さん!!こっち、1つ来ちゃってます!!」

その叫び声のした方にゴロウが目を向けると、叫んだであろう聡太の足元に、顔面に炎弾を受けた重清が、髪を焦がしてのびていた。


「・・・・やはり、お年なのでは」

苦笑いを浮かべながら呆れ声で言うドウにゴロウは、


「・・・・・・・・そうかもしれんのぉ」

そう、呟くように返すのであった。

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