第94話:路地裏にて

突然背後から声をかけられた近藤は、警戒しながらも平静を装って振り向く。


「なんですか、ヤブから棒に。」

「おやおや、さっきまでイライラしていたのに、切り替えが早いんだねぇ~」

ニヤニヤしながらそう言う男に苛つきながらも、近藤は極力感情を抑えて相手を見る。


20代後半に見えるその男は、全身黒で統一した服に身をまとい、同じく黒い長髪を後ろで1つにまとめ、黒い瞳で近藤を見ていた。


「さすが、一度は忍者の契約をしただけのことはあるねぇ~。

こんな状況でも、相手の観察ができるなんてねぇ~。」

「は?忍者って、何ですか?俺、用事あるんで。」

そう返して近藤は、男の脇を通ってその場を後にしようとする。


「あの子達に、やり返してやろうとは思わないかねぇ~?」

その言葉に、近藤の足が止まる。


「僕に着いてきてくれれば、それが出来るだけの力をあげる。いや、取り戻させてあげるよぉ〜?」


「あなたにそんな力があるなんて、思えないんですけど。」

近藤はそう言って振り返る。


しかし目の前にいるはずの男はそこにはおらず、背後から男の声が聞こえてくる。


「百聞は一見に如かず、ってねぇ~。」


「っ!?」

突如、近藤は


その記憶による恐怖に、近藤の足は震え、その場に座り込む。


「あ、あ・・・」

「どう?その記憶、いい感じでしょ~。」

「お、俺はあんたに・・・うわぁーーっ!!」

そう叫んで近藤は、頭を抱え込む。


「凄いでしょ~?1カ月間拷問され続けた記憶なんて、なかなか体験することないからねぇ~。」

男が近藤を覗き込むと、近藤は男をにらみ返す。


「一体何をしやがった!?」

「おや、普通に会話できるんだねぇ~。その記憶の元の持ち主は、『殺してくれ』って言うばかりでろくに会話もできなかったのにねぇ~。

同じ記憶でも、精神力によって影響が違うんだねぇ~。」

そう呟くいて男が近藤に手をかざすと、近藤から恐怖が瞬時に消えてなくなる。


「な、何なんだよ今の!」

「どう?不思議な感覚でしょ~?僕に拷問され続けた記憶は無くなったのに、その記憶を持っていたという記憶だけ残したからねぇ~。」

「意味わかんねぇ。俺は、あんたに会ったことがあるのか?」

「いいや、はじめましてだよぉ~。」

「だったら、何なんだよ今のは!?」

「さっきのは、他の役立たずの記憶だよぉ~?ま、一回使っちゃったから、本人に戻っちゃったけどねぇ~。でも、僕の凄さはなんとなく分かったんじゃなぁい?」


「・・・あんたに着いていけば、こんなことが出来るようになるのか?」

「ん〜、同じことは出来ないだろうけど、あの子達に復讐するとことは、出来るようになると思うよぉ~?」

「わかった。あんたに着いていくよ。」


「そうこなくっちゃねぇ~。やっぱり、恐怖っていうのは便利だねぇ~。またどこかのバカから、新しく記憶を手に入れないといけないなぁ~。

あ、着いてくるのはいいんだけど、1つ約束してくれないかなぁ~?」


「約束?」

「もう、あんなことはしないで欲しいんだよねぇ~。」

「あんなこと?」

「キミがあの廃屋で、毎日やってたことだよぉ~。」

「・・・俺が辞めたところで、アイツらがチクるだろ。」

「その点は大丈夫。既に処理済みだからねぇ~。

それで、約束してくれるのかなぁ~?」


「・・・分かった。代わりのストレス発散は、準備してもらうぞ?」

「若いっていいねぇ~。自分の立場をわきまえてないねぇ~。

でもその点は大丈夫だよぉ~。たっぷりストレス発散はできるだろうからねぇ~。」


「そうか。だったら、案内してくれ。」

「ホントに自分の立場が分かってないねぇ~。少しだけ、さっきの記憶を無くしたことを後悔しちゃったよぉ~。」


「ふんっ、知るか。」

「まったく。鍛えがいがありそうだねぇ~。」


そう言って近藤と男は、路地の奥へと進んでいくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る