第93話:花園先生再び

「失礼します。」

「はいはぁ〜い。あらあら、ソウ君、怪我しちゃってるじゃないの〜。どうしたのぉ〜。」

重清達が保健室に入ると、花園がそう言って素早く聡太の元へとやって来て、顔を覗き込む。


「えっ、いや、ぼくじゃなくて、この人を連れて来たんですけど・・・」

顔を赤くしてシンの背にいる芦田に目を向けて答える聡太に、


「あら、残念。とりあえず、彼はベットに寝かせてあげてね?」

そう言って残念そうに、本当に残念そう言う花園に従い、シンベットへと芦田を寝かせて重清に耳打ちする。


「おいシゲ、花園先生とソウ、どういう関係なんだ?」

「なんか花園先生、ソウがタイプらしいですよ。」

「な、なんだとぉ!!」

「ちょっときみ、保健室では静かにしてよ〜」


突然叫ぶシンに厳しい視線を送りながら、花園が3人を見渡す。


「それで、この子、どうしちゃったのかしら?」


花園の言葉に、重清と聡太は同時にシンに目を向ける。


「近くの廃屋にたまたま行ったら、そこで倒れてました。一緒にいた人は、逃げてしまって。もしかしたら、イジメなんじゃないかと・・・」

シンがそう答えると、


「あら、それは聞き捨てならないわね。それは、彼本人が言っていたのかしら?」

「いえ、そういうわけでは・・・」

「そう。それなら、詳しい話は彼が起きてから聞きましょう。あなた達は、もう帰ってもいいわよ?ソウ君は、その傷見てあげるから2人でお話ししましょう?」

そう言ってキラキラした目で聡太を見る花園に、少しドキッとしながらも聡太は、


「い、いえ。ぼくも帰ります!花園先生、あとはよろしくお願いします!」

「んもぅ。私のことは、薫、もしくはカオルンって呼んでくれていいのよ?」

「じゃぁ、カオルン、あとはよろしくお願いします!」

困り顔の聡太に代わって重清がそう言うと、


「ちょっとシゲくん?先生をそんな風に呼ぶなんて、失礼なんじゃないかしらぁ??」

「理不尽っ!!もー、絶対変えない!」

「えー。ソウ君が呼んでくれるなら、シゲ君が呼ぶことも許してあげるわよ??」

そう言って笑う花園に、ソウはおそるおそる、そして仕方なく、

「か、カオルン?」

と呼びかける。


「んはぁ〜〜!いい、良いわ!」

決して学校で出してはいけない類の声でひと通り悶えた花園は、恍惚とした表情を浮かべたまま、

「じゃぁ、あとのことは任せて帰りなさい。ソウ君と愉快な仲間たち。」


「差別っ!紛うことなき差別だっ!!」

「はいはい、シゲ君と・・・」

「シンです。」

「シン君ね。あら。シゲ君??」

「はい??」


花園が突然真面目な顔をして重清を見つめる。


「あなた今、恋してるぅ??」

「なぁっっ!!」

「あらぁ、その反応は当たりね。いいわねぇ、若いってぇ。良かったら、今度お話聞かせてよ?お茶とアドバイスくらい、だせるわよぉ?」

「おぉ、ホントですか!?」

「もちろぉん。その時は、ソウ君も一緒に、ねぇ?」

「結局それが目的かっ!!」

そんな言葉を残して、重清達は保健室を後にする。


「イジメ、ねぇ・・・」

あとに残った花園は、ベットに横たわる芦田に目を向けて、ふと時計を見る。


「あらぁ、会議が始まっちゃうじゃなぁい。」

大変大変、と呟きながら花園は芦田にメモを残し、保健室に鍵をかけて廊下を駆けていく。


花園が保健室をあとにしてすぐ、保健室の窓から一筋の風が入り込む。


すると、先程まではなかったはずの影が芦田の枕元に現れる。

その影が、スッと芦田へと手を伸ばす。




「クソがぁっ!!!」

ある路地裏で蹴り飛ばされたゴミ箱が、中身を周りに撒きながら転がる。


「難なんだよアイツら!人の楽しみを邪魔しやがって!!」

そう叫んで、近藤は頬に手を当てる。


跡が残るほどではないが、まだそこは僅かに鈍い痛みを発し、それが近藤を刺激する。


「あの野郎、後悔させてやる。」


「今のきみでは無理だねぇ〜」

「っ!?」

突然、近藤の背後から男の声がする。

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