第411話:近藤とヒト

「うぉーーーーっ!!」

ヒトが、叫びながら走っていた。


「おいコウ!助けてくれよっ!」

「そんな犬っころ、1人でどうにかしろよ!ヒトのおっさん!」

ロイから逃げながら求められる助けに、近藤は雑に返しながら恒久の手裏剣を避けた。


「いやいや、ただの犬じゃないだろこれ!ドウさんにも勝ったことあるって聞いたぞっ!」

「知るかよ!さっさとそいつどうにかしねぇと、俺がこのガキのしちまうぞ!」


「やれるもんなら、やってみろってんだ!」

近藤のヒトへの言葉に、恒久はそう叫びながら近藤に蹴りを放った。


それを受けた近藤は、


「ふん。少しは鍛えてるみたいだな。けど、ショウには遠く及ばないっ!」

恒久の蹴りを受け止めながらそう言って恒久を殴り飛ばした。


「ちっ」

恒久は空中で回転して着地すると、近藤に声をかけた。


「おい近藤。お前、なんであいつらに協力するんだ?お前、ショウさんに勝ちたいんだろ!?あいつら、忍者の存在を消すって言ってるじゃねぇか。

忍者じゃなくなったら、ショウさんに勝つとか関係なくなるじゃないかよっ!」

そんな恒久の問に、近藤はヘラヘラと笑った。


「何で、だぁ?そんなもん、強くなれるからに決まってるじゃないか。あいつらと行動をともにしてからの俺は、あのクソ教師ノリの所にいる時よりも確実に強くなっている。

それに、あいつらは俺に約束したんだ。忍者を消す前に、ショウとの再戦の時を作るってな」

「それで勝っても、お前も忍者じゃなくなるんだぞ!?それでいいのかよっ!!」


「ショウに勝てれば、後のことなんて知ったことじゃない!これは、俺のケジメなんだよっ!」

「どこまで勝手な野郎だよ!それに、前回ボロ負けだったくせに、まだショウさんに勝てると思ってんのかよ!」


「俺を、前回までの俺と一緒にするなよ?

見せてやるよ。ショウに勝つために編み出した、俺の新しい力をなぁ!」

近藤はそう言うと、その体に忍力を集中させていった。


そして、近藤の体が光に包まれた。


強い光に目を伏せた恒久が視線を上げると、そこには姿を変えた近藤が佇んでいた。


その下半身は馬のような肢体に支えられ、本来ならば馬の首があるはずの箇所からは近藤の上半身がニョキリと生えるように突き出ていた。


「これは・・・『馬化バカの術』?」

「いや、バカて!ちげぇよ!『ケンタウロスの術』だよっ!!

ショウの使った『猫化びょうかの術』に対抗すべく作り上げた、俺だけの忍術だ!ショウみたいに猫になって武具を握れないなんて下手な失敗はしない、最強の忍術だっ!!」

恒久の言葉に、近藤はつっこみの声を上げた。


(いやぁ、うん。微妙・・・)

その姿に心の中で呟き強がりながらも、恒久は冷や汗をかいていた。


目の前の近藤の姿にはつっこみたくなるほど微妙な想いを抱く恒久であったが、それ以上に近藤から溢れ出る力に、恒久は焦りを感じていた。


その力からくる威圧感は、『猫化びょうかの術』を使うショウのそれを上回るほどのものであることを、恒久は感じていたのだ。


(こりゃぁ、出し惜しみしてる場合じゃねぇな)

そう考えた恒久は、


(『幻獣げんじゅうの術』っ!)

術を発動して麒麟を作り上げた。


「ほっほっほ。なにやら面白そうな事になっておるみたいじゃな」

恒久の作り出した麒麟の背に飛び乗ったロイが、恒久に声をかけてきた。


「ん?ロイ、あのヒトっておっさんはどうしたんだ?」

「あの男ならほれ。あちらでのびておるわ」

そう言って向けるロイの視線を恒久が追うと、そこには悲しそうに気絶する、ヒトの姿が目に入った。


(なんか、あのおっさんが不憫に思えてきたわ)

憐れむ瞳でヒトの姿を見つめる恒久にロイは、


「して、恒久よ。どうする?儂が手伝おうか?」

そう問いかけてきた。


恒久はロイから近藤へと視線を変え、そのまま口を開く。


「いや、聡太じゃねぇけどよ。俺1人でやらせてくれ」

「ふむ、そうか」

恒久の言葉を聞いたロイは、満足そうに笑うと麒麟の背から飛び降り、


「では、儂は優雅に観戦しておくとするか。じゃが、もしもお主に危険があるときは、迷わず手を出すぞ?」

そう言って亀へとその姿を変え、近くの木の根元へと落ち着いた。


「そうならねぇように努力するよ」

恒久がロイへと返していると、


「なんだ。犬っころは休憩か?」

馬の下半身から生えた近藤が、ヘラヘラと笑っていた。


「あいつは爺さんだからな。ここらで少し、休んでもらうんだよ」

「失礼な。儂はチーノよりも若返っとるんじゃぞ」

そんなロイのボヤキを無視して、恒久は近藤へと笑いかけた。


「そのアホみてぇな術が本当にショウさんに通用するのか、俺が確かめてやるよ!」

「調子に乗るなクソガキがっ!お前なんか、ショウとの前哨戦にもなるかよっ!」


心の底ではショウを認めている近藤は、恒久の言葉に怒りの形相を浮かべ、トンファーを構えた。


「行くぞ、麒麟っ!」


こうして、モテない男達の戦いは始まったのであった。

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