第154話:あけみ姉さんが来た理由

「よっし、到着だ!」


それぞれが盛り上がる道中を経て、一同は目的地であるキャンプ場へと到着した。


ケンだけは、何故か若干げっそりしているのをシンとノブが気にしてはいたが、同車したメンバーを見てなんとなく察した2人は、ケンの隣へとそっと寄り添い、無言でそっと肩に手を置いていた。


素晴らしき友情である。


「っていうか・・・」

車から降りた茜が、周りを見渡して言葉を濁す。


「ボロボロじゃねーかっ!!」

茜に代わり、恒久がいつものごとくつっこんだ。


「そりゃそうだろ。ここは以前熊が大量に発生して、それ以降使われなくなっちまってっからな。」

ノリが、2人の言葉に当たり前のようにそう返す。


車から荷物を降ろしながら。


「いや熊て!ノリさん熊てっ!!」

重清が、そんなノリに叫んでいた。


車から荷物を降ろしながら。


「いやお前らめんどくせーよ。先に荷物を降ろせ!その後で、アケさんのことも含めてちゃんと説明すっからっ!!」

荷物を降ろしながら叫ぶノリに、一同は渋々ながらも各自の荷物を降ろし始めるのであった。


もちろん全員、熊と聞いたせいで周りを警戒しながら。



「さてと。全員荷物は降ろしたな。」

各自が荷物を降ろしてノリへと視線を向けるのを見て、ノリが一同を見る。


「ノリさん、それでー、熊ってどういうことなんですかー?」

ショウが、そんなノリを見返して尋ねる。


「あー、それな。確かにここは、以前熊が発生した。けどな、今はいねーんだよ。

熊発生のあと、客足が遠のいてこのキャンプ場は閉鎖。

それを協会が買い取って、今ここは俺等みたいな関係者しか使ってねーんだよ。

とは言っても、無関係な人が近寄ってしまう可能性も有る。そこで、アケさんの出番ってわけだ。」

「そーゆーこと!」

ノリの言葉に、あけみ姉さんがドヤ顔で一歩前に出る。


「あっ。もしかして、『中央公園』で使われてる忍術ですか?」

「さすがソウちゃん、シゲちゃんとは違うねぇ!そうだよ。『中央公園』の奥の席にかけている、忍者ではない者が『なんとなく行きたくなくなる』術、その名も『何嫌(なんかいや)の術』を使うのさっ!!」

ババァーーン!という効果音でも聞こえてきそうなくらいのドヤ顔で、あけみ姉さんが胸を張る。


「いや術のネーミングセンスっ!!」

「ってか何気におれ、ディスられてるよね?」

恒久のつっこみと重清の悲しげな声は、森の中へと吸い込まれていった。


静寂の中、あけみ姉さんが若干顔を赤らめて口を開く。

「一応言っとくけど、この術は私の術じゃないからね?この術を作ったのは平八様なんだ。だから、名前のことは私に言われてもどうしようもないんだからね!」


尊敬すべき平八をこうもあっさりと売る薄情な女、あけみ姉さんなのであった。


「お前のじいさん、色々と凄い人だとは思ってたけど、ネーミングセンスも凄いんだな。」

「別の意味でな。」

シンとケンが、苦笑いしながら重清に話しかけてきた。


「まぁ確かに、チーノも白いってだけでシロって名前だったみたいですからね。チーノ、その辺について何かご意見は?」

「ノーコメント。」


「いや、そこをなんとか!」

「ノーコメントっ!!」


「だそうです。」

「いや別に、チーノの意見とか求めてないからね!?」

何故か重清とチーノの無駄なやり取りを見せられたシンは、たまらずつっこんでいると、


「相変わらず、あんたんとこは騒がしいね。」

「・・・返す言葉もありませんよ。それより、あんなバカ共はほっといてアケさん、お願いできますか?」

あけみ姉さんとノリがそんな会話をして、直後にあけみ姉さんが何嫌の術を発動する。


辺り一帯を、術が覆う。

「くぅっ。やっぱり普段よりも範囲を広めると、キツいねぇ。

みんな。私はこの術のせいでろくに動けそうにない。

後のことは頼んだよ。」


あけみ姉さんがそう言って車の中で寝始めたのを見たノリは、


「ってことらしい。とりあえず、半々に別れてテントと晩飯の準備だ。

俺は念の為にこの辺を見回ってくる。ショウ、後のことは頼んだぞ。」

そう言ってその場を離れようとすると、その背に茜の声がかけられる。


「ノリさん!大事な事を聞いていません!」

「大事な事?」

ノリが振り向いてそう言うと、茜だけでなく麻耶も真剣な表情で、ノリを見つめていた。


「「お風呂はどこに!?」」


「あー。」

2人のかつて無いほどの真剣な表情に怯みつつ、ノリは古いコテージを指す。


「風呂ならあそこにある。一応水は引かれているが、ガスは来ていない。シン、アカ、術を使って構わないから、湯沸かしは任せたぞ。」

そう言ってノリが今度こそその場を後にしたのを確認した恒久が、スススッと重清に近寄ってくる。


「重清、わかってるな?」

「もち!」

「2人とも、何の話?」


重清と恒久の会密談、相談が不思議そうに加わってくる。


「お前なぁ、風呂だぞ?わかってるか!?」

「ソウ、こういう時、お約束があるだろ?」


「えーっと、それって・・・」


「「風呂と言ったら、覗きに決まってるだろう!?」」


※覗きは犯罪です。決してやってはいけません。

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