第35話:ソウの修行

重清とプレッソがそれぞれ別れて修行を始めた頃、ソウもまた、ショウと共に修行をしていた。


「よし、これでひとまず一番の課題だったレーダーの小型化はいい感じになったね。」

「はい!ありがとうございます!」

お礼を言っているソウの手には、スマホがあった。

しかしそこに映されているのは通常のスマホの画面ではなく、ソウがこれまで使用していたサッカーボールサイズのレーダーと、同じ画面なのであった。


「まさか、この短時間でここまで小さくできるとは思ってなかったよ。」

「ショウさんの教え方がわかりやすかったからですよ。」

「そう言ってもらえると、嬉しいよ。ま、きみの才能あってこそ、だけどね。」

と、なぜか互いに褒めあっている2人。

ソウは照れ、ショウは喜びながら。


「よし、じゃぁ次のステップだね。一昨日の模擬戦を見てて思ったんだけど、ソウはシンの攻撃、目で追って避けてなかった?」

「え?は、はい。普通は違うんですか??」

「もちろん、目で追うこともあるけど、大体は忍力でそういうのは感知できるはずなんだよ。ソウは忍力高いし、簡単にできるはずなんだけどそれができてない。ここからは古賀先生の推測なんだけど、武具がレーダーであることによって、そういう感知する力をそっちに持っていかれてるんじゃないかな?」

「古賀先生にも明確にわかってないんですか?」

「そうみたいだよ。古賀先生も、武具がレーダーっていうのは見たことないらしい。だから、どうすればいいかは、ソウ自身で模索していくしかないんだ。

一応古賀先生の方針としては、レーダーを具現化したまま、忍力による感知ができるような修行を、ってことだったんだけど・・・」

「けど?」

「小型化できたそのレーダーを見たら、違うこと試したくなっちゃった。」

(な、なんて素敵な笑顔!じゃない!)

ショウのいたずらっ子っぽい笑顔に思わず見惚れてしまったソウは、心の中で自分につっこんでから、聞き返す。


「別のこと?」

「そ。それさ、どこからどう見てもスマホじゃない?だったらさ、本物のスマホみたいに、色んな機能、付けられそうじゃない?」

「機能、ですか?」

「うん。アプリみたいにさ、いろんな機能が追加されていったら、面白いと思わない!?」

「それは・・・ちょっと面白いですね。」

「でしょ!?ちなみに、今はどんな画面なのか見てもいいかな?」

頷くソウを確認して、ショウがソウの手にあるスマホ型レーダーの画面に目を向ける。


「ねぇソウ、この『同期』って、なんだと思う??」

楽しそうなショウの言葉にソウも画面に目を向けると、レーダー画面の右端に、『同期』と書かれたアイコンのようなものがあった。

「これは、前のレーダーの時にはなかったと思うんですよね。やっぱり、この形になったことと関係があるんでしょうかね?」

「その可能背が高いと僕は思っているけどね。それでソウ、それ、タッチしてみる?」

「はい。なんとなく、どうなるかの予想もつきますし、やってみます。」

そう言ってソウが、画面の『同期』アイコンをタップする。

直後、ソウの顔がハッとする。

(これは・・・すごいな。)


そして、ソウがショウに対して言葉を発する。

「ショウさん、これ思った以上です。たぶん、さっきショウさんが言っていた感知、解決したかもしれません。」

「ん??」

不思議そうなショウの顔を見て、

(本当にいろんな表情がある人だなぁ。)

と思いながらソウがショウに笑顔を向け、ある方向を指して、

「こっちの方角、600メートルくらい先にアカとシンさんが、こっちの850メートルくらい先にツネとケンさん、あれ?こっちの530メートルくらい先にプレッソと古賀先生とハチ?

シゲは?あ、ノブさんとこっちの700メートルくらい先にいる。」


「もしかして、今のが全て瞬時にわかったのかい!?」

「そうみたいです。多分、このレーダーとぼくの感覚が同期したんだと思います。」

「それが、『同期』の効果、ってことか。それにしてもすごいね。正直感知の範囲も僕よりも広い。しかも、その先にいるのが誰かまでわかるのか。」

「でもこれ、たぶん先にみんなの存在を認識してたからな気がするんですよね。先にみんな、このレーダーで感知したうえで、ぼくが誰かを把握してたからわかる、みたいな。」

「なるほどね。敵をどう感知するかは、やってみないとわかんないってことか。まぁだとしても、味方がどこにいるか瞬時にわかるってのは、かなり心強いね。」

「はい!」

ソウが笑顔でショウに返す。


「とりあえずこれで、感知の問題もクリアしちゃったね。じゃぁあとどんな機能を追加できるかは、ソウが模索していってみてね?じゃぁっと、あとはガンガン模擬戦しながらいろいろと気になるところを注意していく方向で考えてるんだけど、それでいいかな?」

「はい!よろしくお願いします!!」

ソウがショウに対して頭を下げてそう返すのを見て、ショウが思い出したようにまた話し出す。


「あ、そうだった。ソウ、これ見てて。」

そう言ってショウが、5メールほど先にある岩に対して手のひらを向け、

「水砲の術」

そう言うとショウの手のひらの先に水の玉が出現し、そのまま岩の方へと向かう。

水の玉は岩に当たると、岩の表面を10センチほど抉り、そのまま消滅した。


「ショウさんの属性、水なんですね!」

「うん、そうだよ。でもね、それを教えるために今のを見せたんじゃないんだ。」

そう言うとショウは、自身の武具である杖を具現化させる。

「もう一回行くよ。水砲の術!」

ショウが杖を岩に向けて術を唱えると、今度は杖の先から水の玉が出現し、岩に向かって飛び出す。

すると、水の玉は先ほどとは違い、岩に当たった途端に岩を粉々に砕いていく。


それを見たソウは、

「威力が全然違う?」

「そう。違いはわかる?」

「武具、ですか。」

「その通り。2回目、僕はこの杖を使って術を使ったんだ。武具っていうのは、具現者の忍力との親和性が高いみたいでね。普通に使うよりも武具を通して忍術を発動した方が、威力や力の効率が全然違うんだよ。ソウの場合は僕みたいな使い方にはならないかもしれないけど、武具を通して忍術を発動することをイメージしてやってみるといいよ。」

「はい、やってみます!」


「ようし、じゃぁさっそく、ひとつ手合わせと行こうか。準備はいいかな?」

ショウの言葉に、レーダー上でショウにタップしたソウは、

「はい!」

そう言って構える。


対するショウは杖を構えて、

「安心して。今日のところはこの杖だけで相手するから。」

笑顔でそうソウに返す。

普通であれば思いっきり嫌みな挑発ともとられかねないこんなショウの発言も、これまでのショウを見ていたソウはただの気遣いの言葉としか受け取らなかった。

「ありがとうございます!では早速!!」

そう言ってソウがイメージする。

(レーダーを通して術を発動する!)

「木砲の術!」

そのとき、ソウの頭の中で機械的な声が聞こえる。

(『追尾』の機能が追加されました。使用忍術に木砲の術を、対象者にショウを、それぞれセットしますか?)


(ここまで便利機能あるの!?とりあえず、「はい」だ!)

ショウがそう念じると、シンとの模擬戦の時よりも一回り大きい花が出現し、すぐさまショウに対して種での攻撃を開始する。

対するショウは、飛んでくる種を杖を回転させることではじきながら、そのままソウの方へと突っ込んでくる。


(これじゃ追尾の意味がない!)

そう考えたソウは、ショウから逃れながら、花とソウ自身でショウを挟み込むような位置へと移動する。

「おぉ、考えたね~」

挟まれたショウは、片手で杖を操って種をはじき続けながら、感心した顔をソウに向ける。

(いや、あの人どれだけ余裕あるんだよ!)


そう呆れながら、ソウは体の力で手足を強化し、ソウへと突っ込んでいく。

「まぁ、きみだとその方法になるよね~。ちょうどいい。よく使われる手だけど、こういった場合どうなるのか、実験だ!」

そう言ってショウは、ソウが繰り出す拳をこともなげにいなし、そのままソウの背後へと回り込む。

その直後、ショウを狙ていたはずの種が、ソウの腹部へと着弾する。直後に2つの種がソウの手足を襲う。

「うわぁ!」

その声とともに、ショウが再度ソウと花の間に立ち、いくつかの種を撃ち落としたところで、ソウの木砲の術が解除される。


「追尾ではあるけど、使用者に当たることもあるみたいだね。多分、追尾する技を見たら皆おなじようなこと考えるはずだから、ちゃんと『そう来ると思っていたぞ!』って返せるように準備してた方がいいかもね。」

「いてて。はい、ありがとうございます。それにしてもショウさん、ちょっと強すぎじゃないですか?」

「いや~、きみたちよりも2年も長くここにいるんだよ?このくらいの差は見せつけておかないとね~」

エヘンと胸を張るショウを見て、(本当に表情の多い人だな)と思ったソウが、ショウに対し笑顔を返し、お互いに笑いあうのであった。

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