第34話:プレッソの修行
重清、ソウ、恒久がそれぞれがっかりしている頃、プレッソはハチの背に乗ったまま、古賀とともに森の一画へと到着していた。
「さてと、この辺でいいかな?プレッソ、疲れはとれたかい?」
「おう、なんとか大丈夫だ!ハチさん、ありがとうございます。」
ハチの背から飛び降りて、プレッソはハチに頭を下げる。
「くぁ〜!」
気にしてないわ!と、ハチが鳴くのを聞いたプレッソは、ふと気付く。
「あれ、ハチさんの言ってることがわかる?」
「え、今更かい?具現獣同士は、会話ができるんだよ?きっと、今までプレッソがハチのこと怖がってたから、声が聞こえてなかったんだね。」
「そうかぁ。ハチさん、今まですみません!ハチさんこんなに優しいのに怖がっちゃって。」
(私が威嚇したのが悪いのよ。気にしないで。)
ハチの声を聞いて、プレッソは笑顔になる。
と同時に思う。
(あれ、ハチさんってメス??)
「どうやら、仲直り?したみたいだね。じゃ、早速プレッソの修行に入ろう。と、その前に。プレッソ、忍力は大丈夫かい?」
「ん?あぁ、ノブのヤローにたっぷりしごかれはしたけど、まだ大丈夫だぜ?」
「そうかい。でも後で、ちゃんと重清から忍力をたっぷり食べさせてもらいなよ?」
「当たり前だ!もう、腹減ってしょうがないならな!まぁ、あいつも、さっきの修行で大分忍力使っちまったみたいだけどな。」
「しばらく様子をみてたけど、修行頑張ってたみたいだね。」
「あぁ、まだまだ納得のいく程ではないけど、様にはなってきてると思うぜ?」
「それはよかった。じゃぁここからは、こっちの修行だ。」
そう告げて古賀は、改めてプレッソに目を向ける。
「古賀、ハチさんとの修行って言ってたけど、具体的に何するんだ?」
古賀は、自分は呼び捨てで、ハチだけにさん付けしているプレッソに苦笑いを浮かべながら、説明を始める。
「特に難しいことをするってわけじゃない。単に、力の使い方を改めて確認する、って感じかな?
きみたち具現獣が、忍者のように心・技・体の力を使えるっていうのは、わかってるかな?」
「ん?そうなのか?」
「やっぱりわかってなかったのかい。じゃないと、具現獣が忍術を使えるわかないだろ?」
「あ、そりゃそうか。」
「でしょ?でもね、忍者と具現獣では根本的に力の使い方で違うことがあるんだ。忍者は、忍力と心・技・体と力をそれぞれ持っているけど、具現獣はそうじゃない。具現者から与えられた忍力しか持っていないんだ。その忍力を、心・技・体の力に還元しているんだよ。」
「ほぇー。ん?ってことは、オイラたち具現獣って、ものすごく忍力使うんじゃないか?」
「そのとおり。だからこそ、より効率的な忍力の運用が大事になってくるんだよ。」
「で、そのためのハチさんとの修行ってわけか。」
(そのとおりよ。)
古賀に代わって、ハチがプレッソに返事をする。
「プレッソ、きみはまず、現時点での忍力の限界値を把握するんだ。そのうえで、ハチとの修行の中で、どうすれば効率よく忍力を使っていけるか、見つけてほしい。これに関しては、明確な答えがないから、自分で模索していくしかない。」
「現時点でのって、忍力の限界値ってやつは、増やせるのか?」
「ん?あぁ、そうだよ。重清の忍力の練度が高くなると、それだけプレッソを具現化したときの忍力量は増えるし、プレッソ自身も、普段から多めに忍力を喰らうことで、少しずつだが増やしていくことができるんだ。」
「なるほどなぁ。で、修行ってなにやるんだ?」
「単純に、ハチとの模擬戦だよ。先にノブとの修行でそれなりに忍力を使った状態のきみが、全力は出さないにしても忍力はフルの状態のハチに対抗するには、忍力の効率的な運用は絶対に必要になるはずだよ?」
(私が胸を貸すから、安心してかかってきなさい。)
「ハチさん、ありがとうございます!」
「さてと、一通りの説明は終わったし、早速始めようか?」
「おう!ハチさん、よろしくお願いします!」
(任せなさい。この修行で、私は忍術は使わないから、安心してかかってきなさい。)
「よし、じゃぁお互い、距離をとって。
始めっ!」
古賀の声を聞き、プレッソは忍力を体の力に還元するようイメージする。
すると、全身に力がみなぎるのをプレッソは感じた。
(お、できた!ようし、これなら!)
プレッソがハチへと向かって駆けていく。
そんなプレッソを、飛んで避けることもできるハチはそれをせず、ただ向かってくるプレッソへと目を向ける。そして。
「にゃぁっ!?」
突如目の前のハチが自分に向かってくるのを目にしたプレッソは、それを迎え撃つ。
しかし、猫の手による攻撃が当たる直前に、ハチの姿が霧のように消える。
「バシッ!」
直後、プレッソの背後から現れたハチの翼にはたかれて、プレッソはそのまま吹き飛ばされる。
ハチが加減したことにより、ダメージこそなかったものの、プレッソはハチに叫ぶ。
「ハチさん、今の幻術じゃないですか!?術は使わないんじゃなかったんですか!」
(あら、私は忍術は使ってないわよ?)
(忍術を使ってない?でもありゃぁ、シンの分身の術みたいじゃねーか!)
そう考えてプレッソは、思いつく。
(ま、やってみっか!)
そしてプレッソは、イメージする。
「行くぜぇっ!」
向かってくるプレッソの姿を見たハチは、
(やるわね。でも甘いわ!)
向かってくるプレッソから視線を外したハチが、横に目を向ける。
「なぁ!?」
その視線の先にいたプレッソは、驚いた表情で声をあげ、再びハチの翼によって吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながらも空中で体勢を整えたプレッソが、そのまま着地する。
しかし着地したプレッソは、足が震えそのまま倒れこんでしまう。
「あれ??」
「あらら、もう忍力が切れる寸前だね~。今日はこの辺にしとこうか。
あ、気を付けないと、忍力切れたら消滅しちゃうよ??」
「は、ちょ、そんなこと今更言うか!?忍力使いきったら、オイラ死んじゃうってことかよ!?」
「あ、消滅って表現は誤解を生んでしまうね。別に死ぬわけじゃない。ただ、具現化の維持ができなくなって具現者の元に戻るってだけ。まぁ、そうなった場合はしばらく具現化できなくなるんだけどね。」
「へ、へぇ~」
そう言ったまま、プレッソは疲れ果てて眠ってしまう。
「寝ちゃったね。」
(そうね。でも驚いたわ。私がやったのを見て、心の力での幻術をあんなにもあっさりやってしまうなんて。)
「まぁ、忍力との親和性が高い具現獣だからこそ、なんだろうけどね。それで、プレッソはどうかな?」
(力の使い方はまだまだね。でも鍛えがいはありそうね。)
「あと2日は、任せていいのかな?」
(任せて。どちらにしても、今日もあなた、何にもしてないじゃない。)
「いや、いつものようにしっかり説明してたじゃん!」
(はいはい。この子、重清くんよりはしっかり頭使ってるけど、それでもどちらかというと体に覚えさせたほうがいいタイプだと思うのよ。だから、あと2日、ビシバシやらせてもらうわ。)
「プレッソも、雅様の修行の過酷さを十分体験してるんだ。それくらいきっと乗り越えてくれるよ。」
どこか遠くに目を向けながら、古賀がつぶやく。
(あら、辛いこと思い出させちゃったかしら?)
「いいや。楽しかった思い出を思い出してたんだよ。」
そう言って笑う古賀を、微笑んで?見るハチなのであった。
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