第33話:重清の修行 その2

「方針を変える、ですか?」

「そうだ。基本的には変わらん。ただ、二つ目の術の使い方を、増やしたい。」

「増やす??」

「2回目のおれの攻撃を、お前の術はしっかり防げたな?だが、攻撃の勢いに負けて、そのまま盾がシゲにぶつかってしまった。まずは、あの硬い盾を使うときはあれをそのままその場に留めることを意識するんだ。これにはおそらく、技の力も必要になるはずだ。」

重清が、コクリと頷く。


「と、ここまでは予定通りの方針だ。ここからが、追加の方針だ。シゲ、一回目の攻撃のとき、お前の盾はどうなった?」

「グニャってなって、そのまま消えちゃいましたね。」

「そうだ。だが、お前には全くダメージは無かっただろ?あれは、柔らかい盾がおれの攻撃の勢いを全て吸収しちまったからだと思うんだ。そこでだ。シゲ、お前あの柔らかい盾も、自由に使えるようになれ。」

「は、え?ちょ、ノブさん、意味わかんないっすよ!鉄なのに柔らかいって!」


「確かに、おれも盾を硬くしろって言ってたし、そう思うのは仕方ねー。だがな、おれやお前の属性はあくまでも金。金属の力だ。鉄の力じゃねぇ。術名は鉄壁の術だが、名前に囚われるな!あくまでも金属の盾が出せる術だと認識しろ!」

「わ、わかりましたけど、でも金属が柔らかいって意味わかんなくないですか?」

「なにもおかしくはない。実際に、錫なんていう柔らかい金属もあるんだ。だから、柔らかい盾も出すことは可能なはずだ。」


ノブの言葉を聞いて、今度は重清が考え込む。

(柔らかい盾かぁ。でも、それができるなら確かに面白いかも。)

「ノブさん、一度柔らかい盾を出したあとに、その盾を硬くすることって、可能だと思いますか?」

「ん?不可能ではないと思うぞ?まぁ、それをこの3日でできるようになるかは、わからんがな。」


「おいノブ。オイラも、その柔らかい鉄になる練習したほうがいいのか??」

今度はプレッソが、そう質問する。

「いや、プレッソはしなくていいだろう。お前の場合は自分自身が鉄の玉になるからな。慣れちまえばどうってことないかもしれねーが、玉の状態が大きく変形したときにどんな影響があるかわからんからな。そのへんは、古賀先生にも確認しといたほうがいいかもしれんな。

それよりもプレッソ、お前はシゲと別に、金属の重さを変えられ

るように意識してみろ。」


「重さを??」

プレッソが可愛く首を傾げる。

「プレッソの術は、ショウさんとの模擬戦の時のように、シゲが投げることが前提となってくると思う。そこで、シゲ!」

「へ、へいっ!」

突然話を振られた重清が下っ端風の返事をする。

「プレッソを投げるとき、重いのと軽いの、どっちがいい?」

「そりゃぁ、軽すぎるのも困りますけど、重いよりは軽い方がいいですね。」

「だろ?でも、軽いと相手に当たったときのダメージも少なくないか?」

「いやノブ、そんな当たり前のこと・・・あ。」

「プレッソ、気付いたか?シゲが軽くなっているお前を投げたあと、お前は重さを変えて、重くなるんだ。軽い状態で投げられたスピードのまま、重い金属の玉が相手に当たると、わかるだろ?」

「おぉー、結構えげつないなぁ。」

「だろ?だからこそ、お前は重さを変えられるようにするんだ。ただし、金属の質だけでは、重さの変化に限界があるだろう。その足りない分は、お前の忍力で補うんだ!」

「忍力で?どーゆーことだ?」

「お前はシゲの忍力食ってるだろ?だから、お前にも金の属性の忍力が使えてるんだ。その忍力を、そのまま質量に変えるようイメージするんだ。それによって、より重くなるはずだ。わかったか?」


「りょーかいっ!」

そう言ったプレッソの顔は、やる気に満ち溢れていた。


「ノブさん、意外としっかりおれたちのこと考えてくれてるんですね!!」

「だろ!?ハッハッハーっておい。お前さっき、プレッソの生意気な発言謝ってけど、今のも大概だぞ!」

「あ。すみません!」

「ま、気にすんな!実際、方針のほとんどは古賀先生の案だからな。たが、柔らかい盾ってのはおれがさっき思いついたんだぞ?それでも十分すげーだろ?」

「はい!それだけでも、戦力の幅広がりそうです!!」

「だろぅ??」

ノブが、ニヤリと笑ってそう言う。


「よし。おれの気分が良くなったところで、早速始めていくか!」


「「押忍っ!!」」


重清とプレッソが、叫ぶように返事をすると、ノブが構える。

「まずはシゲ!硬い盾だ!硬く、強く、そしてその場にそれを留めろ!その間プレッソは、より硬くなる練習だ!いくぞ、シゲ!」


「はいっ!鉄壁の術・硬(こう)!」

「ハッハッハ!硬、か!いいなそれ!だったら柔らかい方は、柔(じゅう)か!」

「え?は、はいっ!」

「お前まさか、柔(やわ)とかにするつもりじゃなかっただろうな!?」

「(ドキッ!)ははは、まさか~。」

重清が図星をつかれて動揺していると、

「スキありじゃ!」

ノブの拳が盾にぶつかり、そのまま重清をもまとめてぶっ飛ばす。


「ちょ、ノブさん、卑怯ですよ!」

「馬鹿野郎!戦いに卑怯もなんもあるかい!次は柔(やわ)だ!」

「いや、柔(じゅう)で!」

そう言って今度は、柔らかい盾をイメージして術を発動する重清。

盾が出現した直後、再度ノブの拳が襲う。

拳とぶつかった盾は、ノブの拳を包み込むようにグニャリと曲がり、そのまま消滅する。


「それじゃだめだ!曲がってもそのまま維持させろ!次っ!プレッソだ!」


「サイクルはえーよ!重清、行くぞ!」

そう言ってプレッソは、重清に向かって飛び込みながら鉄玉の術を発動させる。


玉になったプレッソを受け取った重清が、そのままノブへと玉となったプレッソを投げる。

「いくぞ、ノブ!」

「来い!」


プレッソとノブの拳がぶつかり、

「いってぇ~~~~!」

相変わらずプレッソが痛がり、重清へと打ち返される。

しかし、ショウとの模擬戦ほどの勢いはなく、重清はそのままプレッソを受け止める。


「安心しろ!打ち返す勢いは抑える!このまま、今の順番で連続に行くぞ!!!」


「「マジかよ!!」」


「マジだぁ!!!!!!シゲ、硬!」



そのまま、鉄壁の術・硬→鉄壁の術・柔→鉄玉の術のサイクルを、連続で1時間ほど続けていると、

「おぉ~やってるね~。」


そう言いながら、古賀が現れる。


「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」

重清とプレッソが息を切らせている中、平然とした顔のノブが、

「お、先生。もうそんな時間ですか。」

「うん。ノブ、張り切ってるね~。重清、プレッソ、大丈夫かい??」


「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」

未だ息の整わない1人と1匹を見て古賀は、

「ノブ、ちょっと張り切りすぎたかもね。重清、少し休んだほうがいいよ。」

そう言われた重清とプレッソは、その場に倒れて息を整えようとする。


「あー、悪いけど、プレッソは私と来てくれないかな?」

「はぁ、はぁ、はぁ、オ、オイラだけ?」

「うん。これから3日間、プレッソは修行時間のうち半分ほど、ハチと一緒に、修行してもらうよ。」

「ハチさんと??」

初対面で威嚇されて以降、ハチに恐怖心を抱いているプレッソが、ハチにさん付けしているのを苦笑いして聞いていた古賀が、

「そ。具現獣の先輩として、色々と学べるところがあると思うよ??」

「そ、そうか。はぁ、はぁ。」

少し不安そうなプレッソに、古賀が続ける。

「安心してよ。ハチだって、別に怖い奴じゃないんだ。な?」

そう古賀が言うと、

「くぁ~~」

いつの間にか古賀の肩にとまっていたハチが鳴き、プレッソに向かって飛んでくる。

「うわっ!」


突然ハチが向かってきたことによって怯えたプレッソを、ハチは口に咥え、そのまま自分の背中へと乗せる。


「???」

プレッソがハチの背中で不思議そうにしていると、

「プレッソが疲れてるから、ハチが乗せて運んでくれるんだってよ?」

「あ、ありがとう、ございます。」

「くぁ~~!」

ハチが満足そうに鳴く。

「じゃ、そういうことだから。あとは2人で頑張ってね~」

そう言って古賀とハチ、そしてハチの背に乗るプレッソが去っていく。


「はぁ、はぁ、はぁ、ちょ、おれなんにも、はぁ、喋れてないんだけど。」

「シゲ、疲れすぎだ。」

「いや、はぁ、はぁ、ノブさんが元気すぎ、はぁ、なんですよ!」

「よし、ちと休憩するか。忍力も持たなさそうだからな。」

「あ、ありがとうございます。」


しばらく休憩して息が整ってきたころ、重清がノブに話しかける。

「そう言えばノブさん、ひとつ聞きたいんですけど、先輩たち時々、なんかこう、シュンって消えるじゃないですか。あれって、どんな忍術なんですか??」

「ん?あれか?ありゃ忍術なんかじゃねーよ。ただ、体の力で足を強化して思いっきりダッシュしてるだけだ。」

「えぇ!?そうなんですか!?なんかちょっとがっかりです!あれすげーかっこよかったのに!」

「いや、勝手に失望されてもな・・・」

ノブが苦笑いをして、重清が勝手に失望している頃、同じく修行の合間にそれぞれショウとケンに同じ質問をしていたソウと恒久も、重清同様がっかりしているのであった。

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