第102話:女子会と鳩の餌と約束と

「ほぉ〜、ノリがそんなことをねぇ。」

雅が、そう呟くように言いながらお茶をすする。


「まったく、失礼しちゃうわね。私はもう、若返っているというのに。」

チーノが、皿のミルクを舐めて雅に続く。


「中身はあたしとそう変わらんだろうに。」

「うるさいわね。見た目もババァなあなたに言われたくないわよ。」

「ほぉ。あんた、自分が力を失ったこと忘れてるんじゃないだろうね?」


それを聞いていた茜は冷めてきたコーヒーを一気に飲み干して口を開く。

「ちょっと!2人ともやめてよっ!せっかくの女子会が台無しでしょっ!」


「「ごめんなさい。」」


茜の言葉に、即座に頭を下げる雅とチーノ。

この女子会においては、茜こそが一番偉いのである。


「男のせいでわたし達がいがみ合うなんて、馬鹿らしいじゃない!」

「おっ、あっちゃん言うねぇ。」

「ほんと、あの子達よりもよっぽど男らしいわ。」

「チーノちゃん、それ、褒めてる?」

「えぇ、もちろん。」

そう言って微笑むチーノに、ドキリとした茜はため息混じりに、


「チーノちゃん、なんで猫なのにそんなに色気があるのよ。わたしにも分けて欲しいわ。」

「おやあっちゃん、それじゃ、あたしには色気が無いっていうのかい?」

「ん〜、みーちゃんの場合は、色気よりも、女の強さみたいなものを感じるのよね。

なんて言うかこう、男の3歩後ろを歩くんじゃなくって、一緒に駆け抜けるわよっ!っていう。」


「ふふふ。それはわかるわね。実際に、そうだったものね。」

「2人を一番近くで見て来たチーノちゃんが言うと、説得力があるわね。」

「私には、それが羨ましくもあったけどね。」

「それって・・・」

茜がそう言って言葉を詰まらせていると、チーノが話題を変えるように、


「雅。あなた達の出会い、茜に聞かせてあげたら?」

そう言って雅に視線を送る。


(もしかしてチーノちゃん、平八さんのこと・・・)

一瞬だけチーノを見た茜は、そんな考えを振り払って、

「あっ!それ聞きたい!!」

輝かせた目を雅に向ける。


「おや、そうかい?」

チーノと茜、それぞれの想いに気付いた雅は、そう言って話し出す。


「あれはまだ、あたしが15歳の天才少女だった頃・・・・」


こうして、女子会は続いていくのだった。



一方その頃。


「うわぁ。ホントに鳩の餌、買っちゃったよ。」

「いや、売ってるの見つけちゃったら、買うしかないだろ?」

中央公園とは別の公園の影に潜む聡太と恒久が、そんな会話をしていた。


公園のベンチでは、重清が田中琴音と談笑しているところだった。

悪趣味な2人なのである。



「琴音ちゃん、お茶とコーヒー、どっちがいい??」

「お茶ちょうだい!コーヒーは、重清君が飲みたいでしょ?」

「おっ、さすが琴音ちゃん!わかってる〜!」

そう言って重清は琴音にお茶を渡し、コーヒーを口にする。


「ぷはぁ!うんめーーー!」

「ふふふ。重清君、お父さんみたい。」

「えぇ~、田中先生と一緒なのー?」

「ちょっとぉ、そんなに嫌がらなくってもいいじゃないのー!」



「おい、ソウ。あいつら、結構仲良くなってないか?」

「まぁ、そうだね。小学校の頃よりは、確実に距離が縮まってるよ。」

「・・・やはり、こいつの封印を解くときがきたか・・・」

「悪役感半端ないけど、それ鳥の餌だからね?」

「買ってしまった以上、どうせこいつは鳩にやるしかないんだ。ただそれを、何処で撒くかってだけの話だろ?」


「キミ達、それはさすがにまずいぜ~?」


「「っ!?」」

背後から聞こえてくるそんな声に聡太と恒久が振り返る。

そこにいたのは、茶色く染めた長髪をなびかせてた男。

耳にピアスまではめたその男は、ダボダボのジャージを見になとって気怠そうにその場にたたずんでいた。


((あ、これ相手にしたらヤバい人だ。))

即座に2人はそう判断して、黙り込むことにする。


「キミ達今、すっごく失礼なこと思っただろ?」

そう言って2人に近づいいてきた男は、そのまま2人に手を伸ばす。


「「っ!?」」

それに身構える2人を気にも留めず、男は2人の肩に手を載せて、

「良い感じの男女の邪魔は、野暮ってやつだぜ?」

そう言ってニカッと笑う男に、


「「・・・・・」」

その言葉に2人は目を合わせ肩をすくめ、恒久は鳩の餌をカバンへとしまう。


「そうそう。お前らくらいの年だったら、あぁいうのいたずらしたくなる気持ちもわかるけどな。こういう時は、黙って見守っててやれよ。」


そう言って、男は手を振ってその場を去っていくのであった。


「なんつーか。」

「見た目と違っていい人だったね。」


「ソウ、どうする?」

「ん~、あとは若い者に任せて、帰りますか。」

「まぁ、おれたちも同い年だけどな。」


「「シゲ、ファイト。」」

ソウ言葉を残して、2人は公園をあとにする。



聡太たちが公園を去った後も、しばらく話し込んでいた重清と琴音であったが、それでも別れの時間は無情にも訪れる。


「暗くなる前に、帰ろっか。」

「そうだね。重清君と話してると、時間が経つのが早く感じちゃうよ。」

そう言って微笑む琴音にしばし見とれた重清は、意を決したように口を開く。


「こ、琴音ちゃん!明日、話したいことがあるんだ。今日と同じ時間、またここで、会えるかな?」


「・・・・・わかった。」

そう言って頷いた琴音は、「じゃ」と言って重清に背を向けて歩き出す。


(なんとか、言えた・・・)

そう思ってほっとした気持ちで足元を見ていた重清に、


「重清君!」

琴音が声をかける。


「明日、楽しみにしてるね!!」

琴音はそれだけ言って、重清に手を振ってそのまま角を曲がり、重清の視界から消えていく。


「『楽しみにしてる』か。」

琴音の言葉に、重清はつい笑みを漏らしてそう呟くのであった。



「明日、か・・・」

重清に別れを告げた琴音は、そんな言葉を漏らした後、鼻歌交じりに家路につくのであった。

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