第4話:契約

自身の力から現れた書の力を目の当たりにした男は、考えた。


この書に約を強固にする力があるのならば、私のこの力も、約という枠に収めてしまえば、他の使用者が無暗に力を振るうことはないのではないか、と。


こうして、男は自身か溢れる力を、誰しもが危険なく使用できる方法を考え始めた。


時には弟子達の意見を聞きながら、それは少しずつ作り上げられていった。


やっとある程度の約を決めることができた頃には、弟子である少年少女達は、逞しく育っていた。


「こちらへ来てくれ」

男は、弟子の中で最も信頼する青年に声を掛けた。


「これからお前に、私の力を授ける契約を行う」

「契約、ですか?」

男の最も信頼する青年は、首を傾げた。


「あぁ。これからは、約を契ることを『契約』と呼ぶことにする。私のこの『契約書』に定められた契約は、何人たりとも破ることはできないぞ」

男はそう言って、自身の手に持つ書を青年へと見せた。


「これが、師の力から作り出された物とは、今でも信じられません」

青年がそう言って笑うと、


「初めは私も信じられなかったさ。しかし契約を行えば、お前にも同じようなことはできるようになる」

師である男もまた、青年に笑いかけた。


「私にも、その、契約書を作り上げることができるのですか?」

「いや、それも契約の中に作り上げてはいるが、お前自身の力とは別物だ」


「どういうことでしょうか」

「お前が私との契約を結ぶことで、お前にも私と同じ力が扱えるようになる。

それによって今度は、お前自身が、別の誰かと契約を結び、その者をお前の弟子とすることが出来る。ここまではいいな?」


「はい。皆で話し、そうした方が良いと決めましたから」

「うむ。しかし私は考えたのだ。それだけで良いのか、とな」


「と、おっしゃいますと?」

「契約書は、あくまで付属的な役割にしたいのだ」


「それでは、一体どのような力を我々にお与えくださるのですか?」

「それなのだが・・・・お前はどちらが良いと思う?

自身の使い慣れた武具と、自身の友となる獣と」


「仰っている意味が分からないのですが・・・」

「私は、この書を作り出した力を、具現化と呼ぼうと思っている。

この具現化によって、皆には先程申した武具か獣を与えたいと思っているのだ」


「なるほど、そういうことですか・・・」

「それで、お前はどちらが良いと思う?」


「難しい選択ですね。我々の中でも、意見は割れるでしょう」

「であろうな」


「いっそのこと、どちらも、というわけには?」

「それも考えはしたのだがな。それだと、ちと与えすぎではないか?いや、待てよ・・・」


「いかがなされました?」

「決めたぞ。お前たち6人にだけは、どちらも具現化できるようにしよう。

そのあとで契約書を書き換え、以降お前達が弟子とした者たちからは、そのどちらか一方のみ具現化できるようにする」


「どちらかを、選ばせるのですか?」

「いや、そうではない。その者の才能や想い、様々な要素をもとに本人の意志と関係なく与えようと思う」


「・・・・なるほど。しかし、我々だけどちらも、お与えになってよろしいのですか?」

「お前たちは、私の弟子であるのと同時に、子のようなものだからな。親とは、子に甘いものなのだ。しかし、ただ与えるのも面白くはないな。お前達にも、他の者同様、意志とは関係なく与えることとしよう」


「おや。余計な事を申しましたかね」

青年はそう言って、笑った。


「ではひとまず、契約を行うか。何が出てくるかは、皆と契約してからにするぞ」

「承知いたしました」


こうして青年は、男と契約を結んだ。


その後、残りの5人も順に、男との契約を結び、6人と師である男は一同に会した。


「これでお前たちは、我が力を引き継いだ。

お前達に与えた力は、簡単に人前で扱うべき力ではない。

耐え忍ぶ者のみにこの力を与えるのだ。

その戒めを忘れぬために、これより我らは、『忍者』と名乗ることとする」


「はっ!」

青年達は、男の言葉に頭を下げた。


「それではこれより、お前たちに与えたもう1つの力を具現化してもらう。皆、契約により、力が溢れているはずだ。その力を、一点に集中してみせよ」

男の言葉に、弟子達はそれぞれ、溢れ出る力を集中させていった。

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