第5話:弟子

最も力の強い青年、炎空えんくの手には、篭手こてと、足元には一羽の鳥が、現れた。


「ふむ。力の強い炎空に、よく似合う武具ではないか。そして獣は鳥か。炎空の力は、どうやら火、のようだな」

「鳥っていうのはなんかいまいちだけど、この武具は気に入りました」



最も弓の扱いに長けた娘、索冥さくめいの手には弓が、そして足元には一頭の虎が現れた。


「弓とは、索冥らしいな。それは虎、か?初めて見るな。索冥の力は、金、か」

「はい。やはり私には、弓が1番合いますから。それにしても、虎、ですか。少し怖いですね」



最も人を欺くことに長けた青年、りんの手には、草達もよく使う手裏剣が、そして足元には、角の生えた馬のような生き物がいた。


「それは、麒麟、だな。伝説に聞く生き物をこの目でみることになるとはな。その手裏剣も、麟ならば上手く扱うだろう。そして麟の力は、土、のようだな」

「麒麟、か。なんだか変な生き物ですね。痛い!角で突っつくなよ!」



最も力の弱い青年、角端かくたんの手には、書が、そして足元には、大きな亀がいた。


「角端の武具は、書、か。どうやら私の物とは少し違うようだな。そして獣は亀。着実に努力を重ねる角端に、よく合っているな。ふむ。どうやら角端の力は水、のようだな」

「は、はい!ありがとうございます!」



最も優しい娘、丞篭しょうこの体には鎧が、そしてその首元には龍が巻き付いていた。


「ふむ。優しい丞篭には、武器ではなく防具が現れたか。それにそちらは龍、か。またしても伝説の生き物を見ることになるとはな。なるほど、丞篭の力は木、か」

「ひ、人を傷付けるものが出なくて、良かったです」



(この5人は、私が参考にした五行それぞれの力が宿ったか。しかし、一見すると力の違いが分かりにくいな。力に色でも付けるか)

5人の弟子を見た男はそう考えながら、残る最後の1人の前へと立った。


男の目の前にいる、最も男を敬愛し、男が最も信頼する青年、允行とうぎょうの手には何も握られておらず、足元にも何も居なかった。


ただ、青年からは黒い力が溢れているだけであった。


「これは、一体何なのですか!?」

允行は、男に縋るような視線を向けた。


「これは・・・」

男は允行から溢れ出る力を見つめながら、呟いた。


目の前の青年から溢れる黒い力は、男にとっても予想外のものであった。


今まさに、力に色を付けようかと考えていた男ではあったが、ただ考えていただけであり、他の者達の力は、ただ湯気のように微かに見えるに過ぎなかった。


にも関わらず、允行からは黒い力が溢れていたのだ。


「その力は、私の契約書には記されていない力だ」

そんな師の言葉に、允行は涙を流した。


「私は、お役には立てないのでしょうか」


涙を流してそう言う允行の頭に、男の大きな手がそっと添えられた。


「馬鹿者。そんなわけないであろう。允行、お前はきっと、私よりも才能があったのだ。私などとの契約に縛られるべきではない程の、才能がな。だからこそ、契約書に記していない力が発現したのであろうな」


「わ、私は、どうすれば・・・・」


戸惑う允行は、そう呟いた。


「契約を破棄することもできるぞ?允行であれば、私とは別の力を扱えるようになるやもしれんが・・・」

「そ、そんな!私は嫌です!私は、師から、父から頂いたこの力と共に生きたいのです!」


師の言葉に、允行は大声を上げた。


「そう、言うてくれるのか」

允行の言葉に、男は涙を浮かべながら言った。


「では允行よ、お前に言い渡す。この先、お前と同じような力を発現する者も出てくるであろう。お前は、その力と向き合い、その力の本質を見極めよ。

そして・・・・・・」


男はそこまで言うと、他の5人を見渡した。


5人は、じっと師を見つめ返していた。


「允行。お前には私の1番弟子として、残りの5人をまとめることを命じる。皆、異論は無いな?」

そう言う師に、5人は強く頷き返していた。


「わ、私が、彼らを・・・・しかし、良いのですか?皆と違う力を持った私などで・・・」

「お前以外に誰がおるか、馬鹿者が」

男がそう言って允行の肩に手を置き、5人に目を向けた。


允行も、師の視線を恐る恐る追っていくと。


炎空「允行、あんたしかいない!」

索冥「そうよ允行。炎空は力は強いけど、馬鹿だし」

麟「まぁ、この中じゃ、あんたしかいないよ、允行」

角端「うん。僕も允行がいいと思う」

丞篭「允行ならば、きっと皆を導いてくれます」


「み、皆・・・ありがとう、ありがとう・・・・」


兄弟の、そして友の言葉に、允行はただ、そう言って涙を流すのであった。

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