第347話:大人達の報告会 その3

ところ変わってとある一室。


屈強な老人の前に、3人の男女が並んでいた。


ゴウと呼ばれる老人と、その弟子であるドウ、ユキ、グリの3人である。


「親父殿、彼の様子はどうですか?」

その顔に貼り付けられたようないつもの笑みをゴウへと向けたドウが、言葉を発した。


「なかなか面白いぞ、あいつは」

ゴウはクククと笑いながらドウへと返す。


「儂を父の敵と定めながらも、決して儂に対して殺意を持っておらん。

あいつの心にあるのはただ、儂らを警察に突き出したいという想いだけだ。

復讐心に似た、それでいて決して悪意の無い、何とも言えぬ感情を儂に向けておるわ」


「そんなんで、力を発現できるのかなぁ〜」

いつものように間延びした声を出しながら、ユキはそう言って欠伸をしていた。


「ユキ。ゴウ様の言うことが信じられないの?」

普段妖艶な笑みを浮かべるグラが、ユキを睨みつけた。


「まぁそう言うなグリ。ユキの言いたい事もわかる。実際にどうなるのかは、これからのお楽しみというやつだ。

それよりも、お前達の駒たちはどんな様子だ?」

ゴウはそう言って3人を見渡した。


「はい。私の弟子としたコトですが―――」

そう言ってドウが前へと進み出る。


「相変わらず彼女の頭には、忍者の存在を消すことと、雑賀重清のことしかありません。

我々の目的から考えると、一番扱いやすくはあるのですが・・・」

「儂らの本当の目的を知ると、邪魔になりかねない、か」

ゴウが言葉を挟むと、ドウはそれに頷いた。


「じゃぁ、次は僕の番ねぇ。まずはコウ。あいつは今、あのショウって奴に負けた悔しさから、新しい術を作ろうと頑張ってるみたいだよぉ。

あいつも何考えてるか分かんないから、どこまで使えるかはわかんないけどねぇ。

まぁ、記憶をイジっても良ければどうにかなるかもだけどぉ」

そう言ったユキに対し、ゴウは首を横に振った。


「そこまでせんでもよい。下手に記憶をイジると、いざという時に本来の記憶との齟齬で混乱を起こしかねない。

それに、中途半端に足を引っ張られるくらいなら、いっそのこと裏切られた方が面白いわ」

ゴウがそう言ってニヤリと笑うと、


「親父がそう言うなら、わざわざやんないけどさぁ。あれ、疲れるしぃ」

ユキはゴウへとそう返して、グラに目を向ける。


「それからぁ、グリさんのお兄さんだけどぉ・・・

あれはダメだねぇ。いくら記憶を植え付けても、元の性格が邪魔してどうしても僕らの思い通りには動かないよぉ。

親父の言う、齟齬ってやつが思いっきりでちゃってるよぉ」

「だから言ったでしょ、兄さんは使えないって」

グラはため息混じりに、ユキへと返した。


「まぁ、そうなるだろうとは思っておったがな。さて、グリよ。どうしたものかな?」

「私達と雑賀重清達との記憶を奪ったうえで、遠くに放牧、ですね」

ゴウからの問いかけに、グリは一瞬の躊躇もなく答えた。


「実の兄への扱いとは思えませんね。理由を聞いても?」

ドウがグリへと尋ねると、


「私達の記憶を奪うのは当たり前。雑賀重清達との記憶を奪うのは、後で余計な邪魔にならないように。

これでいいかしら?」

「えぇ。実に明快な回答で」

ドウはグリの言葉に笑顔を浮かべてそう答えた。


「ではユキ。そのように。あぁ、グリとここで会った記憶は奪っても、グリが妹である記憶は、奪うなよ?」

「・・・・ありがとうございます」


ゴウのユキへの指示に、グリは頭を下げた。


そして顔を上げたグリは、弟子の報告を始める。


「ヒトについてですが、以前伊賀恒久に負けたショックから、修行には力を入れています。

と言っても、才能がいまいちなので、コウ程の伸びはないみたいですが」


ちなみにヒトとは、以前重清と恒久が風魔 呉羽くれはの元で『雷纏らいてんの術』『雷速らいそくの術』の契約をした際に襲ってきた忍者である。


「そうか」

3人からの報告を受けたゴウは、頷いて3人に目を向ける。


「もうすぐだ。もうすぐ、我らの念願が叶う。

それまで、駒たちの育成とともに、自身の力に磨きをかけよ」


「「「はっ!」」」


ゴウの言葉に、3人は声を合わせ、そのまま部屋をあとにした。


「いよいよ、か・・・・・

果たして儂の選択は、正しかったのだろうか・・・

やはりお亡くなりになる前に、もう一度だけ、話したかったのう」


そう呟くゴウの顔には、悲しみと後悔の色が、ただ浮かんでいるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る