第346話:大人達の報告会 その2
「それなのですが・・・」
ノリからの問い掛けに、ガクはしばし沈黙し、口を開いた。
「ノリさんから5日前に報告を受けてすぐに確認しましたが、松本の息子は、既に奴らと接触した可能性があります。
直接奴らとコンタクトを取ったところまで確認はできていませんが、彼から僅かながら、忍力に似た力が出ていました」
「なに?早すぎじゃないか?」
「えぇ、そうなんですよ。俺もさすがに、こんなに早いとは思ってもいませんでした」
「お前、本当にすぐに調べたんだろうな?」
「ちょっ、俺を疑うんですか!?
それを言うなら、彼が捨て忍になったその日に、ノリさんが俺に知らせてくれれば間に合ったかもしれないじゃないですか!」
「うるせぇな。オウさんから口止めされたんだよ!
『協会には明日知らせるから、それまで他言は無用だ』ってな!
文句があるなら、オウさんに言えよ!」
「言えるわけないでしょうが!雑賀平八様の一番弟子に文句言えるのなんて、ノリさんくらいなもんなんですよっ!」
「大人2人が、何やってんだよ・・・・」
そんな2人を遠巻きに見ていた恒久が、ボソリと呟いていたとかいなかったとか。
「まぁ過ぎてしまったことは良い。雅様も、その可能性は高いと踏んでいたみたいだからな」
そんな恒久の影でのつっこみなど知りもしないノリは、言い合いを収めるべくそう言うと、
「っていうか、俺じゃなくて雅様が調べていたら、後手に回ることなかったんじゃないですか?
どうせ、雅様にもオウさんの後に報告しているんでしょ?」
「俺を甘く見るなよ?誰が雅様よりも先に、協会側のオウさんに報告するかってんだよ」
「いや、それはそれで問題ですからね?
それにオウさんは、協会側ってわけじゃないでしょうに」
「あの人は立場が微妙すぎなんだよ。それにな、雅様にも、別に動いて欲しくて報告したわけじゃねぇしな。どうせ雅様は、自分から動くつもりはないだろうからな」
「いや、孫が襲われているんですよ!?何で動かないんですか!?」
「お前、それ雅様に直接言えるか?」
「それこそ言えるわけないじゃないですか!相手はあの雅様ですよ!?」
「分かっているなら文句は言うなよ。あの人は、俺達若いもんにこの件を解決させたいんだよ」
「それは・・・・まぁ、俺達が頑張らないといけないことは分かりますけど・・・」
「お前の言いたい事もわかる。おそらくあいつらの狙いは重清だ。
雅様はあわよくば、この件を重清自身が解決することすら望んでるんだよ」
「中学生に、高望みしすぎじゃないですか?
雅様は一体何を考えて・・・
ま、まさか―――」
「それ以上は黙っていろ」
「ノリさん・・・」
「黙っていろと言っている。その件に関しては、ごく僅かな奴しか知らないことだ。くれぐれも他言するなよ?下手したら、消されるぞ?」
「いや、消されるって―――」
ノリの言葉にガクが笑っていると、突然ガクの足元に消しゴムが転がってきた。
「ほらな。消す気満々」
「いや怖いですって!えっ?消すって、そういうこと?俺の存在ごと消すつもりなんですか!?」
「いやいや、さすがの雅様もそれは出来ないだろう・・・いや、あの人なら出来てもおかしくはないな。ガクが存在したという事実すら無くしてしまう忍術。
雅様なら、作ってもおかしくはないな」
「いやほんと怖いから!そこは否定してくださいよ!
ノリさんが肯定しちゃうと、マジで起きそうなんですから!!」
(なるほど、それも面白いねぇ)
ガクがノリへと抗議していると、2人の耳にだけ、小さくそんな声が聞こえてきた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ノリとガクは互いに視線を交わし、
「俺、今日知ったこと、全部忘れます」
「あぁ。それがいいだろうな」
互いにそう言って、うなずき合っていた。
(雅様が本気出したら、世界征服とか余裕で出来るんじゃないか?
そうなったら俺、警察官としてそれを止める自信ないぞ?
いや、そうなったらもはや、雅様の軍門に下るしか・・・・
はぁ。恒久君達の言う『大魔王』、あながち間違ってないんじゃないか?)
ガクは足元に転がる消しゴムをじっと見つめ、そんなことを考えていた。
ちなみにではあるが、もしも雑賀雅が本気を出したならば、おそらく本当に世界征服は可能なのである。
雅は1度だけ、平八の前でそのような事を呟いたことがある。
もちろん彼女にとってそれは、ただの冗談のつもりであった。
しかしそれを聞いた平八は、真剣な眼差しを雅へと向けた。
「雅、冗談でもそんな事言わないでね?
雅がそんなことしたら、私は本気で君と戦わなければならなくなる。
私に、愛する者を手にかけさせるつもりかい?」
そう言って向けられた平八からの冷たい笑顔に対する恐怖と、『愛する者』という響きに悶る乙女心を抱いた雅は、絶対に世界征服など考えるはずもないのである。
雑賀平八は死してなお、世界を救っているのであった。
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