第165話:力の差

「くっ、速ぇ!!」

重清は、言いながら相手の攻撃を避けていた。


「その割には当たらないねぇ〜。」

相手の男は笑いながら飛び上がり、そのまま重清に踵を振り下ろした。


(鉄壁の術・柔!)

重清は、それを柔らかくした盾で受け止める。


「おっとぉ〜。足が抜けないなぁ〜。


なぁ〜んてねっ。」


男はそう言いながら、力づくで鉄壁から抜いた足でそのまま重清を蹴りつけた。


「うわぁっ!!」


「練度がまだまだだよぉ〜。そんなんで、よくヒトに勝てたねぇ〜。」


空中で体勢を整えて着地した重清に、男が笑いかけてくる。


「ヒトって、呉羽ばあちゃんのとこに来たおじさん!?

ってことは、お兄さんあの人の仲間!?」

「ん〜、まぁ、仲間っちゃぁ仲間かなぁ〜。ちなみに、あっちの、女の弟子なんだよぉ〜。」


「っ!?あの、チーノよりはエロくないお姉さんの!?」

「あっはっは。それ、本人に伝えてあげてぇ〜。

いつも、『自分はエロい!』ってうるさいんだよぉ〜。」


「いやでも、確かにエロくはあるよ?」

「いやいやぁ〜、猫よりエロくない時点で、まだまだでしょぉ〜?」


「いやまぁ、チーノが特別というか・・・」

「っておかしいなぁ〜。こんな話するために来たんじゃないんだけどなぁ〜。」


「あ、そうだった!お兄さん、目的はなんなの!?」

「うわぁ〜、取ってつけたねぇ〜。でもまぁ、答えてあげるよぉ〜。

僕たちの目的はねぇ、ただ君に一目会いたかっただけなのさぁ〜。あの2人の孫である、君にねぇ〜。」


「お、おれに!?2人って、じいちゃんとばあちゃん!?」

「そうだよぉ〜。って、それだと父方と母方のどっちかわからないけどねぇ〜。」


「あ、そっか。いやなんか、いつもばあちゃん、あ、雑賀雅の方ね、ばあちゃんが目立ちすぎてて、母さんの方のじいちゃんとばあちゃんの影が薄いんだよな〜、。」

「まぁ、こっちの調べでは母方はどちらも忍者ではないみたいだから、しょうがないんじゃないのかなぁ〜。」


「え、そうなの!?ってか、なんで襲ってきた相手からそんな大事な設定聞かされるの!?」

「いや設定って君ねぇ〜。っていうか、やっぱり君と話してると調子狂っちゃうなぁ〜。よく言われなぁい?」


「いや〜、まぁ、よく話を脱線させるとは言われるけど・・・正直、よくわかってはない、かな。」

「自覚、ないんだねぇ〜。そのあたりは、さすが雑賀平八の孫って感じだけど。でも、肝心の力の方は・・・」


「いやそこで止めないで!流れでだいたい言いたい事はわかるけどっ!」

「まぁ、そういうことだよねぇ。才能だけで言ったら、ウチの弟子の方がありそうだしねぇ。ま、そのあたりは今後に期待したいとこだけど、あんまり時間が無いからねぇ。

少しだけ、アドバイスしてあげようかなぁ。」


「弟子?っていうか、アドバイスって・・・」

「とりあえず、もう一度掛かってきてごらんよぉ。」

男はそう言って、重清を手招きする。


「余裕だなー。まぁ、中学生相手じゃしょうがないんだろうけど。」

男の余裕に若干の不満を抱きつつも、重清は術を発動する。


(雷纏の術っ!)


そしてそのまま、男に向かって地を蹴った。


「またそれかぁ〜。今度は当てるよぉ〜。」

そう言った男は、迫る重清の目の前から姿を消し、立ち止まって辺りを見回す重清の側に現れて拳をふるった。


「ぐぁっ!」

そのまま重清の頬を打つ男の拳で、重清はそのまま飛ばされる。


「うわっ、今バチッてしたよぉ。その術、ホントいやらしいねぇ。」

『静電気がきた』みたいなノリで手を擦った男は、飛ばされた重清を見つめる。


「君達は、術に頼り過ぎなんだよねぇ。だから、ただの体の力で強化した僕に、触れることも出来ないんだよぉ。」

「い、今のが、体の力?」


口から出る血を拭いながら重清は、男の言葉にそう呟く。

そして、震える膝を叱咤して、立ち上がる。


殴られた痛みや恐怖、そしてそれ以上に、歴然とした力の差に対する絶望が、重清の膝を、そして心を襲っていた。


「せっかく、新しい術を覚えて強くなったと思ってたのに・・・」

重清は、ただ力なく立っていた。


振るえる膝で、悔しさの籠った拳を握りしめながら。


「術だけが全てだなんて、誰がきめたのさぁ。

あっ、言うの忘れてた。今の一発は、ウチの弟子の分ねぇ。」


「・・・・・・」

「あれぇ?ショックで放心しちゃったぁ~?」

男が笑ってそう言っていると。


「おーまーえーらぁーーーー!!!何を勝手しとるんじゃぁーーーーーーーーー!!!」


空から、大地が震えるほどの怒号が響き渡った。


「あちゃぁ~、バレちゃったかぁ~」


男がそう言いながら重清に近づいてその襟元を掴み、そのままその場を飛び上がった。


「グェッ!」

重清のカエルのつぶれたような声と同時に、重清達のいた場所に何かが落ち、大きな衝撃が地をえぐり、大量に舞い上がった土砂が、重清達を埋め尽くしていった。



「いや死ぬわっ!!!」

埋められた土砂からはい出した重清が叫びながら辺りを見回すと、そこには半径50メートルほどの、大きなクレーターがあり、その中心には1人の屈強な老人が佇んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る