第166話:ジジイ襲来
「で、ユキよ。これはどういうことだ?」
クレーターの中心にいる老人から、そんな声が聞こえた。
それは小さな、囁くような声であった。
それにもかかわらずその声は、重清と老人の距離を無視して重清の耳に重く響き渡った。
それは、ユキと呼ばれた、先ほどまで重清と戦っていた男も同様であったようだ。
ユキは老人の言葉を聞き、ただ気まずそうに頬をかいて老人から目を逸らしていた。
「どういうことだと―――――
聞いてんだろうがっ!!!」
一瞬にしてクレーターの中心からユキの元へ移動した老人の拳骨が、ユキの頭に直撃した。
「いったいなぁー親父!僕じゃないよぉ。グリさんの案だよぉ。」
「うるせぇ!!いい年して言い訳してんじゃねーっ!!グリは感情で動くことがあるんだから、お前らが抑えてやらんといかんだろうがっ!!
それに、儂のことは頭領と呼べと言っとるだろうがぁ!!」
(あー、大人の人が子どもみたいに怒られるとこなんて、初めて見たな。)
突然の老人の出現に呆気にとられた重清は、ユキに殴られた頬をさすりながら、ただ呆然とユキと老人のやり取りを見ていた。
「だったらドウさんに言ってよぉ。僕の言うことなんて、グリさん聞かないんだからぁ。」
「ユキ、私に責任を押し付けないでもらえませんかね?」
頭を擦るユキの隣に、また別の男が姿を現した。
「あっ。」
現れた男を見て、重清が声を上げた。
「呉羽ばあちゃんのところに来た・・・」
「おや、お久しぶりですね、雑賀重清君。っと、そんなことよりも。
親父殿、悪いのですが一度この場を離れましょう。」
「あぁ?なんだドウ。いきなり現れたと思ったら藪から棒に。」
「申し訳ありません。もうすぐここに、甲賀ノリが来ると思います。」
「ドウさん、あの甲賀ソウってやつに逃げられたのぉ!?」
ドウの言葉に、ユキが驚いて声を出す。
「えぇ。それはもう見事に、ね。」
「ほぉ。お前から逃げられるものがおるとは、なっ!!」
老人が、そう言いながらドウの頭に拳骨を振り下ろした。
「っ!!親父殿、いきなり殴らないでもらえませんかね。一応反省はしているので帰ってからたっぷり謝りますから。」
「一応ってなんだ一応って!それに儂のことは頭領と呼べと・・・」
「親父、そんなこと言っている場合じゃなさそうだよぉ。まだ遠いけど、確かに近づいてきているみたいだよぉ。」
「仕方ないの。今はまだ、あやつらとぶつかる時期ではないからの。お前達への仕置きはあとだな。
ドウ、あちらでグリがノびておる。回収してこい。」
老人の言葉に頷いたドウがその場から姿を消し、次の瞬間にはチャイナ服姿の気絶した女を抱えたドウが再びその場に姿を現した。
「しかし、まさかグリが負けるとはの。相手は誰だ?」
「雑賀平八の元具現獣だよぉ。」
「ほぉ。それはそれは。」
「でもまぁ、そこにいる雑賀重清のもう一体の具現獣の相手のために、獣たちを大量に出してたからねぇ。」
「ふむ。本調子ではなかったか。であれば、致し方ない、か。それにしても、シロ、か。」
「え?」
老人のつぶやきに、今の今まで完全に置いてけぼりだった重清が声を漏らした。
「おじいさんチーノを、シロを知ってるの?もしかして、じいちゃんの知り合い?」
重清の言葉に、老人は視線を返した。
「お前さんが、雑賀重清か。確かに、面影があるな。」
老人は、言いながら重清を見つめていた。
その瞳には、どこか懐かしさを漂わせていた。
「やっぱり、じいちゃんの知り合いなんだね。」
「はっはっは。秘密、じゃ。それにしても、お前さん。ウチの弟子に手ひどくやられたようだな。お前さんには手を出さんように言っておったのだがの。すまんかったな。」
「あの、そこのユキって人はおれを一目見に来たって言ってたけど、あなた方の目的って、なんなんですか!?」
「目的、のぉ。このバカどもの目的は、確かにお前さんに会うことだったんだろう。
儂も、会うてみたいとは思っておったがの。それ以外のことは、今はやめておこう。
それよりもお前さん、少し落ち込んでおるようだな。ユキにやられたことが、相当効いておるみたいだな。」
「・・・・・・・・」
「このバカタレがぁっ!!!」
その言葉とともに、老人の拳が重清に振り下ろされた。
「痛ってぇ!!」
老人の拳を受けた頭を抑えて、重清が叫んだ。
「たった一度の敗北で、落ち込んとる場合かっ!!
お前さんは、『全てを守る』と言っておるそうじゃが、そんなことで全てを守れると思うておるのか!!」
「っ!?」
老人の言葉に、重清は口を噤んだ。
「あの雑賀平八でさえ、そこまで大それたことは言うてはおらんかったぞ?どうせそこまで言っておるのだ。まずは必死に修行して力をつけろ!落ち込むのは、それからにせんか!!」
「・・・ははは。おれ、なんで敵の大将っぽい人から檄を飛ばされてるんだろ?
でも、ありがと。大将のじいちゃん。おれ、もっと必死で修行するよ!」
「まぁ、頑張ってみろ。いつか、儂自らが相手をしてやろう。」
老人の言葉に、重清は老人が作ったクレーターに目を向ける。
「えっと。それは遠慮したいかな。ノブさんよりも何倍もでかいクレーター作るような人だからね。
あ、ノブさんって同じ中学の先輩で、すげー強いんだけどなんいっつも可哀そうな役回りで。実は今も―――」
「お前さん、やはり雑賀平八の孫だな。その脱線癖など、そっくりだ。まさか女にも弱いのではないか?」
「ぐっ。」
「図星のようだな。」
老人は、そんな重清を見てフッと笑みを浮かべるのだった。
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