第14話:体の試験と、補習

技の試験を体験した4人とショウは、ノブの待つ体の試験場へと到着する。

「おぅ、待ってたぞ!他の試験受けてたのか?」

ノブが4人に声をかける。

「はい、それぞれ一回ずつ、受けてきました。ソウが一発で、心の試験をクリアしたんですよ!」

と、シゲが誇らしげに胸を張る。

(なんでお前が胸張ってんだよ。)

と、呆れながらツネが心の中でつっこむ。


「一発で?ソウ、すごいな。おれは、あの試験だけはほんとギリギリで合格だったからなぁ。」

ガハハ、と、ノブが笑う。

「さてと、それで、誰からやるんだ?」

軍手をプラプラ持ちながら、ノブが言う。


「おれから行きます!」

シゲがそう言って軍手を受けとる。

(今度こそ、やってやる!)

シゲが軍手をはめながら心の中で気合いを入れる。

「よし!体の力は感じてる!行くぞぉー!」

そう言いながら、岩に拳を打ち付ける。そして、


「いってぇぇぇーーーーーー!」


またしても、シゲの悲痛な叫びがこだまする。


(あいつもう今日、踏んだり蹴ったりだな。)

ツネが哀れんだ目でシゲを見つめる。


「お前なぁ、体の力感じたからって、それだけで割れるわけねーだろ!ちゃんと拳に体の力集中するイメージできてたか?」

ノブが呆れながら言う。

「いや、そういうのやる前に教えてくださいよ!」

まだ拳が痛いシゲは、拳をさすりながらもノブに抗議する。

「バカ野郎!甘ったれんな!ちったぁ自分で考えんか!」

ノブに叱られ、しょぼんとするシゲ。

「も、もう一回!今度はノブさんのありがたいご助言を頭にいれてやるから!」

と、3人にお願いするも、

「はい、ダメー。次おれーー。」

ツネに即座に却下されるのであった。


「安心しろ、お前の犠牲は無駄にはしない。」

「おれ死んでねーし!おいソウ、あのムッツリ、スゲー腹立つぞ?」

「プッ!」

ソウとアカが吹き出す。

「ちょ、おまっ、ムッツリじゃねーし!ってかお前、あんだけ『スベりたくない』とか泣いてたくせに、ちゃっかりおれの悲しい嘆き聞いてんじゃねーよ!」


「おいお前ら、仲が良いのはいいが、さっさとやっちまわねーと、時間きちまうぞ?」

ノブの言葉に、ツネは気を取り直して、ノブから軍手を受け取る。

お互いにメンチ切りながら。


(さて、体の力を拳に集中するイメージだったな。)

そう考えながらツネは、拳に体の力が集まるイメージを持って岩に殴りかかる。

しかし、岩は割れることはなかった。

「ちっ、割れねーか。ん?でも、拳が痛くない?」


「そりゃあれだ、拳が体の力で強化されてるからだ。でも、まだ割れるほどには体の力が込められてないから岩が割れてねーんだ。」

「なるほど。ありがとうございます。」

ノブの言葉にお礼を言って、ツネはアカに軍手を渡す。


(さて、いよいよ体の力の試験!古賀先生曰く、わたしは体の力が強いはず。もしかして、一発クリアしちゃうかも!?)

アカがニヤニヤしながら拳に体の力を集中させ、岩を殴る。

すると、割れこそしなかったものの、岩に亀裂が入る。


「お、アカやるな。さっきの2人よりいい線いってるな。お前ら、先に越されちまうぞ?」

笑いながら、ノブはシゲとツネに言葉を投げ掛ける。

「ぐっ」

仲良く声を揃えて、ノブの言葉に悔しがるシゲとツネなのであった。


「よし、最後はぼくだ。」

言いながらアカから軍手を受けとるソウ。

(技の試験とか、体の試験みたいな、体使う系の試験はやっぱやだなー。とりあえず、技の試験ではすっかり忘れてたけど、忍力を上乗せすれば・・・)

そう考えて、ソウは体の力に忍力を上乗せして、岩へと拳をつきだす。

すると、アカほどではないにしろ、岩には亀裂が走った。


(やっぱり、ソウは忍力が強いね。これは今後が楽しみだ。)

ソウを見てショウはそう考えていた。


「よしっ!」

ソウが満足そうに呟くと、

「おっ、ちょうど時間だな。」

ノブが言うと、周りの景色が変わり、気がついたら4人とノブは、社会科研究部の部室へと戻っているのであった。

そこには、古賀やシン、ケン、そしてプレッソの姿もあった。

プレッソは、シゲの姿を見つけると頭の上へと登っていく。

(なんだかんだと可愛いやつめ。)

プレッソのそんな姿に、シゲは顔がにやける。

その横では、

(僕の頭に来てくれてもいいのにな~)

ショウがシゲをうらやましそうに見ていた。


4人の姿を見て、古賀が、

「時間だったか。どうやら、既にソウが心の試験をクリアしたみたいだね。おめでとう。それ以外はまだまだこれからって感じだと思うけど、残り13日。頑張ってクリアしてくれよ?」

4人に笑顔を向ける。


「あの、学校が休みの時も、部室に来ることってできるんですか?」

ツネが手を上げて質問する。

「できるよ。というより、基本的には毎日来てもらう。もちろん、家の事情とかもあるだろうから、無理にってわけではないけど。試験をクリアできたとしても、忍者としての訓練は、できる限り毎日してほしいからね。どうしても、一日の訓練時間は三時間に限定されてしまうからね。」


古賀の言葉に、4人は頷く。


「ひとまず、今日はこれでおしまい!ちゃんと帰って勉強するんだよ!あ、シゲはこのまま少し残って。具現獣について話したいから。」

「はーい。」

そう返事する横で、ソウが古賀に尋ねる。

「僕も、一緒に聞いてもいいですか?」

「いいけど、なんで?」

「単純に、具現獣について興味があるっていうのもあるけど、シゲだけだと、先生の言葉変に解釈してしまいそうなので・・・」

ソウがシゲを心配そうに見ると、思い当たる節があるのか、シゲも同意するように頷く。

「そこは否定しねーのかよ。でも、具現獣にはおれも興味あるな。先生、おれにも聞かせてください。」

「あ、だったらわたしも聞いてみたい!」

ツネとアカも、残ることを希望する。


「じゃぁ、4人にはこのまま居残り補習ってことで。きみたちは、もう帰って大丈夫だよ。これから2週間、自分の訓練できなくて不便かけちゃうけど、よろしくね。」

古賀が、ショウ、シン、ケン、ノブに声をかける。

代表してショウが答える。

「僕たちも、先輩方にはそうやって面倒見てもらいましたので。きっと彼らも、試験をクリアして、来年には後輩をこうやって面倒見てくれると信じてますから。」

そう言って、笑顔で4人に目を向ける。シン、ケン、ノブも、ショウに同意するように頷いていた。


(あぁ、やっぱりショウさん、かっこいい!)

アカがショウに熱い視線を向ける。


「部内恋愛禁止。」

古賀が冷めた目でアカを見る。

そんな古賀様子に苦笑いをしながら、「また明日ね」と言って先輩4人は帰っていく。


「さて、じゃぁさっそく、『補習』を始めよう。席について~。」

4人が、適当に席に座るのを確認して、古賀がシゲに話し始める。


「とりあえずシゲ、プレッソは家で飼ってもらえることになったのかい?」

シゲが頷くと、

「じゃぁ、それを前提に話を進めるよ。家ではペットとして生活するとはいえ、プレッソは猫だ。普段から常に家にいなくてもそこまで違和感はないと思うんだけど、その辺は大丈夫?」

「はい、両親も普段は仕事で家にいないですし、基本的に日中は外を出歩くことになるだろうとは話してます。」

「よかった。日中プレッソが自由に歩き回っていると、いざプレッソをこの部室に呼びだそうとしても、どこにいるのかがわからないからどうしても危険が付きまとってしまう。ところでシゲ、きみはプレッソとは意思疎通が取れるのかい?」

「ん?どういう意味ですか?おれの言っていることは、プレッソは理解しているようではありますが・・・」

「そうか。本来具現獣と具現者は、明確に意思疎通をとることができるんだ。今はまだ、シゲの力不足で意思疎通が取れないのかもしれないね。そこで提案なんだけど、シゲがプレッソとしっかりと意思疎通が取れるまでの間、日中はプレッソをこの部室で過ごさせるっていうのはどうだろう?」

「え、いいんですか!?」

「まぁ、教員としてはほんとはダメなんだろうけどね。でもプレッソは普通の猫じゃないし、その辺りは大丈夫でしょ。それに、外に行きたくなったら、自由に忍者部の部室からさっきの森に遊びに行ってもいいし。幸い具現獣は、具現者の忍力によって具現化されているから、掛け軸も出入りできるし、なにより具現獣だけは、あっちの3時間の縛りに縛られることもないからね。」

「え、そうなんですか!?」

古賀の言葉に、ソウが驚いて聞き返す。


「うん。おそらく、こういった場合を想定してたんだろうね、この忍術作った人は。」

古賀が感心したように頷きながら言う。

「忍術って、人が作るんですか?」

今度はアカが、尋ねる。


「あー、うん。でも、その話は、試験をクリアしてからにしようかな。」

「え~~。」

アカが不満そうに、でも仕方なく頷く。

「とりあえず、その話は置いておくとして、プレッソ、それでいいかい?」

古賀がプレッソに聞いてみると、「なぁ」と、プレッソは承諾するように鳴く。

「どうやら、プレッソもOKしてくれたみたいだね。シゲ、これからは、朝家でプレッソを自分の中身戻し、朝一でこの部屋に来て、プレッソをここで具現化してあげるといい。ま、プレッソの気分次第では、一日中シゲの中にいてもらってもいいんだけどね。その辺は、2人(?)で話してね。はいこれ、この部屋の鍵。あ、きみたちにも鍵渡しておくね。一応、忍者部の部室には勝手には行かないようにね。基本的に部活の時間は、私がいるようにするし、私がいないときは先輩の誰かがいるときにしてね。」

「は~い」

4人が鍵を受け取りながら返事をする。


「じゃぁひとまず、今日の補修はこれまで。さっきも言ったけど、ちゃんと帰って勉強するんだよ。じゃぁ~ね~。」

古賀がそう言って部室を後にする。


「さてと・・・今日の部活は終わったけど、このあとどうする?おれ今日は宿題でたから、『中央公園』行きたいんだけど?」

シゲがソウに聞くと、

「うん、僕も行きたいと思ってた!」

「あ、それって昨日言ってた喫茶店?私も行く!」

アカがそう言うと、

「よし、今日はおれも行く。宿題もやりたいしな。そこ、宿題やっても大丈夫なんだろ?」

ツネの言葉に、シゲが頷く。

というわけで、4人は『中央公園』へと向かうことになったのである。

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