第15話:聡太の過去をコーヒーと
社会科研究部の部室を出た4人と1匹の姿は、『中央公園』の平八の特等席にあった。
プレッソが店に入ることも、あけみ姉さんは快諾してくれたのである。
そこでそれぞれ宿題をひろげながら、今日の試験の情報を共有していた。
「そうか、やっぱり忍力の上乗せも意識しなきゃだな。」
聡太が心の試験をクリアしたときの様子を聞き、恒久が納得したように頷く。
「それで、聡太はどんな幻術見せられたの?ソウだけクリアしちゃったから、どんなの見たかわかんなかったじゃん!」
「お、おい茜。その話は・・・」
茜が無邪気に聞くのを、重清が止めようとする。
しかし、聡太が重清を止める。
「シゲ、ありがとう。でも大丈夫!」
そう笑顔で言ってから、聡太は続ける。
「僕さ、小学校の頃いじめられてたんだ。3年から4年生の2年間。それを助けてくれたのが、シゲだったんだ。幻術のなかでは、シゲまで僕をいじめてくるから、辛かった。けど幻術の中のシゲが『お前なんて友達になる価値ない』とか言い出したとき、なんか幻術にムカついて、そしたらなんかこう、ぶわぁーって、忍力が吹き出して、幻術が破れたんだ。」
恒久と茜が、聡太の告白にどんな顔をしていいか困っていると、
「なんだよ、友達になる価値って。そんな難しいこと、おれが考えるわけねーじゃん、なぁ?」
と、重清が笑って言う。
つられて、3人も笑う。
「確かに、シゲにそんなこと考えて人付き合いできるわけねーわな。」
恒久が、重清の言葉に同意する。
「なんか、人に同意されるとスゲー腹立つな。」
重清がそう言うと、4人は声を揃えて笑いあった。
「あらあら、盛り上がってるね。」
そう言って、あけみ姉さんがコーヒーを運んでくる。
「この2人が、昨日言ってた子達ね。よろしくね。」
「そ。こっちが恒久で、こっちが茜!みんな、同じ社会科研究部なんだ。」
「そうかい、あたしはあけみ。よろしくね。」
そう言って、あけみ姉さんは4人にコーヒーを配る。
「あれ、シゲ、今日はエスプレッソじゃないの?」
「いやー、おれにはあれでも苦かったんだよ。やっぱ、コーヒーっていったらこれだよな!」
そう言って甘いコーヒー牛乳を飲む重清。
「ふん、お子様だな。」
なぜか恒久が、勝ち誇ったように言う。
「なんだよ、そう言うお前は・・・な、なに、ブラックだと!?いや、きっとたっぷり砂糖を入れてるんだな!?そうなんだろ!」
重清が問いただすも、それを平然した顔で、恒久は答える。
「普通にブラックだよ。家じゃいつもブラックだからな。」
(な・・・ここに来て今日イチの敗北感・・・)
重清が絶望に打ちのめされていると、
「きゃー!これ可愛い!!」
茜がそんな声を出す。
茜の視線の先には、猫の絵が浮かぶカップがあった。
「ラテアートってやつだよ。モデルはプレッソ。」
そう言って、あけみ姉さんはプレッソに笑顔を向ける。
ソファの一角を陣取るプレッソは、満足そうに「なぁ」と鳴く。
「はい、プレッソにはこれあげる。」
そう言ってあけみ姉さんは、プレッソの前にキャットフードを置く。
プレッソは、少し匂いをかいだあと、美味しそうにそれを食べ始め、それを見た5人は、癒しの空間に包まれるのであった。
「そういえば」
あけみ姉さんがカウンターへと戻ったあと、重清が恒久に話しかける。
「ツネ、昨日親父さんとは話せたのか?」
「いや、家に帰って社会科研究部に入ったことを報告しても、『そうか』のひと言だけだった。あれが演技なら親父のこと大分見直すよ。」
恒久は、ため息混じりに言う。
父親が忍者ではないかと疑っていた恒久は、家での反応のなさに、落胆しているのであった。
「考えられるのは3つだな。1つ、そもそも、ただ単に勉強のために社会科研究部を勧めていた。2つ、何か理由があって、敢えてまだ名乗らないのか。3つ、親父は忍者ではあるものの、ダメダメ過ぎておれが忍者になったことに気づいていないか。ちなみにおれは、3つ目だと思ってるけどな。」
恒久が真面目な顔で、そう告げる。
「いや、お前の親父さんに対する評価の低さ!」
重清がたまらず恒久につっこむ。
「だって、お袋の尻の下でペッちゃんこなんだぜ?そりゃ評価も低くなるって。」
恒久の言葉に、聡太が小さく笑う。
「ん?ソウ、どうしたんだ?」
恒久が不思議そうに聡太をみる。
「なんか、そういうのいいなぁと思って。ウチ、父子家庭だから、母さんがいないんだ。いつも2人で二人三脚でやってるようなもんだからね。どうしても父さんはしっかりしなきゃって思ってるだろうから。母さんがいたら、そうやって尻にしかれてたのかなぁって想像しちゃって。」
「なんか、悪ぃな。」
恒久がバツが悪そうに謝る。
「気にしないで。母さんは僕を生んですぐ亡くなったらしいから、全然母さんの記憶とかもないんだ。だから寂しさとかもないしね。」
「ソウ、あんた、何だかんだと苦労してるわね。わたしがお姉ちゃんになってあげようか?」
茜が笑って聡太に提案する。
聡太は少し赤くなりながらも、
「えー、遠慮しとくよ。茜がお姉ちゃんだと、悪いことしたら思いっきりぶっとばされそうだもん。」
「ぶっ!」
重清と恒久が、飲みかけのコーヒーを吹き出す。
「ちょっと、それひどくない!?ってかそこ2人!汚い!早く拭いて!」
そう言われて、タオルを持ってきたあけみ姉さんからタオルを受け取り、茜に叱られながらテーブルを拭く2人をみて、聡太がまた「ふふっ」と笑うのだった。
その後4人は、それぞれの宿題を終えて帰路に着く。
「さて、明日からも頑張りましょう!」
重清の言葉に、それぞれが答えて、恒久と茜は2人と別れ、帰っていく。
聡太と2人になった(ただし、プレッソは重清の頭の上)重清は、聡太に尋ねる。
「ソウ、あの話、しちゃって良かったのか?」
「うん、ツネとアカには、聞いて欲しかったんだ。これから4人で、頑張っていきたいし。」
笑顔で言う聡太に、
「立派になって、まぁ。」
と、重清は泣き真似をしながら、聡太の頭をぐしゃっと撫でる。
「ちょ、やめてよ!なんか腹立つよ!」
笑って言う聡太に、
「ひっでー!」
と重清が返し、2人は笑いながら家へと帰っていく。
そんな2人を遠くから見ていた人影が、
「いよいよ始まったか。これで、最後だね。」
そう呟き、そのまま消えていくのであった。
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