第214話:頭を抱える重清

「とりあえず、目的重清と付き合うことは達成したから、私達は帰るわ」

頭を抱える重清をよそに、美影はそう言って席を離れ始めた。


「いやちょっと待ってよ!今『目的』って言葉に、何か間違ったルビ振ってなかった!?」

重清が、よく分からない事を言いながら美影を静止した。


「私と離れ離れになるのが辛いのはわかるけど、今日のところは我慢しなさい、重清。これは、あ、愛の試練なのよ!」

「無駄にポジティブ!!」

「ちっ」

重清のつっこみに、充希が不機嫌そうな顔で舌打ちをしていた。


「そ、そうだ!充希く―――様!お姉さんの事が大好きなんですよね!?美影を説得してくれません!?」


「姉上を呼び捨てなど―――いや、それは姉上が許しているから仕方ない。雑賀重清、姉上はこうと思い込んだら僕にもそれは動かせない。それに、愛しているからこそ、姉上の恋は全力で応援してみせる!!」

「いやカッコいい風に言ってるけど、気持ち悪いから!だから茜にフラれてるんですよ!?少しはこっちの迷惑も考えてもらっていいですかね!?」


「フラれ・・・・」

重清の言葉に、またしても充希はその場にへたり込む。


「それもういいからっ!!」

重清がつっこんでいると、美影が深刻な表情を浮べて呟いていた。


「迷惑・・・」


「そ、そう!おれ、付き合うなんて一言も―――」

「そうよね。悪かったわ重清」

美影が、重清を見つめる。


「こんなに大勢で押し寄せたら、迷惑よね。今度はちゃんと、ふ、ふたりっきりで逢いましょう」

「修正不可能っ!!」

そう叫んで、重清も充希の隣で沈み込んだ。


「そんなに照れなくてもいいのに。じゃぁ、またね重清。行くわよ、日立」

美影が『喫茶 中央公園』入口近くの席に向けた視線の先には・・・


逞しい肉体を包んだはち切れんばかりの黄色いスーツを身に纏い、ブラックコーヒーの入ったワイングラスを傾ける日立の姿があった。


「「いや居たのかよっ!!」」

先程まで重清に怨みの籠った眼差しを向けていた恒久が、遂に重清とともにつっこんだ。


どうやら、ギリギリのところでダークなサイドには落ちなかったようである。


それはさておき。


重清と恒久につっこまれた日立は、おもむろに立ち上がり、重清へと目を向けた。


「雑賀雅殿の孫とはいえ、本家次期当主である美影様に見初められるとはな。せいぜいその感動を噛みしめるんだな」

そう吐き捨てて、日立はそのままカウンターへと支払いに向かった。


「まったく、日立ったら。お似合いだなんて・・・」


「言ってない!誰もそんなこと言ってない!!」

重清の悲痛なつっこみも空しく、美影たちはそのまま『中央公園』を後にしていったのであった。



「・・・・・なんていうかシゲ、ドンマイ」

美影たちが去り、静寂を取り戻した『中央公園』で、聡太が重清を憐れむように見つめながらそう呟いた。


「いや、そう言うくらいなら助けてよ」

重清は、ため息をついて冷めたコーヒー牛乳を飲みほした。


「重清、お疲れ様。茜も、災難だったわね」

いつの間にか変化の術で智乃の姿へと変わっていたチーノが、微笑みを浮かべて茜へと目を向けた。


「本当よ。でもこっちは一応の決着はついたからね。でも、あの見た目の男をフルのって初めてだったから、なかなか体力使ったわぁ~」

茜は、目だけで智乃へ返事をし、そのままテーブルに突っ伏した。


「最初はムカついたけど・・・・ありゃなか大変そうだな。シゲ・・・悪かったな」

恒久は、申し訳なさそうにそう言って、エスプレッソを口へ運んでした。


「いや、確かにおれも一瞬だけめちゃくちゃテンション上がってたらね。っていうか、そんなことよりもさツネ・・・」


「ん??」


「エスプレッソ飲んでるのってもしかして、じいちゃんのこと意識してる??」


「っ!?」

重清の言葉に、恒久の手が止まった。


「あ、やっぱりそうなんだ!ぼくも、ちょっと怪しいなとは思ってたんだ!」

「ソウも?わたしも、もしかして、とは思ってたのよ~」

聡太と茜も、ニヤニヤしながら恒久を見ていた。


「わ、悪いかよ!あぁ、意識してるよ!トップに立った男が飲んでたんだぞ?少しでもあやかりたいじゃねーか!」

恒久が、顔を真っ赤にしたまま重清に目を向けた。


「っていうかシゲ!そんなことに脱線してる場合なのかよ!お前明日から、どうするつもりなんだよ!!」


「そうそれ!!何か良い解決方法ない!?」


重清が、友人たちを見渡した。


「「「「ない!頑張れ!!」」」」


聡太、茜、恒久、そして智乃が声を揃えてそう答えていた。

プレッソだけは、ミルクでお腹いっぱいになってテーブルの下で眠っているのであった。


「声揃えちゃったよ!マジかよ~。明日からどうすりゃいいんだよぉ~」

重清は、また頭を抱えるのであった。

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