第213話:モードチェンジ

「こ、これで私と雑賀重清は、こ、恋仲になったわね。し、重清と、呼んでもいい?」

「え?あれ??おれ1話読み飛ばしてる!?どう話が進んだらそうなっちゃうの!?」

重清が、美影の言葉によくわからないことを言い出していた。


「美影様、話、聞いてました?」

「も、もちろん聞いていたわ。か、可愛いと言ってくれたわね。その・・・し、重清も、私のことは美影、と呼んでもいいのよ?」


「ちょ、この人話通じてない!誰か助けて!!」


重清の叫びに、茜とチーノはニヤニヤとした顔を、聡太は哀れんだ表情を、恒久と充希が人を呪い殺しそうなほどの黒い視線を、それぞれ重清に向けていた。


(うぉっ、恒久むっつり雑賀充希フラれたシスコンがめっちゃ睨んでる。じゃない!なんなんだよこの状況!誰も助けてくれないのかよっ!!)

重清が、心の中で泣き叫んでいると、ゴロウを抱えたままの隠がスススッと重清に近寄ってきた。


(あの・・・)

(おぉ、隠君!キミだけはおれの味方だった!!)


(あの、重清様―――)

(え、その呼び方やめて!シゲでいいよ!)


(雑賀雅様のお孫様をそんな・・・)

(いいって!凄いのはじいちゃんとばあちゃんってだけで、おれはその辺にいる普通の中学生なんだから!)


(えっと、じゃぁ・・・シゲ、君。美影様のことなんですけど・・・)

(なになに?おれはどうすればこの状況から抜け出せるの?)


(美影様は、その・・・凄く思い込みが激しい方で、一度こうだと思い込んだら、そう簡単には・・・だからその、諦めてください)

(うぉいっ!!わざわざとどめさしに来ちゃっただけだこの人!!)


「ちょっとクル、し、重清。2人で何をコソコソしているのよ?」

2人の様子に、怪訝そうな美影が声をかけてきた。


「美影様。彼はどうやら、あまりの嬉しさに心が追い付いていないようです」

隠が、美影に対してそう返した。


「ふ、ふん!当然よ!私みたいな美少女とつ、付き合うことになったんだから!」

美影は、隠の言葉に満足そうに勝ち誇った顔をしていた。

その顔は真っ赤に染まり、もはや頭からは湯気が見えてきそうなほどなのであった。


「ちょっと隠君!?何言ってくれちゃってんの!?キミがそんなこと言っちゃうと、あの人ますます勘違いしちゃうじゃんか!」

「ごめんねシゲ君。僕は、美影様と充希様をお守りするためにここにいるんだ。あのお2人のお命だけでなく、恋も、ね」

隠は、強い意志の籠った目で重清を見返した。


「いや前半めちゃくちゃかっこいいけど、後半余計なおせっかい!恋は2人だけで育むものだから!

っていうか守れてない!充希様の恋は全然守れてないよ隠君!

あの人、今現在失恋の腹いせとばかりにずっとおれを睨んでるからっ!!」

「なっ!?」

重清の言葉に、今まで痛いほどの視線で重清を射殺そうとしていた充希が、失恋のショックを思い出して再びその場にへたり込んでいた。


そんな弟の様子を気にも留めずに、美影は恍惚とした表情を浮かべて呟いていた。


「愛を、育む・・・」


「いや愛とか言ってないし!っていうかそこ以外の言葉は全部シャットダウンしてるの!?」


ここにきて、重清はつっこみに大忙しなのであった。


一方、2中忍者部のつっこみ番長恒久はというと・・・


「あんな可愛い子に告白?しかも断っただと??重清、許すまじ・・・」

あと一歩でダークなサイドに落ちそうなほどに、重清を見つめてブツブツと呟いていた。


そんなことはさておき。


「そんなに照れなくていいのよ、重清」

段々とスムーズに重清の名前を呼べるようになってきた美影が、そう言って重清を見つめる。


「いや照れてねーしっ!!っていうか美影、もう最初に会った時とはキャラが違い過ぎるよ!!!」

「み、美影って呼んでくれた・・・」


「話が進まない!!」

重清が頭を抱えていると、またしてもゴロウを抱えた隠がスススッっと重清の近くへ寄り、耳元で囁いた。


「おそらくシゲ君が初めてあった時、美影様は『末席恐喝モード』だったんだと思います。一番怖い美影様です。忍者部の時には、『末席見下しモード』。これが基本の美影様です。そして今ついに、シゲ君のおかげで美影様は、『恋する乙女モード』が発動しちゃったみたいです」


「いやほんとどうでも良い情報!!なんだよ、基本の美影が『末席見下しモード』って!そして『恋する乙女モード』って可愛いモードだなおい!!」

「基本の美影が、可愛い・・・・ポッ」


「いや編集の都合が良すぎる!!!」

重清はそのまま、頭を抱えてしまうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る