第1話:人生を変える出会い

「キーンコーンカーンコーン」


ある中学校のある教室に、チャイムが鳴り響いた。


その教室では少年が1人、机に足を乗せて座っていた。

良い子は真似をしてはいけない、そんな座り方であった。


それ以外の生徒は、どうやらいないようだ。


それもそのはずである。

この日はその中学校の入学式。


これからまさに、全校生徒は校長先生の長い話に疲弊し始めるところなのである。


ならばなぜ少年は、1人教室に留まっているのか。


「ちっ。入学式なんてダリぃもん、誰が出るかってんだよ」


とのことである。


しかしこの少年、1年生なのである。

つまり、彼はまさに入学式の主役の1人。

出席しないという選択が、許されるのであろうか。


そんな心配を見透かしたように、教室の扉が開かれる。


「おいっ!入学式はとっくに始まっとるぞ!!」

いかついゴリラのような体育教師が、怒鳴り込んできた。


「あぁ!?」

体育教師に向けて、少年がそう言って睨み返すと、


「うっ。ま、まぁいいわっ!」

そう言って教師は、そのまま教室を後にしてしまった。


「ちっ」

少年は小さく舌打ちをして、窓の外へと目を向けた。


ずっと、そうだった。

幼い頃から、少年が相手を睨みつけると、相手は必ず怯むのだった。

それは、両親も例外ではなかった。

少年の両親は、そんな少年を避けるようになっていた。


だから少年は、ずっと1人だった。


少年に近づいてくるのは、少年を快く思わない者ばかりだった。

そしてそんな者達は、必ず少年を暴力で制しようとした。


しかし、少年は強かった。

幼少の頃より、周りと比べても身体能力は群を抜いていた。

相手が高校生であろうとも、小学生の頃から負けたことは無かった。


唯一の救いは、少年がその力を、弱者に向けなかったことであった。

少年はその力をただ、自身の身を守ることのみに使っていた。


それでも、その力に魅せられた者達が、少年を慕い、集まり始めた。

そこには、中学生の姿も多くあった。


少年は、1人ではなくなった。

はずだった。


多くの者達に慕われていたにも関わらず、少年の心が満たされることはなかった。


それがまた、少年の心をイライラさせた。


そして今もまた、少年はイライラしながらずっと、窓の外に目を向け続けるのだった。


その日、少年の人生を大きく変える出会いがあることなど、知らないままに。



しばらくすると、教室にクラスメイト達が戻ってきた。


クラスメイトは誰もが、少年が入学式に出ていなかったことに触れることはしなかった。いや、出来なかった。


何故なら怖いから。

同じ小学校だった者はもちろん、別の小学校だった者も、少年の噂は聞いていた。


結果、中学校生活初日であるにも関わらず、クラスの意見は計らずも一致していた。


アイツに関わるのはやめよう、と。


それは残念ながら、担任である教師も同じだった。


結果として、その日少年は誰からも、入学式に参加しなかったことを咎められることはなかった。



そして放課後。


いたるところで部活の勧誘がされている中、少年はそれを憎々しげに睨みつけながら校門へと歩いていた。

もちろん、睨みつけられた先輩たちは全員が少年の目に怯えていた。


そんな異様な景色の中、少年の背に声がかけられる。


「ねぇ、きみ。良かったら、ウチの部に入らないかい?」


「あぁ!?」

少年は振り返り、いつものように相手を睨みつけた。


その瞳の先にいたのは、1人の老人であった。

しかもその頭には、見る人が見ればそれとわかるズラが乗っていた。

そんな老人が、ただニコニコと笑って少年を見ていた。


そう、老人は笑っていたのだ。

睨みつければ誰もが怯える少年の瞳。いかつい体育教師ですら怯えていたその視線を受けてなお、老人はただ笑っていた。


「やはり、きみは素晴らしい力を持っているね」

そう言って老人は、ぐっと少年に近づいて少年にしか聞こえない小さな声で囁いた。


「きみのその悲しい力は、もっと他のことに役立てるべきだ。良かったら、話だけでも聞きに来てくれないかい?」


自身の睨みに怯みもしない老人に興味を抱いた少年は、ただ頷いて同意した。


「良かった。これからちょうど、部の説明会があるんだよ。私について来てくれ」


そう言って進み出す老人の背に、少年が不機嫌そうに声をかける。


「あんた、名前は?」


「きみねぇ。先生に向かってあんた、はないでしょう。それに、人に名前を聞くときはまず、自分から名乗るものだよ?」

にこりと笑ってそういう老人にイラつきながら、少年は仕方なくその名を名乗った。


「久則(ひさのり)。古賀 久則」


「古賀君、だね。私は鈴木。社会科研究部の顧問、鈴木 平八だよ。よろしくね」

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