第438話:青龍

「なるほど・・・始祖様の弟子の具現獣ですか。それは興味深い・・・」

聡太の話にじっと聞き入っていた亀太郎が呟くと、紅葉は面白くなさそうに亀太郎を睨みつけ、


「それでも、あなたが『玄武の術』と契約をしない理由にはならないわ!

『玄武の術』の発動には具現獣が必要なの。しかも、具現獣ならばなんでも良いというわけじゃない。

『玄武の術』には亀の具現獣がいないと、本当の力は発揮できないわ。

その点、亀太郎ならば聡太と契約しても構わないと言っているわ。聡太が『玄武の術』の術と契約した方が―――」


「・・・それも間に合ってます」

申し訳無さそうにそう言って視線を外す聡太の視線を、紅葉は自然と追った。


そこには、頭に亀を乗せたバカそうな子重清が満面の笑みで立っていた。


「ソウ!言うの忘れてたけど、お前の伯母さん失礼だぞ!」

重清は今更ながら、先程の紅葉の『バカそうな子』発言に対する文句を、聡太へと投げつけていた。


「でも、まぁ、間違ってもいないからね」

「え、風魔ってみんなこんなに失礼なの?」

親友聡太の呆気ない裏切りに、重清は亀太郎へと視線を向けた。


「いえ、聡太様のお母様、楓様はそれはそれはお優しい方でした。

お嬢様紅葉は、その、独り身が続きすぎて少々性格が―――」

「亀太郎!!」

亀太郎のフォローになっていないフォローに、紅葉は怒鳴り声を上げた。


「っていうか、あんた雑賀重清でしょ?なんで亀なんて具現獣にしているのよ!?

あんたの具現獣は、猫じゃなかったの!?」

「ふん。儂はその、雑賀本家の元具現獣じゃ」

紅葉の言葉に、ロイは冷たく言い放った。


「おぉ!あなたがあの、ゴロウ様ですか!亀先輩であるゴロウ様にお会いできて、私は感動しておりますっ!!」

突然の謎ワードを叫びながら、亀太郎は重清の頭に鎮座するロイへと尊敬の眼差しを向けていた。


「いや、亀先輩って、なに?」

さすがにこらえきれず、重清がロイに謎ワードについて尋ねるも、


「儂に聞くな」

ロイは呆れ声でそう返して重清の中へと戻っていった。


「なんとクールな・・・」

「あんたも少しは見習ったら?」

感動冷めやまぬ亀太郎に対し、紅葉は華麗なる嫌味を飛ばして聡太に目を向けた。


「とにかく、雑賀に術を与えるなんて私は認めないわ」

「だったら、ぼく風魔の当主になんか絶対になりません」


「あーでも、一旦貸してあげるくらいは問題ないかなぁ〜」

聡太の強い口調に、紅葉は瞬時に手のひらを返した。


「じゃ、そういうことで」

聡太が笑顔でそう言うと、


「・・・わかったわ」

紅葉は諦めたように、術の契約書を具現化させた。


「いい?ことが済んだら、すぐに聡太に術を返すのよ!」

「いや、誰に言ってんの?」

何故か亀太郎に向かって声をかけている紅葉に、重清は小さくつっこんだ。


他人に直接話しかけられない紅葉の、精一杯の頑張りに、亀太郎は何故か涙を流して喜んでいた。


(風魔本家マジ面倒くせぇ。早くソウが当主になってくれ)

ノリはそんな現風魔本家当主とその具現獣の様子に、ただただそう祈るのであった。


紅葉が術の契約書をいじっている間に、亀太郎は涙を拭きながら聡太へと声をかけた。


「そういえば、聡太様の具現獣、確かお名前はブルーメ様でしたな。随分お静かですが、どうかなされたのですか?

先程お話に出た、もうひとりのパパである青龍様と一緒にいらっしゃるのですか?」

「・・・・・いえ。ここにいるんですけど・・・」

亀太郎の言葉に、首元の龍のアクセサリーを指で弾きながら聡太は悲しげな表情を浮かべた。


「いや、っていうかなんでソウの具現獣のことは名前まで知ってて、ロイの事は知らなかったのさ」

「紅葉様は、聡太様にしかご興味がありませんでしたからね」

重清の久しぶりの脱線に丁寧に答えつつ、亀太郎は聡太へと向き直った。


「それで・・・ブルーメ様はどうしてお静かなのですか?」

「はい。ブルーメ、凄く悲しんでるんです。もうひとりのパパ、青龍さんが消えちゃって」


「きえ、た?」

亀太郎の言葉に頷いた聡太は、再び語りだした。



時は再び戻って、『喫茶 中央公園』。

術の契約書を具現化させた青龍は、聡太をじっと見つめていた。


「では聡太。お主に『青龍の術』を与える」

「は、はい」


「この術は、具現獣がいないと使うことは出来ない。

お主にはこの子が居るから、問題はないがな」

そう言った青龍が術の契約書を見つめて念じると、


『ピロリンっ』

聡太の頭に久々の着信音が鳴り響いた。


しかし聡太は、その音のことなど聞こえなかったかのように青龍を見つめていた。


「せ、青龍さん・・・体が・・・」

「ふむ。やはりこうなったか」

青龍はそう言って、自身の手を見つめていた。


そこにあるはずの手は、忍力の霧となって辺りに漂っていた。

そしてその忍力の霧は、青龍の全身から漏れ出ていた。

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