第439話:青龍の逝く先

手の先から徐々に消えている青龍に、ブルーメが泣きそうな声を出した。


「パパ!?どうしちゃったの!?なんで消えてるの!?」

「落ち着きなさい、我が子よ」

青龍は優しく微笑んで、ブルーメを見つめていた。


「いつか、お主たちとともに居た男ガクのことが言っていたな。主のいない具現獣が時折現れると。

どうやら我の場合は、少し違ったようだ」

青龍はそう言って、聡太を見つめていた。


「それって、どういう・・・」

「我がこれまで生きていたのは、主より『青龍の術』を預かっていたかららしい。その役目を終えた我は、やっと主の元へ逝くことができるようだ」


「嫌だよ!もっとパパと一緒に居たいよ!せっかく卵から出てこられたのに!!」

「・・・・・・・」

泣き叫ぶブルーメをじっと見つめていた青龍は、無言のまま、笑みをこぼした。


「あれ程主の元へ逝きたいと思っていたはずが・・・まさか、いざその時になってまだ生きたいと思うとはな」

「それが、親子ってもんさ」

悲しげな笑みで呟く青龍に、雅が声をかけた。


「なるほど。子を残す親の気持ちとは、こういうものなのか。こんなことならば、もっと早くにお前に会いに来るべきだったな、ブルーメよ」

「だ、だったら、もう1度術をあなたに戻せば―――」


「無駄だ、聡太よ。お主に術を与えた時点で、我の契約書は消滅した。もう、止めることはできんさ」

「そんな・・・」

「嫌だよっ!パパぁっ!!」


「2人とも、わがままを言うんじゃないよ」

涙を浮かべる聡太とブルーメに、雅が厳しい言葉を投げつけた。


「あんた達がそうやって引き止めれば引き止めるほど、こいつが辛くなる。あんた達は、笑って見送ってやりな」

(ばあちゃん・・・)

拳を強く握って言う雅を、重清は見つめていた。


平八の指示に従ったとはいえ、平八の生を終わらせた雅の言葉は、その事実を唯一知る重清にとっても辛いものであった。


しかしだからこそ、重清には雅の気持ちがよく分かっていた。


「ソウ、ブルーメ。ばあちゃんの言うとおりだよ。

コモドさんは、やっと会いたい人に会えるんだ。ちゃんと見送ってあげなきゃ」


「「・・・・・・・・」」


聡太とブルーメは涙に濡れる目で見つめあい、強く頷いた。


「そうだね、シゲ。ありがとう。青龍さん、今までありがとうございました。

次に会うときは、ぼくとブルーメはもっと強くなります。忍者としてだけじゃなく、心も」

「ボ、ボクも!だからパパ、安心してねっ!」


「・・・・ふっ。すまんな、2人とも」

青龍は小さく微笑んで、聡太とブルーメを見つめた。


「あんたも自信を持って逝くことだね。

この2人は、もっと強くなるよ。根来のやつらよりもよっぽどね。

向こうであんたの主に、たっぷり自慢してやるといいさ」

雅は皮肉な笑みを、青龍へと向けた。


「そうだな。我の子達ならば、きっと素晴らしい成長を遂げるだろうの」

「そういうことさ。この子達のことは、このオウがしっかりと育ててくれるさ」

雅はそう言いながら、オウの背を叩いた。


「み、雅様・・・」

「オウ殿、か。どうか、この子達のことを、よろしく頼む」


「は、はい!お任せください!」

オウは青龍に、深々と頭を下げた。


オウに頷き返した青龍は、ブルーメを見つめた。


「ブルーメよ。我はこのまま、消えるだろう。だがせっかくならばこの体に残る忍力、お主にもらって欲しい」

「パパ・・・うん。パパの力、ボクが全部貰う!」


「聡太。我ら具現獣が、死後何処へゆくかはわからない。だが、もしも主達と同じところへ逝けるならば、また向こうで会おう」

「はい!」


「聡太、1つ頼まれてくれ。あの男に、允行に会ったら伝えて欲しいことがある」

「え、あ、はい」


「――――――――――」

「・・・・はい、必ず」


「うむ。では、さらばだ」

青龍は笑って頷くと、その体を光となり、ブルーメへと注がれた。


その場に居合わせた者達はそのあまりの眩しさに目を押さえた。


そして各々が目を開くと、青龍の居た場にはブルーメだけが残っていた。


一回り大きくなった、ブルーメが。


「パパの力・・・ボク、もっと強くなるよ」

ブルーメの決意のこもった声だけが、その場に響き渡るのであった。

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