第440話:問題発生
「いや〜。よかったな、風魔の術借りられて」
風魔本家から忍者協会へと帰る道すがら、重清が呑気にいった。
ちなみに何故彼らが協会に向かっているのかと言うと、単純にそこが中継地点となっているからである。
四大名家と呼ばれる伊賀、甲賀、雑賀、そして風魔家は、それぞれその本家の近くに協会へ移動するために雅が作り上げた術によるポイントが設けられている。
未だに本家を引きずり降ろそうと企てる者がいるために、敢えて本家から少し離れた所に配置されており、そのために彼らはわざわざ山道を歩いているのである。
「それにしても、まさかソウが風魔本家の血を引いているとは思わなかったな」
重清の言葉に頷いたノリは、そう言って聡太の顔を覗き込んだ。
「なはは。ぼくも、お母さんが忍者だったなんてびっくりしてます」
聡太は乾いた笑いを、ノリへと返した。
「あ、そういえば・・・」
そう言った重清は、ノリへと目を向けた。
「おれがノリさんとの契約を破棄して血の契約者になった時、なんていうかこう、これまで抑えられていた力が溢れてきた感じだったんだけど・・・
もしかして、ソウもノリさんとの契約を破棄したら、今以上に強くなったりするのかな?」
若干心配そうな重清の表情に、ノリは首を横に振った。
「いや、それはないだろう。ソウの力は、元々飛び抜けていた。
おそらく、俺との契約の時点で血の契約をしたのと同じ力が発現していたはずだ。
お前や恒久とは出来が違うってことだな、重清」
「おぉ〜。流石おれの右腕」
「うん、司令塔ね」
いつもの重清の返しに、聡太もいつものようにつっこんだ。
「2人は相変わらずだねぇ〜」
そんな重清と聡太に、ブルーメが声をかけた。
「ブルーメ、少しは気持ちの整理、ついた?」
聡太が心配そうにアクセサリーのままのブルーメを撫でると、
「うんっ!ボクがいつまでも悲しんでたら、パパも悲しむからねっ!」
ブルーメは元気な声で聡太へと答えた。
そんなブルーメの声がから元気であることを知っていた聡太は、
「うん、そうだね。ぼくらはもっと、強くならなくちゃね」
そう、笑顔で答えていた。
「ま、とにかく。これで雅様達と恒久達が上手く行けば、術は全て揃ったわけだな」
「だね。問題さえ起きなきゃ、すぐに美影を助けに向かえるね」
ノリの言葉に重清は頷き、一行は協会に繋がる扉に手をかけた。
「ソウ、シゲ。問題発生よ」
『喫茶 中央公園』に戻った重清達を、茜のそんな暗い言葉が迎えた。
「え、なに!?もしかして、どっちかが術を借りられなかったの!?」
重清は焦り顔で茜へと詰め寄った。
「違うから!ちょっと離れてよっ!」
目前に迫る重清を押しのけて、茜は叫んだ。
「俺が伊賀から借りた『麒麟の術』も、茜が甲賀から借りた『朱雀の術』も、このままじゃ使えねぇんだよ」
茜に代わって、恒久が呟いた。
「あ、具現獣・・・」
恒久の言葉に、聡太が言葉を漏らした。
「そうなの。わたしが契約した『朱雀の術』は鳥の、ツネが契約した『麒麟の術』は馬の具現獣が必要なのよ」
茜が聡太の言葉に頷いて答えた。
「え、待って。じゃぁおれがもう1つ契約するはずの、雑賀の術はどうなの!?」
重清は六兵衛へと目を向けた。
「それなら心配はいらん。我が雑賀に伝わる『白虎の術』は、猫科の具現獣がいれば問題はない」
そう言いながら六兵衛は術の契約書を取り出した。
『ピロリンっ』
その直後、重清の脳内に着信音が鳴り響いた。
「こんなに簡単に渡して良かったの?」
「当たり前だ。孫の命がかかっている。それにお前ならば、そのままその術をくれても良いくらいだ」
六兵衛はそう言って、深々と頭を下げた。
「重清君、どうか美影を、孫を助けてやってくれ!」
「いや、そのつもりだけど・・・それ今じゃなくない?
今まさに、その孫を助けられるかどうかの瀬戸際なんだけど」
孫想いの六兵衛に、重清は呆れたように苦笑いを浮かべていた。
「あ〜、俺多分なんとかなるわ」
そんななか、恒久は独り考え事をして手を挙げた。
「おぉ、流石は師匠!孫のために、ありがとうございます!」
今度は恒久に頭を下げる六兵衛を無視して、茜はノリへと目を向けた。
「そうだ!ノリさんのハチさん、鳥だったじゃない!
ノリさん、少しの間でいいから、ハチさん貸してよ!」
そう言って目を輝かせる茜に、
「いや、それは・・・・」
ノリは口ごもった。
「なんでよツネさん!美影ちゃんの命が危ないのよ!?」
「あっちゃん、ノリを責めないでやってくれ」
ノリへと詰め寄る茜を止めた雅は、そう言ってノリへと目を向けた。
「武具の代わりに具現獣を具現化した忍者にとって、具現獣は力そのものなんだ。もしもノリが具現獣を手放したら、ノリは忍者としての力を失っちまうんだよ」
「そ、そんな・・・」
雅の言葉に茜が絶望の色を浮かべていると、
「でもさぁ、一旦契約して、後で返せばいいんじゃないの?」
重清が呑気そうに言った。
「確かに、理論上はそうかもしれない。だがね、重清。それを試した者はこれまで居ないんだよ」
雅が悲しげにそう返していると、
「まったく。こんな事だろうと思ったわ。あいつの言うとおり、私が来て正解だったわね」
そんな声が、『喫茶 中央公園』の入り口から聞こえてきた。
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