第9話:部活といったら先輩
プレッソの家族入りが鈴木家であっさりと認められた翌日の朝、重清は悩んでいた。
プレッソをどのタイミングで自分の中にも戻そうかと。
結果、両親が共働きであることから、自分と一緒に外に出て、そのまま重清の学校が終わるまでプレッソを自由にする、ということにしてどこかで戻すことで決定する。
(昨日の公園でいっか。)
そう考え、重清は学校へと向かう。
「行ってきまーす。」
「あら、プレッソも一緒に行くの?」
「あぁ、どうせ家にいても誰もいないから、好きにさせるよ」
母の質問に、重清は答えて外に出る。
「おはよ。」
外に出ると、ちょうど隣に住む聡太も出てきたところだった。
「その様子だと、プレッソは問題なく飼ってもらえそうだったんだね。」
「問題なくもなにも、2人とも大歓迎だったよ!どっちも猫派だったんだって。」
「へぇ。でも、よかったね。」
「まぁね。ソウ、学校行く前に寄っていきたいとこあるんだけど、いい?」
「いいけど、遅刻したくないよ?」
「大丈夫、こいつを戻していきたいだけだから。」
そう言って、重清はプレッソを撫でる。
「にゃぁ」
プレッソは、嬉しそうに鳴いていた。
「あ、そっか。どこか場所は決めてるの?」
「近くに、ドーム型の遊具がある公園あるじゃん?あそこ。昨日も、そこでこいつ出したしね。」
「あそこかー。あそこなら、学校行く途中にあるからちょうどいいね。」
そう言って、2人は公園に向かい、間もなく到着する。
「よし、じゃぁちょっと行ってくるけど、ソウはどうする?」
「ここで待ってるよ。あそこから2人で出てくるとこ見られたら、なんかいろんな意味で怪しまれそうだし。」
「えぇ、お前となら、おれはいいんだぞ?」
「ちょ、マジでやめて、気持ち悪い。」
「うわっ、ひでー!」
そんな会話をして、重清はドームへとプレッソとともにはいっていき、すぐに重清だけが戻ってくる。
「さて、行きますか。」
「でも、いつもここでやってたら、いつかばれそうじゃない?」
そう言われて重清は、昨日公園であったことを聡太に話す。
「そんなことがあったんだ。その人に気付かれてはないかもしれないけど、ちょっと方法考えた方がいいかもね。今日、先生に相談してみたら?」
「だな。」
そう言って、2人は学校へと向かう。
教室に到着すると、クラスメイトの1人が重清に声をかける。
「よっ、忍者!」
その言葉に、重清は焦る。
「いや、昨日自分で『おれは忍者の子孫だー』とか言ってたじゃん。どうしたんだよ。」
クラスメイトが、呆れながら言う。
「あ、あぁ。でもほら、あのとき盛大にスベったじゃん?もうね、消し去りたい記憶なの!」
と、重清は誤魔化すように言う。
それを聞いたクラスメイトも、
「確かに、あれは凄かったな。ほぼ初対面ばっかの中であんなこと言えるやつ、なかなかいないぜ。」
と、クラスメイトは笑いながら言って去っていく。
「ここにきて、昨日の自己紹介をいろんな意味で後悔してます。」
「ま、あれは確かに凄かったからねー。」
「やめて!」
その日、重清は何度も初日の自己紹介をいじられることになる。
結果、重清のあだ名は『忍者』で固定されてしまうのであった。
そして放課後、重清は聡太と図書館へと向かう。
すると、後ろから声をかけられる。
「やっほ、2人もこれから部室?」
茜であった。
「うん、茜さんも?」
聡太がそう聞くと、
「茜でいいよ。わたしも行くとこ。2組覗いたけど、ツネはいなかったからもう向かったのかもね。」
そして、
3人は社会科研究部の部室へと到着する。
「じゃぁ、あっちの部室に行きますか!」
重清がそう言うと、3人は社会科研究部の部室の掛け軸から、忍者部の部室へと入っていった。
そこには、既にツネと古賀の他に4人いた。
その4人が先輩なのだろうと、ソウが思っていると、
「あ」
と、シゲが声を出す。
(あれ、あの人昨日公園で会った人じゃん。忍者部の先輩だったのか。)
そうシゲが考えていると、向こうもシゲに気づき、手をふってくる。さすがに、シゲから先輩に対して手をふり返す訳にもいかず、軽く会釈を返す。
「おー、今年の1年は4人はかぁ!今年は大漁ですねー、先生。」
そう、先輩の一人が言う。
「そうだねぇ。っと、ひとまずはそれぞれ、簡単に自己紹介でもしようか。まずは先輩のきみたちから。忍名と、具現化できる武具を出して紹介してね。忍名はみんな甲賀だから、端折っちゃってね。」
その言葉に、昨日重清と公園で会った先輩が一歩前に出る。
「ショウです。3年生は僕1人だから、一応今は忍者部の部長してます。武具は、この杖(じょう)だよ。」
そう言ってショウは、女性であれば見惚れるであろう顔に笑顔を浮かべ、身長ほどの棒を具現化する。
実際に、アカは目がハートになっていたが。
(あの棒、杖ていうんだな。あんなんが武器になるのか?)
ツネは、ショウの見た目に敗北感を感じつつ、悔し紛れにそう心の中でつっこむ。
「ショウはこう言ってるけど、彼の実力は本物だからね。きみたちの良い見本になるよ。」
そう古賀が言う。
「それだとまるで、おれたちが見本にならないみたいじゃないですか」
と、先輩の1人が笑いながら言う。
「あ、おれはシン、2年だ。武具はこのクナイ。おれたち2年も、ショウさんほどじゃないけど、頑張ってるから、見放さないでね?」
と、笑顔で4人に顔を向ける。
(ショウ先輩と違って、シン先輩はなんていうか、ものすごく普通の見た目ね。)
と、アカは心の中で見た目評価を行っていた。
すると、シンの隣にいるごつい男が声を上げて笑う。
「はっはっは。違いない。おれたちだってショウさんに負けないくらい頑張ってるんだからな!」
ごつい男は、続けて自己紹介を行う。
「おれはノブ!2年。武具はこいつだ!」
そういうと、ノブは両手にナックルを具現化する。
もはや見た目とのお似合い具合に、4人はただただノブを見るしかできなかった。
「と、残るこいつはケン。武具は・・・」
ノブがそう言って隣の小さくひょろっとした男の紹介をすると、突然ノブの目の前に刀が現れる。
「うぉっ!ケン、いきなりなにすんじゃい!もうちっと気を付けんか!」
そう言って怒るノブに、ケンは無言でニヤッと笑う。
「ケンは無口なんだ。この通り、武具は刀。ノブとケン、そしておれの3人が2年だ。よろしくね。」
シンが、そう締める。
「ぼくら4人が、この忍者部でのきみたちの先輩ってことになる。と、次はきみたちの自己紹介をお願いね。」
と、今度はショウが、重清たちに自己紹介を促す。
そこで、ツネが一歩前に出る。
「ツネです。武具は手裏剣です。よろしくお願いします!」
と、決意の灯った目を輝かせて、言う。
シンが、ツネの武具を見て興味深そうにしていた。
次に、アカが赤みがかった長い髪を揺らしながら、話し出す。
「アカといいます!よろしくお願いします!武具は、この手甲です!まだまだわからないことばっかりですけど、ご指導よろしくお願いします!」
と、若干ショウに目を向けながら、アカが言う。
ノブはノブで、似た武器を使うアカに対し、興味を持った目でアカを見る。
次にソウが、気弱そうな顔に不安の表情を浮かべ、声を上げる。
「ソ、ソウです。よろしくお願います。武具は、この、レーダー?です。まだいまいち何に使えるのかわかってないのですが・・・」
と、不安そうなソウを見て、ショウが目を見開き、その後物思いにふけったような顔でレーダーを見続けていた。
最後にシゲが、
「1年のシゲです。おれは武具ではないんですけど、こいつが具現獣です!」
そう言ってプレッソを具現化する。
「ほう。」無口なはずのケンが、思わず声を上げるが、あまりにも小さい声であったため誰もその声には気づかなかった。
すると、ショウがシゲに声をかける。
「やっぱりその子、具現獣だったんだね。昨日公園で忍力が動いていたのが分かったから、もしかしたらと思ってたけど。」
「え、そういうのわかっちゃうんですか!?もしかして、あそこでこいつ出し入れするの、まずいですかね!?」
『出し入れ』という物のような扱いに、プレッソは少し怒ったように声を上げる。
「ごめんごめん、言い方悪かったな。気を付けるから、許してくれよ。」
「なぁ」
プレッソは優しくないで、シゲを許す。
「たった1日で、仲良くなったみたいだね。シゲ、プレッソの扱いに関しては、後でまた話そうか。」
そう古賀がシゲに話しかけ、続いて1年生4人に話しかける。
「さて、ひとまず全員自己紹介が終わったところで、昨日答えなかった『忍者部の目的』について話そう。そもそも、この忍者部は、忍者の育成のために数十年前に体系化された教育システムに沿って設立されている。だから、大きな意味でのこの忍者部の目的っていうのは、きみたちの成長、ってことになる。まぁ、それはあくまで、教育者側の目的、なんだけどね。
そして、このきみたちの成長のために持つべき目標。それが、『中学忍術大会』通称中忍体への出場だ。」
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