第10話:中忍体、の前に試験
「中忍体??」
4人の声が揃う。
「そ、中忍体。ほかの部活も、夏に大会あるでしょ?それの忍者版って思ってくれればいいよ。」
「それって、何を競うんですか?」
ツネが古賀に質問する。
「今はまだ、教えない。」
「え?理由を聞いても?」
「まずきみたち1年生は、忍力と心・技・体の3つの力の基礎を学んでもらう。そのときに、中忍体のルールを知ってると、どうしてもそれに合わせようとしてしまうからね。」
「それって、なんかおかしくないですか?そもそもその中忍体自体、忍者の育成が目的なんですよね?そうであれば、中忍体に合わせて実力をつけることも、間違ってはないようなのですが。」
そう、続けてツネが問う。
「その考え方も、もちろん正しい。実際に、師によっては、まず始めに中忍体のルールを教える人もいるくらいだからね。
でも、中忍体自体、あくまで中学生のレベルに合わせられた大会なんだ。だから、それだけを目標にしてしまうと、どうしても視野が狭くなっちゃうんだよ。ま、これは私の考えというよりは、この忍者教育のシステムを作り上げた忍者の考え方なんだけどね。
とは言え、そんなに長く引っ張るつもりはないよ。
2週間後までに、心・技・体それぞれの試験をクリアしてもらう。そのあと、改めて大会のルールを教えるよ。ただし、期日までに3つの全てをクリアできなかった者は、この忍者部を去ってもらう。」
「えぇ!!」
またしても、4人の声が揃う。
「はいはい、文句言わない。これも、システムを作り上げた忍者の考えなんだから、諦めなさい。」
「でも、さっきの話だと、その考え方には必ずしも従う必要はないんじゃないですか?」
ソウが、聞く。
「お、ソウよく気付いたね。その通り。あくまでこれは方針でしかなく、守らなければいけない訳でもない。」
「なんでですか!?そもそもこのシステムは、少なくなってきた忍者を増やすことも目的としているんでしょう?だったら、そんなに厳しくしないでもいいじゃないですか!?」
ソウがさらに古賀に噛みつく。
「確かに、忍者の数を増やすことは目的の1つだ。ただ、そうは言ってもそんなに増えても困るんだよ。増えすぎると、それだけ忍者の存在が明るみになる可能性も増えるからね。それに、この考え方があくまで方針とされているために、質の低い忍者も量産されることになってしまった。言いたくはないけど、これはこのシステムにおける唯一の欠点だと私は思っているからね。」
と、古賀は強い意思を込めてソウに返す。
そう言われたソウも、これ以上は言っても無駄だと判断し、口をつぐむ。
「みんなとりあえず、納得はしてくれなくても理解はしてくれたみたいだね。安心しなさい。試験と言っても、そこまで難しいことではない。本当に基礎中の基礎だから。」
先程までの表情を和らげ、古賀が4人に笑顔を向ける。
「というわけで、早速試験について説明するよ。」
そう言うと、古賀は部室にある扉を開ける。
そこには、以前開いた時のようなグラウンドはなく、代わりに森が広がっていた。
グラウンドがあるとばかり思っていた4人は、唖然とした表情で目の前に広がる森を見ていた。
「ここが、普段きみたちが使う訓練場になる。試験も、ここでやるからね。着いてきて。」
そう言って歩き出す古賀に、8人全員が着いていく。
そして間もなく、1つの小屋の前で、古賀は足を止める。
「まずここが、心の試験場。この小屋の中に入ると、幻術にかかるように設定してあるから、中に入ったうえで、心の力で幻術を打ち破るんだ。ここには、2年のシンをつけるから、分からないことは彼に聞いてね。もちろん、打ち破れないときも彼が助けてくれるから、安心してね。」
シンが親指を立てて4人にアピールするなか、アカが不安げに古賀に質問する。
「幻術って、どんなのですか?」
「ん?それは、入ってからのお楽しみ。」
古賀は、ニッとわらってはそう答える。
((((楽しみににできねー))))
4人の心は一致した。
「とりあえず、先に全ての試験を説明するね。というわけで、移動しまーす。」
そう言ってまた歩き出す古賀に、8人は着いていく。
「はい、ここが技の試験場。」
古賀がそう言うも、そこには一本の線が地面に引いてある以外に、何もなかった。
「先生、ここで何やるんですか?」
と、シゲが疑問を投げ掛ける。
「ここから、25メートル先にある的に、ここに置いている手裏剣を当ててもらうよ。」
「え、たった25メートル!?」
シゲが、嬉しそうにそう言う。
実際、野球の遠投であれば、25メートル投げるなど、それほど難しい訳ではない。
そのため、シゲはこの試験の通過に自信を持ったのだ。
「あの、先生、的はどこにあるんですか?」
シゲが自信ありげにニヤニヤしているなか、ソウが不安そうに古賀にそう聞く。
「ん?あっち。」
そう古賀が指す方にあるのは、木、木、木。森である。
「えっ?」
それまで自信たっぷりだったシゲが、混乱しながら質問する。
「え?木に当てるってことですか?」
「いや、この森の中にある的に、技の力を使って木々を避けながら当てるんだよ。まさか、ただのちょっとした遠投だとでも思った?」
古賀が、ポカンとした顔で聞き返す。
それを聞いたシゲは、落胆ぎみにため息をつく。
(そりゃそうだよなー。そんな単純なわけないよなー。)
そう思いながら。
そんなシゲをよそめに古賀は、
「ここにはケンに着いてもらうから、分からないことは彼に聞くように。」
と告げる。
ケンが小さく親指を立てていたが、あまりにひっそりとたてていたために誰にも気付かれてはいなかったが。
「心の試験場では、見本見せるの難しかったけど、ここなら大丈夫だね。ケン、後輩たちにきみの腕前を見せてあげて。」
そう古賀に言われ、ケンが地面に書かれた線の前へと出る。
そして、用意された手裏剣を持つと、そのまま古賀が先ほど指した方向へと手裏剣を投げる。
ケンの手を離れた手裏剣は、カーブを描きながら的のあるはずの森の中へと吸い込まれていき・・・
「テッテケテー」
と、突然微妙な音が周りに流れる。
「よし、ちゃんと当たったね。今みたいに、的に当たったらさっきの音が鳴るようになってるから。さらに、的に当たっても当たらなくても、勝手にここには戻ってくるというおまけ付き!」
古賀が自慢気に言う。
「あの、試しに投げてみてもいいですか?」
先ほど意気消沈していたシゲが、古賀に聞く。
「んー、一回だけね。」
古賀の許可がでると、いつの間にか戻っていた手裏剣を手に、シゲが線の前へと立つ。
(おれは忍者の子孫なんだ!きっと、出来るはず!)
そう思って投げた手裏剣は・・・
スコーンと音を立てて、的とは全然違う方向の木へと刺さる。
「せめて的のある方向に投げろよ」
ボソッとケンがつっこむも、それはシゲにだけ聞こえており、それを聞いたシゲは、
「あはははは・・・」
と、乾いた笑いをケンに返す。
「じゃ、次ね。」
そう言ってまた、古賀が歩き出す。
「ちょ、今のに対して、何かコメントを!」
シゲが古賀に声をかけると、古賀は真剣な眼差しをシゲに向け、
「ノー、コメント!」
とだけ返して歩き出す。
そして到着したのは2メートルほどの岩の前であった。
「ここが、体の試験場。想像つくかもしれないけど、あの岩を素手で割ってもらうよ。」
古賀が笑顔で4人に告げる。
もう何でもこいと思っていた4人は、半ば諦めぎみに、古賀の言葉に頷く。
「ここの担当はノブだね。ノブ、お手本よろしく。」
そう言われたノブは、
「ウッス」
とだけ答えて岩の前に立ち、そのまま拳を前につき出す。
すると、ノブよりも大きかった岩は、粉々に砕けてしまった。
何でもこいと思っていたとは言え、それでもこの状況に、4人は呆然とした顔をしていた。
その4人の表情をみたケンは、少し拗ねたようにノブを見る。
「ケン、拗ねないの。きみのは実際に刺さったところが見えなかったから、彼らもリアクションできなかっただけなんだから。」
と、ショウがケンを慰める。
ショウから慰められたケンも、その言葉に納得して頷き返すのであった。
「2人はいいじゃん、見本見せられたんだから。おれなんか、まだなーんにもやってないんだぞ?現時点で、先輩っぽさアピールできてないんだぞ!?」
そう言うシンの言葉に、ノブが
「がっはっは、ちがいない!」
と豪快に笑い、ケンも「フッ」と笑うのであった。
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