第8話:エスプレッソをお持ちしました
『中央公園』でエスプレッソ(砂糖入り)を受け取った重清は、祖父の家へと向かっていた。
(じいちゃん、喜んでくれるかな~?)
そう考えながら。
そして重清は、祖父の家へと到着する。
「お邪魔しまーす!ばぁちゃん、重清だよーー!」
そう言って重清は、家へと入っていく。
すると、祖母である鈴木 雅(みやび)が出迎える。
「おや、重清かい。今日は中学校の入学だったんでしょう?どうしたんだい?」
「じいちゃんとばあちゃんに、『中央公園』のお土産!エスプレッソだよ!」
そう言って、重清はエスプレッソの1つを祖母に渡す。
雅は、それを受け取り、笑顔で答える。
「そりゃ、あの人も喜んでくれるね。早く持っていってやりな。」
「うん!じいちゃんはいつものところ?」
「あぁ、そうだよ。」
祖母の言葉を聞き、重清は祖父のもとへと向かう。
祖父のいる部屋にはいると、いつも通り祖父である鈴木 平八(へいはち)が、布団に横になって眠っていた。
特徴的な濃い眉毛の上には、タオルの巻かれた頭がある。
その姿を見て、重清はなんとも言えない表情で、祖父に微笑みかける。
平八は普段、カツラを着けており、こうして寝たきりになってからは、いつ誰がお見舞いに来てもいいように、雅が頭にタオルを巻いていたのだ。
雅の粋な計らいなのである。
重清の表情からもわかる通り、着けていたことを知る者にとっては、なんとも言えない気持ちになるのだが。
「じいちゃん、これお土産!『中央公園』のエスプレッソ。でも、いつもじいちゃんが飲んでるのと違うんだぞ。本場のエスプレッソってのは、砂糖が入ってるらしいぞ!」
そう言って重清は、平八の枕元にエスプレッソを置く。
「じいちゃん、おれ今日凄い体験した。いや、これからもきっと、何か凄いことになりほうな気がする。それを話せるようになるかはわかんないけど、それでも早く、起きてきてよ!今度はおれが、たくさん忍者の『お話』するからさ。」
そう言って、重清は部屋を出ようとする。
そこで、思い出したように振り向き、平八に声をかける。
「あ、じいちゃんごめん、ひとつ謝んないと。じいちゃんがエスプレッソを砂糖抜きで飲んでたこと、にん・・社会科研究部のみんなに話しちゃった!ごめんねーー」
そういって、逃げるように重清は部屋を出る。
その場に残った平八の口元は、心なしか少し笑っているようだった。
重清が平八の部屋を出て雅のいる居間に行くと、エスプレッソを飲んで、驚いているようだった。
「おや重清、もう話は終わったのかい?それにしても、こりゃエスプレッソだろ?なんでこんなに甘いんだい?」
そう、雅は重清に訊ねる。
「今日知ったんだけどさ、エスプレッソって、砂糖入れるもんらしいんだ!だから、じいちゃんにお土産で買ってきたんだよ」
重清がにかぁっと笑ってそう言うと、雅ははっとした表情になり、少し目を潤ませて「そうかい」と、微笑んだ。
雅のその様子に気付かない重清は、教室で思いっきり、『忍者の子孫だ』と言ってスベったことを雅に話す。
「ほっほっほ、そりゃ、今度あの人に文句言わないとねぇ。」
と、雅は笑いながら答える。
「そんなことよりも、あんたももう中学生なんだから、しっかりと勉強やるんだよ。」
「わ、わかってるって!あ、もうこんな時間だ!そろそろ帰らなくっちゃ!」
「まったく、あんたはいつも都合が悪くなると逃げ出すんだから」
雅が呆れながらそう言う。
「気をつけまーす。あ、ばあちゃん、ちゃんとじいちゃんにエスプレッソのこと話してよね!」
そう言いながら、重清は思い出す。
(あ、そうだった!家でプレッソ飼えるかどうか、帰って聞かなきゃいけなかったんだ。どこかでプレッソ具現化しなきゃな~。)
そう思いながら、重清は席を立つ。
「じゃ、ばあちゃん、またね!」
「はいはい、重清、これから頑張るんだよ。」
そう声をかけられた重清は、これ以上勉強の話をされてはたまらないと、逃げるように帰っていった。
「ほんとにあの子は。でもこれで、いよいよだねぇ。」
と、雅はさみしそうな目で重清が持ってきたエスプレッソに目を向けるのであった。
逃げるように雅の元を出た重清は、家に帰る道すがら、プレッソを具現化できそうな場所を探していた。
「どこかないかな~。」
そう呟きながら周りを見ていると、公園が目にはいる。
「あの遊具の中なら、大丈夫そうだな。」
と、公園にあるドーム型の遊具をみて、重清は考える。
近付いてみると、そこでは誰も遊んでおらず、少し離れた場所で重清と同じような制服を着た男子が、こともたちと遊んでいるところだった。
(この距離だったら、大丈夫だよな?)
そう重清は考え、遊具の中へと入る。
「さてと・・・」
重清は周りを見渡し、念じる。
(出てこい、プレッソ!)
すると、可愛いクロネコが現れる。
「なぁ」
と鳴き声を上げて。
「よし、出てきた!やっぱ夢じゃなかったんだな。プレッソ、これから家に帰る。で、お前を飼ってもらえるか親に聞いてみるから、お前は普通の猫っぽくしろよ!」
(まぁ、現時点で普通の猫なんだけど)
そう思いながらも、重清はプレッソに告げる。
分かっている、とでも言うように、プレッソはひと声鳴く。
よし、と重清はプレッソを抱え、遊具を出る。
「可愛い猫だね。その子、キミの猫?」
遊具を出た途端、突然重清は声をかけられる。
「うぉっ!びっくりしたっ!」
「ごめんごめん、驚かせちゃったね。そんな可愛い猫見たら、どうにも我慢できなくてね。」
そう、声をかけてきた男が言う。
「あ、いえ、こちらこそ驚きすぎちゃいました。すみません。」
重清も、そう答える。
「キミもしかして、二中?だったら、僕の後輩だね。今日はごめんね!また、学校であった時には、何かお詫びでもするから!」
そう言って、男は走り去っていった。
「なんだったんだ・・・それにしても、びっくりしたな~、プレッソ!」
「にゃぁ!」
1人と1匹はそんな会話をしながら、重清の家へと帰っていく。
家につく頃には18時を回っており、両親は既に帰宅していた。
重清は帰ってすぐに、両親に話を始める。
「父さん、母さん、話があるんだ。」
「おいおい、どうしたんだ帰ってすぐに。なんだ、友達出来なかったのか?転校したいのか?」
父、雅司(まさよし)がぶっこむ。
「もう、お父さん、変なこと言わないでください。」
母、綾香(あやか)が父をたしなめる。
「はぁ。あのね、おれ、この猫飼いたいんだけど、いい??」
「「うん、いいぞ(わよ)」」
「は、え、即答!?え、なんで!?今まで、動物飼いたいって言っても、絶対許してくれなかったじゃん!」
重清が、あまりのあっさりとした両親の許可に、逆に抗議する。
「いや、今までお前、飼いたいって言ってくるの犬ばっかりだっただろ?うち、2人とも猫派だからな。猫だったら大歓迎だ!」
と、雅司が目をか輝かせてプレッソを見ながら言う。
「その子、名前はもう決まってるの?」
綾香が問う。
「プレッソ、っていうんだ」
「そうか、プレッソか~~!よろしくな~、プレッソ~~~。」
雅司がプレッソに抱き着くと、プレッソは嫌そうに声を出しながらも、我慢して抱かれたままとなっている。
一番の稼ぎ頭であるのが雅司であることを瞬時に見極め、必死に生き抜こうとしているプレッソなのであった。
「あら、私にも抱っこさせてよ~」
そう言う綾香に、プレッソは雅司の腕を瞬時に抜け出し、綾香の足元へとすり寄る。
真の大黒柱である綾香を、瞬時に(以下略。)
こうして、プレッソは鈴木家の一員として、あっさりと迎えられるのであった。
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