第7話:喫茶 中央公園

「なんか、すごいことになっちゃったね」

部屋から出ていく古賀を見送ってから、聡太が言う。


「だよなぁ、でも、これからが楽しみになってきたよ!」

重清は、目を輝かせてそう返す。

「はぁー、運動部に入るつもりなかったのにー。」

聡太が嘆くと、

「いや、でもほら、まだにん、じゃなくて社会科研究部の目的っての聞いてないじゃん?もしかしたら、全然運動なんてないかもしれないぞ?」


「いや、ここまできてそれはないだろ。どんだけ根拠のないフォローだよ」

重清の言葉に、井田がつっこむ。


「えー、まだわかんねーじゃーん!」

と、重清は井田に返して、また聡太に話しかける。


「ソウ、これからあそこ行かね?」

「言うと思った。今日は宿題とかもないし、行きますか!」

「あそこ?」

重清と聡太の会話に森がわって入る。


「そ!おれの好きな喫茶店!アカ、じゃなくて、森さんと井田も、行かない?」

「悪い、おれは帰って親父と話したい。あと、おれのことはツネでいいぜ。ってか、おれら4人は、普段からあっちの名前で呼び合わないか?」


「お、いいね!ぶっちゃけ、使い分けるのめんどくさかったんだよねー」

と、重清が恒久(井田)の提案に乗る。


「ごめん、わたしはできれば、普段は茜って呼んでほしいかも。アカってやっぱ、可愛くないし。あと、喫茶店の件も、今日はパスするわ。なんかいろいろありすぎて、今日は疲れちゃった。また誘ってね。じゃ、また明日ねー」

そう言って、茜は部屋から出ていく。


「じゃ、おれも今日は帰るわ。また明日な!」

恒久もまた、そう言って部屋を出ていった。


「じゃぁとりあえず、今日は2人で行きますか。」

そう言って、重清と聡太も外へと向かう。


部屋を出た2人は、『喫茶 中央公園』に到着する。

ここは、重清の祖父が通っていた喫茶店であり、それに着いていっていた重清もいつの間にか通うようになった店だ。

そう、重清の祖父がエスプレッソを砂糖抜きで飲んでいたあの店なのである。


「そうかー、シゲのおじいさんはここでエスプレッソを砂糖を入れずに飲んでたんだねー」

ソウがからかいながら言うと、

「ちょ、やめて、じいちゃんの恥ずかしい過去をほじくりかえさないで!」

重清は笑って答える。


そんなやり取りをしながら、2人は『喫茶 中央公園』へと入っていく。


店内に入ると、店員のおば、お姉さんが出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ~。どうぞこちらへ。」


そういって、店員は重清と聡太を奥の席へと案内する。

「あら、よしえおば・・・姉さん、今日は奥の席なの?」


一瞬重清を睨み、よしえ姉さんが答える。

「あんた今日から中学生だろ?そろそろ、あんたのおじいさまの特等席に通してやろうと思ってね。」

と、にやりと笑いながら答える。


よしえ姉さんは、慣れれば普通?に話せるのだが、初めて来たお客には変な話しかけかたをするため、なかなか客が定着しない。

そのため、ここに来るのはほとんどが常連客となっていた。


「じいちゃんの特等席かぁ!でも、勝手に使っちゃっていいのかな?」

「大丈夫、おじいさまの許可は取ってるよ」

重清に、よしえ姉さんは親指を立てて答える。


「さすがよしえ姉さん!でもなんかうぜー!」


「うるさいよ。で、なに飲む?シゲ君はいつもの甘いコーヒー牛乳でいいの?」

「いや、おれ今日は、エスプレッソにするよ!」

重清の言葉に、よしえ姉さんは驚きと戸惑いの表情を見せる。


「よしえ姉さん、知ってた?エスプレッソって砂糖入れるのが本場らしいよ?」

「あんたは私を何だと思ってるのよ。仮にも喫茶店で働いてるんだから、そのくらい知ってるっての」

苦笑いしながら、よしえ姉さんは聡太に目を向ける。

「ソウちゃんはどうする?」

「じゃぁぼくもエスプレッソにしてみようかな。」


「はいよ。」

そう言って、よしえ姉さんはカウンターへと戻る。

「それにしても、ここいい席だね。そうだ、明日から部活のあとはここで勉強しない?」

聡太の提案に、重清は嫌そうに答える。


「えぇー、やっぱ勉強やんなきゃダメなのかなぁー」

「先生も言ってたでしょ、して損はないって。わかんないとこは教えてあげるからさ、ね!」

「わーったよ!どうせここなら、『じいちゃん料金』でコーヒー一杯百円だしな。」

「勉強するなら、たまには軽食も食べてってくれよ。一皿二百円にしとくから」

と、よしえ姉さんがエスプレッソ2杯を運んで来ながら言う。


「前から思ってたんですけど、ぼくもその料金でいいんですか?」

「もちろんだよ。」

聡太の心配した顔を見ながら、よしえ姉さんは優しく答える。


「よしえ姉さん、明日からは他に2人、いつもじゃないかもしれないけど来ると思うんだけど。。。」

「あぁ、その2人ももちろん、おじいさま料金だよ。」

「やりぃ!さすがよしえ姉さん♪」

「まったく、調子いいんだから」

笑って、よしえ姉さんはそう答える。


重清は、その言葉に笑顔を向けて、エスプレッソを口にする。

「うわっ、にっがい!」

重清は思わず声をあげる。

甘い方が好きな重清には、たとえ砂糖が入っていても、やはり苦かったのである。

そんな重清を苦笑いで見ながら、エスプレッソ飲んで聡太はよしえ姉さんに質問する。


「よしえさん、そんな料金で、この店やっていけるんですか?」

(あれ、ソウはあれ苦くないのか!?あれ、なんかスゲー負けた気分。)

重清のそんな敗北感など知るよしもなく、よしえ姉さんは聡太に答える。

「この店は、マスターの趣味でやってるようなもんだからね。それに、マスターも私も、シゲちゃんのおじいさまにはお世話になっているからね。」

『なった』出はなく『なっている』という現在進行形の表現に、重清はよしえ姉さんの想いを感じながらも、複雑な表情をする。

重清の祖父は現在、ずっと寝たきりの状態であり、目を覚ますことがほとんどない。


もしかしてこのまま、と、重清は時々、不安になることがある。


「今度は、おじいさまと2人で来なよ。そのときは、今よりサービスしてやるから。」

と、よしえ姉さんは笑顔で重清に声をかける。


「おう!でも、これ以上のサービスなんで、もうタダにしてくれるくらいしかないんじゃねーの?」

と、無理矢理つくった笑顔で重清は答える。


「そうだね。」

と、笑って、よしえ姉さんはカウンターへと戻る。


「シゲのおじいさんは、まだ?」

「うん、ずっと寝てる。そうだ!ソウ、今日は早めにここ出ていい?」

「それは構わないけど、どうかしたの?」

「どうせだったら、じいちゃんにも砂糖の入った本場のエスプレッソ、お土産に持っていってやりたいんだ!」


重清の言葉に、聡太は笑顔で答える。

「それいいかもね!もしかしたら、あまりの驚きに目が覚めちゃうかもよ?」

「いや、じいちゃんの場合は絶対、『そんなことわかっとる!』とか言い訳しそうだよ。」

と、重清も笑って答える。


その後2人は、小声でこれからの忍者部での活動の予想などをはなしてから、席をたつ。


「あら、今日はもう帰るのかい?」

カウンターのよしえ姉さんは、2人に声をかける。

「うん!これから、じいちゃん家に行こうと思って!よしえ姉さん、さっきのエスプレッソ、テイクアウトできる?」

「あら、あれだけ苦そうにしてたのに、まだ飲むつもり?」

「違うよ!じいちゃんに、本場のエスプレッソをお土産に持っていくんだ!」

「そういうことか。ちょっと待ってて。」


そういってよしえ姉さんは、エスプレッソを準備する。


「はい、お待たせ。これはサービスにしとくから、早くおじいさまのとこ行ってやりな!」

「いいの!?」

「いいから、ほら行った行った!」

「よしえ姉さん、ありがとう!じゃぁ、ありがたくもらっていくね!また明日来るね!ソウ、おれこのままじいちゃん家向かうな。明日から、頑張ろうな!」

重清は、そう言って店を飛び出していく。


「まったく、あいつはいつもバタバタと・・・」

よしえ姉さんがあきれ顔で出ていく重清を見送る。

「なんか、いつもすみません。」

聡太が苦笑いしながらよしえ姉さんに謝る。


「いや、ソウちゃんが謝ることじゃないから。あいつがあんなんなのは、今に始まったことじゃないからね。ま、長い付き合いなんだし、もう慣れたよ。ま、それ言うんだったらソウちゃんのほうが付き合い長いか。」


そう言って、2人でひとしきり笑ってから、聡太も帰路につく。

(さて、今日は本当にいろいろあったけど、明日からももっといろいろ起きそうだな~。まったく、どうなることやら。でもまぁ、シゲがいてくれたら、きっとなんとかなるよね。でも、僕なんかが忍者としてやっていけるのかな。不安だな。)

そう、明日から起こるであろう何かに不安を抱きつつ。

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