第134話:少女の独白 後編

重清君に近づけって言われて、初めは嫌でした。

人を騙すことなんか、したことなかったから。

でも、やっているうちに、楽しくなってきちゃいました。

最初の頃は、ただ重清君と過ごす時間が楽しかったんです。

忍者部では人に気を遣う毎日だった。

でも、重清君との時間は全然そんなことなくて、なんていうか、素の自分でいられた、みたいな。

小学生のときにこれだけ重清と仲良かったら、あの時の告白の答えも変わってたかも?とか、思っちゃってました。


でも徐々に、私の中に最低な感情が生まれてきました。


重清君とのことを忍者部で報告すると、皆さん喜んでくれたんです。

皆さんといっても、麻耶先輩とトクさんには言っちゃダメって言われてましたけど。

でも、他の皆さんは喜んでくれて、私に期待してくれました。

あー、私、人の役に立ててるって、嬉しくなっちゃいました。

そうしたら、重清君を騙すこと自体が楽しくなってきました。


中忍体の前日、重清が翌日に話したいことがあるって言ってきました。

あー、告白するつもりかなぁと思いながら私は、重清君を小馬鹿にしていたと思います。


最低ですよね、私。



中忍体の当日は私、ずっと隠れていました。

ロキ先生から教えてもらったもう1つの術、隠密の術で。

そして、重清君に術をかけるタイミングを見計らっていました。


やっとかけられたと思ったら重清君、途中で私の魔性の術を破ったんです。

それ自体は、一応準備はしてたからいいんです。

でも、術を破った重清君は、私に笑いかけたんです。


私、術をかける前に重清君に言ったんです。

忍者部のみんなにいじめられてるって。

一時期バカにされてたから、全部が嘘じゃないんですけどね。


でも、それを覚えていた重清君は、私がいじめられてなくてよかったって、笑ったんです。


私、訳がわかりませんでした。

だって、直前まで自分を操っていた人のことなんて、普通心配します?


でも、重清君は本当に笑ってそう言ったんです。

私何故かその時、重清君と公園で楽しくお喋りしていた時のことを、思い出しちゃいました。


それでもなんとか気を取り直して、私は具現獣のカーちゃんを具現化して、2中の校旗を1中の陣地まで運んでもらいました。


そして、私の活躍のお陰で、1中は勝つことが出来ました。

中忍体に勝てたことで、皆さん喜んでくれましたが、麻耶先輩だけは違いました。

初めて、麻耶先輩に怒られたと思います。


でも、きっとそうなるのかもなぁっていう予想はしていました。

それでも、麻耶先輩は怖かったんですけどね。


そんなとき、あのアカって子が、いきなり私にビンタしてきました。

凄く痛かった。

その後その子は、『女を武器になんてしない。誰よりも強くなる』って、宣言していました。


正直、なんか嫉妬しちゃいました。

私は忍者部に入って、いえ、これまで生きてきて、大した目標なんか持ってませんでした。

でもあの子は、あの場で目標を見つけた。


私のお陰で。


人の役に立ったはずなのに、嬉しくはありませんでした。


その後アカって子は、麻耶先輩と仲良くなってました。

私だって、そんなに仲良くなってないのに、会ったばっかりのあの子は、すぐに麻耶先輩と打ち解けていたんです。


私のお陰で中忍体に勝てたのに、何で麻耶先輩は私の事を褒めてくれないんでしょうか。


なんかもう、何も考えられなくなってしまってました。


実は、その後の事はよく覚えてないんです。

気付いたらロキ先生が解散、って言ってるところあたりからしか覚えていません。

多分、ずっとぼ〜っとしていたんだと思います。


でも結局私、その後も家に帰る道すがら、ぼ〜っとしてました。


そして気が付いたら、あの公園にいたんです。

前の日に重清君と約束したあの公園に。


何でなんでしょう。

私、何を期待しているのでしょうか。


あんな事をしたあとで、重清君が来るはずもないのに。

私、重清君に来て欲しいと思ってるんですかね?


そして今、私はその公園のベンチに座っています。

来るわけもない重清君を待って。

もしも来たら、私の方から告白しちゃうかも。

でもその前に、謝ったほうがいいんですかね?


そんな事を考えていたら、公園の脇をあの子が走っていました。

私にビンタした、あのアカって子が。

私よりも麻耶先輩と仲良くなっていたあの子が。


そしたらあの子、私の存在に気付いたみたい。

突然嬉しそうな顔をして、スマホを取り出しています。


きっと、重清君に連絡をしようとしてくれてるんだと思います。

そうしたら、重清君はきっと来てくれる。

そうしたら、今度こそ、重清君の想いに応えられる。


でもそう思ったら、すっごく嫌な気持ちになりました。


あのアカって子のお陰で、重清君と付き合える?


そんなの、嫌。


その時、あの子がこっちを見たんです。

私、電話して欲しくないって思って、首を横に振りました。

その想いが伝わったのか、あの子はそのままスマホを持った手を下げて、そのまま行ってしまいました。


これで、良かったんでしょうか。

もう、なにもわかりません。


結局、重清君は来てくれませんでした。


忍者になんか、ならなければ良かった。

忍者にならなければ、こんな想いをしなくて済んだのに。

好きになってしまった人を騙して、傷つけて、それでも待つことなんて無かったのに。



忍者なんて、この世から居なくなってしまえばいいのに。



---あとがき---


次回更新は明日18時です!

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