第133話:少女の独白 前編

私は、普通の女の子です。


勉強はそれなり。

スポーツは苦手だけど、女の子だから許容範囲だと思います。

友達もそれなりにいるし、先生から怒られたこともありません。


私は、普通の女の子です。

いえ、でしたと言うべきでしょうか。


中学に入学して、私の普通の生活は、音を立てて崩れていきました。

こんな表現をすると、悪いことが起きたみたいになっちゃいますね。

別に、そういうわけではないんですよ?


実は私、忍者になりました。


・・・・・信じてもらえませんよね?でも、事実なんです。


入学式当日の放課後、友達はみんな運動部の見学に行きました。

私は、スポーツが苦手だからみんなにはついて行かず、どうしようかと迷いながら校内を歩いてました。


すると前の方から、茶色く染めた長髪をなびかせた、ダボダボのジャージの男の人が歩いて来ました。

あ、この人とは関わらないほうがいい。そう判断した私は、スッと道を空けるように隅に移動しました。


でもその人、移動した私の方に歩いて来て言ったんです。


「キミ、なんの部活に入ろうか迷ってそうなんだぜ。よかったら、ウチの部、入らないか?」


その瞬間私は思いました。絶対に嫌だと。

目の前の人物が何者かはわかりませんでしたけど、それでも、あんな人が誘ってくる部活なんて、ろくでもないものだろうと思ったんです。

でも、すぐに断るのも怖いので、私は敢えて聞きました。


「部活って、何部なんですか?」

「社会科研究部なんだぜ!」

そう言ってその人は親指を立てていました。

私は、それはもう驚きましたね。だって、あんな見た目で『社会科研究部』なんですよ?

もう、見た目とのギャップがありすぎます。


でも、社会科研究部だったら、まず運動することは無いと思った私は、結局その人について部室に行くことにしました。

一応、いつでも逃げられるように構えながら、ですけど。

だって、そう言って誘い出されて、襲われたくなんてなかったですからね。


図書室の中にある個室に入ると、そこにはもう何人か人がいました。

どうやら、これから説明会があるみたいです。


そこで私は、更に驚きました。

あのダボダボジャージの茶髪の人、社会科研究部の顧問の先生だったんです。あんな格好でも、先生ってやっていけるんですね。


神田先生、あ、ダボダボジャージの人、神田先生っていうんですけど、神田先生が説明をしていると、途中でどんどん人が出ていきました。


先生の話の途中で出ていくなんて、失礼じゃないですかね?

そう思ってその場に留まっていたら、結局残ったのは私ともうひとりの男の子だけになりました。


その時、神田先生が言ったんです。

ここは本当は、忍者部なんだぜ、って。

初めは、この人何言ってるんだろうって思いました。

でも結局、それは本当でした。


私は、その日から忍者になりました。


それからの日々は、必死でした。

運動の苦手な私は、一生懸命修行して、みんなに追いつこうと頑張りました。

でも、なかなかうまくいかなくて、みんな私を影でバカにするようになっていました。


あっ、でも、麻耶先輩は、そんな私に、いつも優しく指導してくれました。

麻耶先輩は3年生で、忍者部の部長なんです。


みんな忍名(忍者としての名前を、忍名、って言うんです。)が風魔なのに、麻耶先輩だけは雑賀なんです。


その麻耶先輩とよく一緒にいるのが、トクさん。

喋り方が凄く独特だけど、トクさんも、私の悪口は言ってなさそうでした。

麻耶先輩のことを褒めると、自分のことのように喜んでる人なんですよ。

でも、麻耶先輩の事を女性として好き、ってわけではなさそうなんです。これはまぁ、女の勘なんですけどね。


問題なのはそれ以外の3人でした。

だから私は、必死になってご機嫌を取っていました。


イチさんは、麻耶先輩の事が好きみたいでした。

逆に、それ以外の女の人には興味がないみたいで、私のことも使えない後輩としか思ってないみたいでした。

だから、麻耶先輩が好きなものとか、気になっている物なんかを、教えてあげました。

でも、きっと麻耶先輩がイチさんに振り向くことはないと思います。


ヒロさんは、見た目は綺麗なのに、性格がすごく悪いんです。

でも、そうも言っていられないから私、毎日ヒロさんは綺麗だって褒めました。新しい髪型にしても褒めるし、新しいアクセサリーつけてても褒める。

毎日、褒めなきゃいけないところを探すの、大変でした。


カツは、私と同じ1年生でした。

なんか、ヒロさんを校内で見かけて一目惚れして、社会科研究部に入ったみたいでした。

だからカツには、カツの良いところをヒロさんに伝えるって、事あるごとに言ってました。

実際には、伝えないんですけどね。

どうせヒロさんは、そんなことに興味ないから。


そうやって毎日、バカみたいに人に気を遣って過ごしていると、いつだったか話の流れで私、ロキ先生(神田先生の忍名、風魔ロキって言うんです)に、小学校の頃に告白された話をしたんです。


最初はロキ先生も、普通に聞いてたんですけど、告白してきた人のことを言ったら、急に目の色を変えたんです。

ロキ先生が言うには、重清君(あ、私に告白してきた人です)も、忍者らしいんです。


それからロキ先生は私に、魔性の術っていう術を教えてくれました。

それで、中忍体(中学生の忍術の大会のことです)で重清君にその術をかけるために、重清君に近づいて、仲良くなれって言われたんです。



---あとがき---


次回更新は明日19時です!

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