第278話:甲賀ケン 対 風魔イチ

イチは、逆手に持ったナイフをケンへと振った。


ケンがそのナイフを刀で受け止めると、


「甘ぇんだよっ!」

イチはそう言いながら、もう1つのナイフをケンへと突き刺した、かに思えた次の瞬間。


(木壁の術)


イチとケンの間にケンの背丈程の木の壁が出現し、イチのナイフを受け止めた。


「ちっ」

イチは、ナイフの突き刺さった小さな木の壁に舌打ちをし、突き刺さったナイフを手放してその手に白い忍力を集中させた。


「こんなもんで、俺を止められるかぁっ!!」

イチは忍力を纏う拳で、そのまま木の壁を殴りつけた。


「てめぇの術なんかなぁ!俺の麻耶に対する愛の前じゃ、無力なんだよっ!!!」

イチは、霧散していく木の壁の向こうにいるケンへと指をさして叫んだ。


「って居ねぇ!?」

指の先に誰もいない事に、驚きと若干の恥ずかしさを感じながら辺りを見回した。


「中学生で愛は、ちょっと重い」

イチの背後から現れたケンは、そう言ってイチの肩へと触れ、術を発動した。


木縛もくばくの術)


それと同時にイチの足元から蔓が出現し、そのままイチの全身をぐるぐる巻に縛っていった。


「だから、こんなもんで俺は止まられねぇって、言ってんだろうかぁっ!!」

イチは怒りの形相で全身から金の忍力を放出し、己の身を包んでいた蔓をバラバラに解いた。


しかしケンは、それを待っていたかのように再び術を使った。


火縛かばくの術)


ケンの術によって現れた小さな火の蛇は、イチがバラバラに解いた蔓が霧散する直前にそれらを飲み込み、見る見る間に大蛇となってイチへと巻き付いた。


「いい加減にしやがれ!てめぇと俺じゃ、忍力の相性が悪ぃんだよっ!!」


イチはそう言いながら、青い水の忍力を放出し、その身に纏って火の蛇から身を守り、同時に蛇の頭を握り潰して大蛇を葬り去った。



そう。イチの言うことも間違ってはいない。


イチは現在、金と水の忍力を持っている。

対してケンが使えるのは木と火の忍力であった。


ケンの木に対してはイチの金が、火に対しては水が、それぞれ相剋そうこくの関係となっており、それだけを見るとケンの方が不利であるように思えた。


しかしイチはこの時、興奮のあまり忘れていた。


忍力のもう1つの関係のことを。


イチから溢れ出る忍力を見たケンは、ニヤリと笑って再び術を発動する。


(木縛の術)


再び足元から現れ始めた蔓を見たイチは、


「だからそんなもん効かねえって―――」

そういった所で、息を呑んだ。


イチの足元からの現れた蔓は、イチから溢れ出る水の忍力をまたたく間に吸収していき、巨大な大木となってイチを飲み込んでいった。


忍力のもう1つの関係、相生そうせいである。


水は木を生む。

この言葉通り、ケンの木縛の術はイチの水の忍力を吸収し、普段とは桁違いの術へと変貌を遂げたのである。


もちろん、いくら相生の関係であったとしても、そう簡単にこうも相手の忍力を吸収することなどはできない。


日々の修行により、ケンの術の練度が、イチの力を大きく上回っているからこそ出来る芸当なのである。



さながら人面樹のごとく、顔だけを大木から覗かせたイチは、身動きも取れずケンを睨みつけていた。


「クソっ!こんなの、俺の金の忍力で!!」

そう言いながらイチは、全身に金の忍力を集中させる。


しかし、いくらイチが忍力を込めようとも、彼の体を包む大木は、びくともしなかった。


「なんでだよっ!!何で木の術が、金の力で破れねえんだよっ!!」

イチはただ、そう叫んだ。


「お前の負け」

大木から覗かせるイチの顔に、ケンが言い放った。


「こんなヤツのせいで、麻耶を諦めてたまるかぁーーーっ!!」

ケンの言葉に、怒りとも失望ともとれる感情を抱きながら、イチはこれまでにない程の忍力を放出した。


すると、先程までびくともしなかった大木に、ヒビが入り始める。


次の瞬間には、大量の忍力を放ったイチを中心に、大木が盛大に爆散した。



「キャァっ!」

辺りに飛び散った大木の破片が、離れて見ていたヒロへと向かって飛んできた。


ヒロは完全に観戦モードであったこともあり、その破片に反応することもできずただ悲鳴を上げていた。


「ヒロさんっ!」

同じくイチとケンの男の闘いに見入っていたカツもまた、そんなヒロに声をかけることしか出来なかった。


その時、木の破片とヒロの間に、厳つい1人の男が立ちはだかった。


「大丈夫か?」

破片をその背に受けたゴリラ、ノブはヒロへと声をかけた。


「え、えぇ。ありがとう」

ヒロは、戸惑いの表情を浮かべながらも、ノブへと返すのであった。

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