第356話:雑賀重清&ロイ 対 伊賀恒久&甲賀アカ その2

「いくぞ、ロイ!」

「ほいほい」


雷纏らいてんの術』で青いいかずちを帯びた重清の言葉に、どこか呑気な声のロイが答えた。


「へっ。とうやらソウは、こっちに手を貸せる余裕がないみたいだな」

対する恒久は『雷速らいそくの術』を発動しながら、ソウをチラリと見てアカへと声をかけた。


「相手がチーノちゃんだからね。あ、あとプレッソもか。とにかく、わたし達でやるしかないわね」

アカは『炎拳えんけんの術』で炎を纏わせた両拳を突き合わせながらそう答え、重清とロイに目を向けていた。



「「「じゃ、いくぞ(わよ)!」」」


3人の声が重なり、それと同時に動き出した。


(武具分身の術っ!)

自身の武具である手裏剣を投げながら恒久が術を発動すると、恒久の手から離れた手裏剣はみるみると分裂していき、重清を四方から襲った。


「ほっほっ、甘いわ」

ロイは笑いながらそう言うと、瞬く間に重清を取り囲む手裏剣を叩き落としていき、


「ほれ重清。そちらにもいっておるぞ」

そう、重清へと声をかけた。


「はいはい、わざわざ残してくれてありがとさんっ!」

ロイが打ち漏らした手裏剣を避けながら、重清はロイへと返した。


「無駄話してる余裕なんてあるのかしら!?」

そんな重清に、アカはそう言って襲いかかった。


「うぉっと」

重清は襲いかかるアカの拳を避け、


(やべぇ。アカの炎拳はやべぇ。そもそも忍力の相性がやべぇ)

心の中で『やべぇ』を連呼していた。


(そろそろ重清も、水の忍力を使えてもおかしくはないのだがのぉ)

そんな重清の心の呟きに、ロイが直接重清の頭の中に語りかけた。


(いやぁ、なんか全然イメージが湧かなくってさぁ。金属が水を生み出すなんて)

重清はアカの拳と恒久の手裏剣、時々『土穴どけつの術』を避けながら、ロイへと返していた。


「まったく!相変わらずちょこまかと!!」

そんな重清に苛つきながら叫ぶアカの言葉に、


「いや、あいつめちゃくちゃ悪者っぽいな」

恒久はボソリとつっこんでいた。


(ふむ・・・・金の力から水の力を生み出すイメージは、雅ちゃんから習ったのであったのぅ。

雅ちゃんは何と言うておったのだ?)

(なんか、金属をギューってしたら金属の周りに水が付くとかなんとか)


(んなわけあるかいっ!!)

重清の説明を聞いたロイは、たまらずつっこんでいた。


(まったく。これが天才の弊害か?雅ちゃん、人に教えるのは絶望的にひどいのぉ)

(でも、ノブさんは最終的に理解してたよ?)


(あのゴリラも、感覚派なんじゃろ)

(まぁ、あぁ見えてノブさん、結構繊細なとこもあるからね)

重清はなおもアカと恒久の猛攻を避けつつ、先輩に対して失礼なことをロイへと返していた。


(よし、重清。一度雅ちゃんの言ったことは忘れよ)

(お、ロイ師匠が教えてくれんの?)


(まぁ、雅ちゃんよりは分かりやすく教えてやるわ。

重清、想像せよ。今は真夏だ)

(いや、まだ夏と言うには早い気が―――)


(だから想像じゃと言うとるじゃろうが)

(へいへい。想像したよ?暑いなぁ〜って熱っ!アカの炎が掠った!)


(今は避ける事に集中しながら話を聞くのだぞ。

今は真夏。そして冷蔵庫には、キンキンに冷えたビール―――)

(いや、おれビールは飲みませんけど?)


(ジュルリ。あ、すまん。キンキンに冷えたジュースじゃ。ペットボトルに入った、な)

(心の中の会話でも、『ジュルリ』って聞こえるのな)


(余計な事は言わんでよい!)

(いや、今のはロイのせいじゃね?)


(やかましいわ!ってお主のせいで脱線ばかりじゃないか。話を戻すぞ。

重清、冷蔵庫からそのジュースを出して外に出てみよ。ペットボトルはどうなった?)

(あー、なんか周りに水がつくよね、そういうとき)


(そうじゃろう?それがもし、キンキンに冷えた金属ならばどうなると思う?)

(そりゃ同じように、周りに水が・・・・あ)


(分かったようじゃな。それが、凝結と呼ばれる現象じゃ。冷えた金属に触れた空気中の水分が固まり、水となったのだ)

(ロイ・・・・)


(なんじゃ?)

(今の説明、ばあちゃんと比べるのが失礼なくらい分かりやすかった!)


(ほっほっほ。それは良かったわい。今のイメージを持って、忍力を練ってみよ。その間だけ、あの2人の攻撃は全て儂が防いでやるわ)

(この会話中、全部防いでくれればよかったのに)


(それじゃお主の―――)

(修行にならない、でしょ?わかってるって。言ってみただけ。じゃ、おれちょっと集中するから、ツネとアカのことよろしくっ!)


重清はロイへとそう返すと、アカの拳を避け、その場を離れた。


「逃さないわよっ!」

そう言って重清を追おうとするアカの前に、ロイが立ち塞がった。


「すまんのう。しばしの間、儂が相手をしよう。集中力のない御主人様が、ちと集中したいようなのでな」

ロイそう言いながら、恒久の放った手裏剣をその甲羅で防ぎ、2人を睨みつけた。

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