第37話:恒久の修行

「おれを指導するつもりがないって、どういうことですか!?」

忍者部の森のとある一画で、恒久の声が鳴り響く。


4人がそれぞれバラバラに別れてすぐのことだった。


修行のための指導者としてつけられたはずのケンから、

「お前には、特に指導するつもりはない。」

そう第一声言われ、訳も分からずそうケンに対して怒鳴ったのであった。


「あー、言い方悪かった。別にやる気が無いわけじゃない。恒久は、4人の中で一番力の使い方が上手い。

あとは、忍術の使い方。だから、お前は理論じゃなくて実践あるのみ。だから、さっさとかかってこい。」


力の使い方が上手いと言われ、照れながら恒久が頷いて言い返す。

「そ、そういうことなら分かりましたけど!じゃぁ、早速、行きますよ!」

恒久がそう言うと、ケンは刀を具現化しながら後方へと跳び、恒久と距離を取る。


「まずは、お前からかかってこい。」

そう言ってケンが手招きをする。

その立ち振る舞いに苛つきを覚えた恒久は、手裏剣を具現化してケンへと投げる。

「武具分身の術!」

そして、術を発動させる。


四つの手裏剣がケンを襲うも、ノブと同様ケンも、そのうちの一つを刀で弾き、それによって分身した手裏剣も霧散する。


「相手の見ている所で分身させても、無駄。どれが本物かすぐわかる。その使い方するなら、せめて分身にも実体もたせないと。それに、術の名前を口に出すのも良くない。相手に何してるかバレる。」

「こういうときはよく喋るんです、ねっ!」

そう言って恒久は、刀を出現させ、ケンへと向かって行く。


「せっかくアドバイスしてるのに、失礼なヤツ。」

少し不機嫌な顔をしながら、ケンが恒久の攻撃を受けるために刀を構える。

「っ!?」

しかし恒久の振り下ろした刀は、ケンの刀をすり抜けて、ケンの腕を斬りつける。


腕を切りつけられたケンは、それでも自身の刀を落とすことなく、恒久と距離を取るためになんとか後方へと下がる。


恒久と離れたケンが、切りつけられた腕に目をやると、そこには傷の類はなく、先程感じたはずの痛みも既に無くなっていた。

「なるほど、それが幻刀の術ってやつか。実体のない刀。しかも斬られれば痛みを感じる。痛みはそんなに長く続かないようだが。」

ケンとの距離が開いたことで、一度体勢を整えていた恒久が、その言葉を聞いて拗ねたような表情を浮かべる。


「今のでそこまでわかっちゃうんですね。その通りですよ。本当は、痛みの長さはもっと長いし、例えば腕をぶった切ったら、一生その腕を使えなくすることもできるらしいんですけどね。今のおれの力では2秒くらいしか痛みを与えられないみたいです。それでも、当たりどころによっては気絶くらいさせられるんですよ?」


「なるほどな。それは怖い。で、もう終わるのか?」

怖いと言いながら、決してそう思っているとは感じられない様な表情でそう聞いてくるケンに、またしても苛ついた恒久は、声を上げる。

「もう一回だっ!」

「ふっ。言葉使いが素になってるぞ。まぁいい、次はおれの方からいく・・・っ!?」


ケンがそう言っている間に、ケンの足元に穴が空き、30センチ程ケンの体が沈む。

その一瞬ケンが恒久から目を離した隙に、既に元いた場所に恒久の姿はなく、恒久のいたはずの場所から複数の手裏剣が飛んでくる。

「少しは使い方がマシになったか。が、甘い!」

そう呟いてケンが、飛んでくる手裏剣の一つを弾く。

しかし、他の手裏剣が霧散することはなく、そのまま手裏剣がケンの手足へとヒットする。

「チッ!分身の実体化、できたのかよ。最初のはフェイクだったわけか?」


刺さらないよう調整された手裏剣ではあったが、それでも当たれば鈍痛を与える。

そんな攻撃を受けてなお、特に気にすることもなくケンはそう呟いて上を見上げる。


そこには、幻刀の術で発現させた刀を振りかぶる恒久の姿があった。

そのままケンは、先程と同じ様に刀を構え、恒久の攻撃を受けようとする。


先程の攻撃で通用しなかった防御を繰り返すケンを見て勝ちを確信した恒久は、

「これで終わりだぁっ!」

と、ケンに剣を振り下ろす。

再び、恒久の刀はケンの刀を通り抜け・・・

「ガキィン」

「は?」

通り抜けることなく、ケンは恒久の攻撃を防ぐ。

何故防がれたのかもわからない恒久は、その瞬間呆気にとられ、

「ぐっ!」

そのまま繰り出されたケンの回し蹴りが腹部へとヒットし、その勢いで後方へと飛ばされる。


なんとかその衝撃に両足で踏ん張った恒久であったが、腹部に入ったダメージにはやはり耐えきれず、そのまま顔面から地面に倒れそうになり、なんとかそれを両手で押し留める。


直後、その両手に蔓が巻き付き、同時に足も蔓によって拘束されてしまう。

そして恒久が気付いた時には、首筋にケンの刀が突きつけられていた。


「しゅ~りょ~」

そんな間延びした声が、恒久の心にまで響く。


「な、なんであれを防げるんですか!?」

両手足の拘束を解かれ、腹部のダメージからまだ回復しきれていない恒久が、腹を押えて立ち上がりながらケンに叫ぶ。


「自分で考えろ。ヒント、おれは一度見てお前の術の特性を大体は理解した。そして、術の名前も知っていた。」


「???」

ケンの言うことに戸惑う恒久の頭に、ハテナマークが並ぶのを見たケンが続ける。

「明日までの宿題な。それとお前、土穴の術がどれくらいの深さの穴作るか、事前に確認したか?」

「へ?いや、してないですね。」

「確認しておけ。自分の忍術の特性や長所、短所を正確に把握する努力をしろ。その上で、どう使うかを考えろ。」


「・・・わかりました。その短所ってのに、さっき幻刀の術を防がれた理由があるんですね。」

「そういうこと。」


その言葉を聞いた恒久は、腹部のダメージもあってそのまま仰向けに寝転がる。

「はぁー!勝てると思ったのになぁーー!先輩たちって、みんなこんなに強いんですか!?」

先程までのケンへの苛つきも忘れ、恒久がケンに尋ねる。


「まぁ、それなりに。多分おれより、シンの方が強い。ノブとおれなら、おれが勝つ。」

「えっ!?ってことは、おれがボロ負けしたノブさんって、先輩たちの中では一番弱いんですか!?」

「いや、そんなことはない。シンとノブなら、ノブの方が勝率は高い。」

「うまいことできてるんすね。」

「だろ?」

そう言って、ケンが笑う。


「ケンさん、とっつきにくいと思ってたけど、話してみると結構喋りますよね?」

恒久が、ニシシと笑って言うと、

「おれは人見知りが激しいだけ。お前の方こそ、段々話し方が雑になってるぞ。」

「あ、すみません!」

「いや、そっちの方がお前らしいぞ?古賀先生以外には、そんな話し方でいいと思う。」

「ケンさんから、話し方の指導受けるとは思わなかったわー。」

「うるせぇ!」

そう言ってケンは、刀の柄で軽く恒久の腹を小突く。


「ちょ、今お腹はやめてくださいよっ!ってか、武具でのツッコミはだめでしょ!!」

そんな恒久にふっと笑ってケンは、

「どうする?もう一戦するか?」

「いやその前に、さっきケンさんに言われた様に、一度自分の忍術を確認し直します!」

「いい心がけだ。」

「はいっ!」

そう言って笑った恒久は、自身の忍術の確認を始めるのであった。

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