第76話:新たな具現獣

孤独と戦うノブを差し置いて、騒ぐ重清とプレッソの頭に、雅の拳が振り下ろされる。


「あー、もう!うるさいよっ!ちゃんと説明してやるから、少し黙りな!」

その光景を見ていた白猫は、ただ微笑んでいた。


「さっきも言った通り、シロは元々、あの人の具現獣だった。それはいいかい?」

「それはわかったけど・・・じいちゃんはもう死んじゃったじゃん?具現獣って、具現化した忍者がいなくなっても、生きていけるの??」

重清が、プレッソに目を向けながらそう尋ねると、プレッソもそこは気になったようで、未だに頭を抑えながら雅み見つめる。


「じゃぁまずはそこから説明してやろうかね。」

そう言って、雅はシロに目を向ける。


「普通具現獣は、具現化した忍者が死ぬと、消滅する。」

「じゃぁ、なんでこいつは・・・」

雅の言葉にショックを受けながらも、プレッソが続きを求めるように言葉を止める。


「普通は、って言っただろう?具現獣はね、別の忍者と契約を結ぶことで、その忍者の具現獣となり、生き続けることができるのさ。」

「はぁ!?具現獣、不死身じゃん!!」

重清が叫ぶ。


「まぁ、寿命って意味ではね。でもね、具現獣だって戦いの中で傷を負えば、それが元で死ぬこともあるし、敢えて新しい契約を結ばずに、具現者と共に死を選ぶ者もいるんだ。こいつみたいにね。」

雅はそう言って、シロに目を向ける。

シロは、それにただ笑って頷いていた。


「え?じゃぁこいつはなんで・・・」

重清が目の前の白猫を見て呟く。


「シロは確かに、あの人と死ぬことを選んだ。でもね、あの人はそれを許さなかった。だからあの人は、生前シロに術をかけたのさ。与えた忍力が続くまで生き続けられる、そんな術をね。そして、シロに頼んだのさ。『重清と、契約してやってくれ』ってね。まぁこいつは、最後の最後まで嫌がっていたけどね。」


「だって、平八以外の女になるなんて、嫌じゃない。」

シロが、不貞腐れたようにそう呟く。


「あたしも、もう諦めていたさ。それなのに、どうして急に気が変わったんだい?」

雅が不思議そうにシロを見つめる。


「だって、『お前はおれが守る!』なんて言われちゃったら、ねぇ?」

そう言ってシロは、重清に目を向ける。


「お、おれ、そんなこと言ったっけ??」

重清が顔を赤らめて頬をかいていると、

「まぁ正確には、『エロ姉ちゃんは、おれが守ってやる!!』だったけどね。まったく、『エロ姉ちゃん』って、失礼じゃない?」

シロが、怒ったように重清を見つめる。


「あー、そこ声に出ちゃってたか~。シロ、さん?ごめんなさい!」

そう言って重清がシロに頭を下げる。


「まぁ、私もあんな格好していたんだから、しょうがないんだけどね。」

そう言ってシロが微笑む。


「そうだわ重清、ひとつお願いがあるの。」

そう思いついたように重清を見つめるシロ。


「私に、新しい名前をくれないかしら?」


「新しい、名前??」

「えぇ。昔の男が付けた名前なんて、未練がましいじゃない?」

そう言って微笑むシロ。


「昔の男って、あんたねぇ。人の旦那捕まえて何言ってくれてるんだい?」

雅から、殺気が放たれる。

「あら、変な意味なんかじゃないわよ?」

シロが面白そうにそう言って笑うと、雅は呆れたようにため息をつく。


「それで、私にどんな名前を付けてくれるのかしら?」

そう言われて重清は、改めて目の前の白猫を見る。

全身白く、綺麗な毛並み。尾だけが黒くなっているそんな姿。


「よし!今日からお前の名前は、『チーノ』だ!」

「こりゃまた、忍者の具現獣っぽくない名前を・・・」

雅が笑ってつぶやく。


「お前それも、コーヒー関連かよ?」

プレッソの呆れた声に、

「もちろん!白くてミルクみたいだけど、尻尾だけ黒いだろ?これって、プレッソを具現化させたおれの忍力の影響だろ?だから、エスプレッソとミルクで作る、カプチーノからとって、チーノ!」

どや顔で返す重清であった。

「チーノ。いい名前じゃない。重清、これからよろしくね?」

「おう!よろしくな、チーノ!」


そういってチーノに笑いかける重清に、プレッソが落胆するように呟く。

「はぁ~。こんな強いやつがいたら、オイラなんていらないじゃんか・・・」


「プレッソ、そのことなら安心しなさい。」

そうプレッソに声をかけたのは、チーノであった。

「ん?どういうことだ?」

「どうやら私、全ての力を、失っちゃったみたい。」


「「はぁ!?」」

重清とプレッソの声が重なる。


「やっぱり、そうなのかい。」

雅が、口を開く。


「ちょっ、ばあちゃん!どういうこと!?知ってたの!?」

「いや、知ってたわけじゃないけどさ。新しい忍者と契約しても、こんなことにはならないさ。まぁ、全ての力をそのまま引き継ぐってわけでもないけど、少なからずこれまで使えていた術は使えはずなのさ。普通はね。」

「じゃぁ、なんで・・・」


「シロ、じゃなくってチーノか。チーノは、重清との契約の直前、力を使い切っちまって、消滅する直前だったからね。それが原因なんだろうさ。」

「あの~~。」

重清が、手を挙げる。


「さっきから契約契約って言ってるけど、おれ、チーノと契約した記憶ないんですけど??」

「今更かよ!!でもまぁ、確かにな。」

プレッソがつっこむ。


「本当の今更だねぇ。具現獣との契約は、新たな契約者が忍力を与え、それを具現獣が受け入れることで締結されるんだよ。」

「あー。だったら、やっちゃってるね~。」

重清が納得したように頷く。


「と、とにかく!チーノは、さっきみたいな強さはなくなったんだな!?」

「そういうことみたいね。プレッソ兄さん、これからよろしくね??」

「に、兄さん!?」

プレッソが間の抜けた声を出す。


「だって、重清の具現獣って意味では、あなたの方が先でしょ?だから、お兄さんなのよ。」

「お、そうか・・・よ、よろしくな、チーノ!」

「えぇ。よろしくね。」



その和やかな雰囲気を遠くから眺めていたノブは思うのであった。


(結局、話の中に入っていけなかったな。)

と。





--------

誰も興味ないであろう裏話。


チーノの名前は、カプチーノでいくか、カフェラテで行くか迷いましたが、カフェラテだと「ラテ」くらいしか案がなく、そうなってしまうと娘が見ているアニメのキャラクターと被るため、チーノにしました。

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