第75話:重清対エロめのお姉さんの決着と、ある男の孤独

突然女に向かって走り出す重清に、プレッソが叫ぶ。


「なぁっ!重清!今のばあちゃんの声、聞こえてただろ!?行ってどうするんだよ!?」


「知らねーよ!しかもめちゃくちゃ怖いよ!でもな!おれは、全てを守るって決めたんだよっ!!!」

そう叫んで重清は、手に持ったマキネッタを雅の方へ放り投げて、鉄壁の術を発動し、火の玉から守るべく、盾を背に浮かべて、女に覆いかぶさる。


「ちょっとあんた!何してるのよ!早く逃げなさい!金の盾で、あれは止められないわっ!」

「熱っちぃ!うるさい!寿命だかなんだかしらないけど、こんなんで死ぬなんて、じいちゃんが許すはずないだろ!エロ姉ちゃんは、おれが守ってやる!!」


トクンッ。

女の心に、懐かしい鼓動が響く。


「あなたって子は・・・ごめん、雅、助けて?」

女が涙を浮かべてそう呟くと、

「言われるまでもないさ。孫を助けるのはばあちゃんの役目だからね。」

その声が聞こえた時には、火の玉は霧散していた。

重清達の近くで、ほとんど溶けてる鉄の盾が落ち、そのまま消滅する。


「あり、が・・・」

女がそう言葉にしていると、

「ボンッ」

と、女の体が霧散する。


「っ!?エロ姉ちゃん!?」

女に覆いかぶさっていた重清のが叫ぶと、その腕の中には1匹の白い老猫がいた。


「お、お前は。」

それは、重清の前に何度か現れた、あの老猫であった。


老猫は、その体が光り、少しずつ消えていく中、口を開く。

「雅、あの話、受けることにするわ。」

それは、先程までいた女の声であった。


「おや、どういう風のふき回し、って、そんな場合じゃないね。重清、そいつに、あんたの忍力をありったけ注ぎ込みな!」

「へ?な、なにを・・・」

「いいから!そいつを守りたいんだろ!」

「わ、わかったよっ!!」

わけも分からず、重清は雅に言われるままに老猫に自身の忍力を注ぎ込む。

ただ、女を、目の前の猫を助けたい一心で。


「っ!?」

すると、先程まで少しずつ存在が消えかかっていた老猫の体が光出し、あまりの眩さに重清は目を覆う。


その時、頭にいつもの重さを感じる。どうやらプレッソが頭に乗ってきたようで、

「おい重清、目を開けろ」

そう、重清に声をかけてくる。


その声に重清が目を開けると、目の前には先程同様、猫が寝そべっていた。

しかし、その様子は大きく変わっていた。

老いていたとはいえ、プレッソよりも一回り大きく、手足から尾の先まで白かったその姿は、今ではプレッソと同じくらいの大きさになり、尾だけが黒くなっていた。


「・・・どうやら、間に合ったようだね。」

いつの間にかかけていたサングラスを外しながら、雅がホッとしたように呟き、

「シロ。無事かい?」

白猫に対して優しく問いかける。


その声を聞いた白猫は、少しずつ目を開き、重清を見つめたあと、

「雅のお願い、聞くことになっちゃったわね。」

そう言って雅に目を向ける。


「まったく。始めからそうしてくれればいいものを。だいたいあんたはねぇ!」


「あのぉーーー。」

白猫に怒鳴り始める雅に、重清が手を挙げる。


「まーったく話が読めないんですけどー?こいつ、シロって言うの?え、さっきのエロ姉ちゃんは、シロが化けてたってこと?なんでちっちゃくなっちゃったの?ちょ、プレッソ、助けて!!」

「オイラに振るなよっ!オイラだって、訳わかってねーよっ!!」

相変わらずの掛け合いに呆れながらため息をつく雅が、シロと呼ばれた猫を指差して口を開く。


「こいつはシロ。あの人の、雑賀平八の具現獣だったのさ。さっきまではね。」

「さっきまでは??」

雅の言葉に、重清は首を傾げる。


「こいつはたった今から重清、あんたの具現獣になったのさ。」

「「はぁ!?」」


重清とプレッソが声を揃える。


「いやいやいや、え、マジで!?そりゃ、あれだけ強い具現獣だったら、ありがたいけどもっ!ってか、じいちゃん死んじゃったけど、具現獣ってそれでも生きていけるの!?」

「おいおいおい、あんな強いヤツが重清の具現獣になっちまったら、オイラの立場が無くなるじゃんか!重清!オイラを捨てないでおくれよーー!」



そんな混乱した光景を、離れた所から見ている男がいた。


男は、孤独を感じていた。

男は、その場にいることを後悔し始めていた。

そして男はこう考えていた。


(俺、完全に忘れられている。)

と。


我らがゴリラ、ノブは、雑賀家から完全に置いてけぼりにされていた。


先程まで重清と戦っていた女が、何故急に猫になったのか。

何故その猫が光出し、しかも直後にはちょっとちっちゃくなっていたのか。

そして何故、重清達があれほど騒ぎ始めたのか。


行くべきか、留まるべきか。


見た目とは裏腹に繊細な中学生であるノブは、判断に迷っていた。


『ゴリ』と呼ばれることに、全く抵抗が無いと言えば嘘になる。

それでもノブは、中学生としてはかなりガタイが良いにも関わらず、自身よりも一回り小さい老婆がそう呼ぶことを受け入れていた。

それは、相手が圧倒的強者であったからであることは否定出来ない。

それでもノリは今、雅からそう呼ばれたいと強く願っていた。

『ゴリや、あんたもこっちにおいで。』

そう、声をかけて欲しい、と。


しかし、自分の孫が大切な雅が、ノブに声をかけることはなく、彼はただ、その場でなんとなく、会話に聞き耳を立てるしかなかった。


こうしてまた1人、雑賀家の犠牲者が増えるのであった。

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