第74話:重清対エロめのお姉さん その3
「ふふふ。足まで震えさせて、可愛い。」
殺気に怯える重清を見て、女は馬鹿にしたように呟く。
「そんなに怯えてたら、守りたいものも守れないわよ?」
女はそう言うと、そのまま走り出す。
それを見た重清は必死に構えようとするも、うまく体を動かせないでいた。
その時、女が方向を変え、雅達の方へと向かい出す。
女が2人に近いていくと、突然2人周りが霧で包まれ、女はその霧の中へと姿を消した。
「う、うわぁーー!」
ノブの叫び声が辺りに響き渡る。
すると次第に、3人を囲んでいた霧が晴れていく。
そこには、ただ悠然と立つ女と、地に倒れた雅とノブの姿があった。
「ほら。あなたがビビっちゃってるから、2人を守れなかった。」
妖艶な笑みで冷たい視線を送ってそう言う女に、重清の中で何かが切れる。
「うわぁーーーー!」
重清の中から湧き出たのは、ビビっていた自分に対する怒り、2人を守れなかった悲しみ、そして女に対する憎しみ。
それらの感情が重清を突き動かす。
叫びながら重清は、先程まで動かなかった足で女へと走り出し、同時にマキネッタを女に向ける。
(ばあちゃん!ノブさん!!)
女にマキネッタを向けながらも、2人に視線を送る。
そこに映るのは、ただそこに倒れているノブの姿。
(あれ?)
「落ち着かないか!このバカが!!」
重清の目に映った光景に疑問を感じた直後、響き渡る声と共に巨大なハリセンが重清の目の前に現れ、
「バッシーーン」
重清を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた重清は、空中でなんとか体勢を立て直し、
「プレッソ!頼むっ!」
銃から猫へとプレッソを戻して、叫ぶ。
「オッケー!」
猫の姿へと戻ったプレッソは、心の力で足場の幻を作り出し、それを実体化させる。
そこへ重清とプレッソは着地し、それを何度か繰り返して地上へと降り立つ。
「ばあちゃん、無事だったんだね。」
重清が、雅に声をかける。
「あたしを誰だと思ってるんだい。ありゃ演技だよ、演技。ゴリ!あんたももういいよ!」
雅がそう叫ぶと、ノブがすっと立ち上がる。
「シゲ、すまなかったな!」
ノブが豪快に笑いながらそう叫ぶ。
重清はそれに笑顔で答えて、近づいてくる女に頭を下げる。
「ありがとうございました!」
突然の事にキョトンとした顔の女は、直ぐに笑みを浮かべて、
「お礼を言われるとは思わなかったわ。雅、この子本当にいい子ね。」
そう言って雅に目を向けた。
「そうだろ?だったら・・・」
「それとこれとは、話が別よ。」
雅の言葉を遮るように言い切る女に、雅は諦めたように、
「そうかい。」
そう言って、ノブの元へと歩いていく。
「さぁて、少しは殺気に慣れたかしら?」
「うーん。どうなんでしょう??」
「あなた今、自分の意志で動けたでしょう?あれだけの殺気の中で動かたんだから、少しは自信を持ちなさい。」
「やっぱりあれは、おれのためにやってくれたんですね。」
「あいつの可愛い孫だもの。少しは成長するのに協力してあげたかったのよ。」
そう言って微笑む女を見て重清は、
(やっぱり、エロ姉ちゃんの言ってる『あいつ』って・・・)
そう考えていた。
どうやら、重清の中で女は、『エロ姉ちゃん』で固定されたようである。
「どんなに力の弱い者でも、少しは殺気を放っているわ。これを感じ取ることかできれば、相手の攻撃を予測することすら可能になる。あとは、先程のように強い意志で、行動すればいい。」
「はいっ!」
女の言葉に、重清は強く頷く。
「ふふふ。いい返事ね。もう少し付き合ってあげたいけど、そろそろ私も限界が近いみたい。」
「えっ?」
重清が声を上げたときには、女は後方へと飛んでいた。
「いくわよ?」
女の言葉に反応し、重清は再び具現獣銃化の術を発動してマキネッタを手元に呼び寄せる。
「重清、大丈夫か?」
「ああ!さっきので、殺気に慣れてきた!あ、さっきの殺気。上手いこと言ってない?」
そう言ってドヤ顔する重清は、突然その場から離れる。
直後に、先程まで重清のいた地から岩の拳が突き上がる。
「おぉっ!さっきエロ姉ちゃんが言ってたのはこれか!少しだけど、さっきの殺気、感じたぞ!」
「しつけーよ!でも、オイラにも少し分かった!っ!?来るぞ!」
プレッソの叫びと同時に、重清は足元から突き上がるいくつもの拳を避けていく。
「あーもう!攻撃する余裕が無いっ!プレッソ、もう一回飛ぶぞ!」
「・・・りょーかいっ!」
「行くぞ!マキネッタ・カ型だっ!」
重清は岩の拳を避けながら叫び、光るマキネッタと共に空中へと飛び上がる。
「それはさっき、愚策だと言わなかった?」
「わかってるっ!」
先程同様、突如空中に現れた女のかすかな殺気に反応した重清はマキネッタを構えていた。
そして、引き金を引く。
「きゃぁっ!」
腹に3つの銃弾を受けた女は、そのまま風を切って吹き飛ばされる。
「やべっ!やりすぎたかな!?」
そう言って重清が、着地しながら心配そうに女に目を向けると、女はそのまま背から地面へと落下する。
「こんなに早く、対応できるなんてね。・・・それにしても、凄い威力だったわ。」
そう呟く女の口からは、血が流れていた。
咄嗟に金の力を全力で纏ったことで、腹自体の傷は大したことが無かった女も、近距離での3つの銃弾の威力を抑えることはできず、内部にダメージを受けていたのだ。
「もう、限界ね。」
そう呟く女は、
「雅。先にあいつの所に逝ってるわ。
・・・・・・・バイバイ。」
そう言って女は、空に手をかざす。
(最後は、あいつと、平八と一緒に最初に覚えたこの術で。)
女の頬を、一筋の涙が流れる。
女が手をかざした先に、直径10メートル程の火の玉が現れる。
火の玉は、そのまま女のいる地へと、ゆっくりと落下を始める。
先程流れた涙は、その熱ですぐに蒸発した。
「なぁっ!?雅さん!あれ、助けないんですか!?」
ノブが雅に叫ぶと、
「いいんだよ。あいつはもう、寿命なんだ。最後くらい、好きにさせてやるさ。
・・・・・・・バカが。」
最後にそう呟く雅。その目に涙が浮かんでいることに、ノブが気が付くことはなかった。
その時。
「エロ姉ちゃん!!」
重清が女に向かって走り出す。
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